ミッドウェー海戦11
5機の艦爆が太陽を背に急降下してきた。何発かは命中するだろう。僕がそう思った時、
「葵はレイが守る!」
「先輩はキュウが守るんです!」
叫び声が魔法通信から聞こえてきた。
ガガガガガガガガガ!
レイとキュウの射撃音だ。僕は艦橋の窓から敵機を見上げた。すると!
「――――――~~~~ッ!!!!」
それはゆっくりと見えた。レイとキュウは4機を降下しながら撃墜した。しかし、最後の1機が正に爆弾を投下しようとした瞬間!
「葵は! 命に代えてでも!!!」
レイは最後のSBDドーントレスに突撃していった。そして、
爆音が聞こえた、敵機がバラバラに四散する音と、そして、レイがそのまま落ちていくところが見えた。レイの胴体は半分に千切れていた。
「レ、レイィィィィ!?」
僕はうろたえた。そんな、レイがそんな、嘘だよね? 誰か嘘と言ってくれ!? だが、僕は見てしまった。最愛のレイを見間違えたりしない。でも、そんなの嘘…だ
「い、嫌だぁだああああああああああああああ!?」
僕はみっともなく泣き叫んだ。
僕が悪いんだ。僕が味方へレイ達の事を伝えなかったから。
僕だけ安全なところにいて、ただ、レイ達に危険な命令を出すだけだから。
レイは僕の事を恨んでいないのか? 僕だけ安全なところにいうのに?
レイはどんな気持ちで敵機に体当たりしたんだ? 僕を助ける為に?
レイは自分が死ぬことより僕の命を優先したのか?
嘘だよね? そんな事できる人いないよね? なのにレイは躊躇う事なく敵機に突っ込んだ。僕の為に! 僕は最低だ。愛する人も守れず、逆に守られて…僕は最低だ。
僕は艦橋で、泣き崩れた。誰も僕に声をかけなかった。ただ、次々と命令が下されていく。僕はその中で一人、取り残された。
午後4時25分空母天城は2回大爆発を起こし、ゆっくりとその巨体を水面に沈めて行った。
午後11時30分空母飛龍は駆逐艦巻雲の雷撃によって自沈処分となった。山口多門少将は飛龍加来艦長と共に運命を共にした。
6月6日午前1時50分に空母赤城に処分命令が下り、午前2時に第四駆逐隊の4隻、駆逐艦萩風、舞風、野分、嵐により自沈処分された。
誰も僕に声をかけない。飛行甲板では生き残った零戦と第二次攻撃隊の収容であくせくと怒声があがる。夜が近づき、時間がない。空母飛龍の母艦を失った機体は宿り木を求めて祥鳳に着艦する。機体を収納している時間は無い、着艦した機体は艦最後尾から投棄されていく。次々と機体が捨てられていく、最後の零戦が降りてきた。そして、着艦すると、その発動機栄21型は最後の咆哮をあげた。まるで、レイの死を悼むかの様に、仲間の死を悼むかの様に……
「……小隊長」
誰かが何時間ぶりに声をかけた。キュウだった。何で先輩と呼んでくれないんだ? キュウは僕を小隊長とだなんて呼んだ事はない。いつも先輩だった。僕を責めているのか? 無能な僕を? ああ、責めてくれ!? 僕は無能だ。他でもない僕が一番良くわかっている。誰か僕を責めてくれ。そうでないと僕はおかしくなりそうだ。罵ってくれ! お前は無能だと! そうだ、僕は無能だ!!!!!
「小隊長、九九式艦上爆撃機22型帰還しました」
「駆逐艦雪風改一帰還しました」
「軽巡洋艦夕張帰還しました」
三人は初めて僕に敬礼した。三人共真剣な顔だ。こんな彼女達は初めて見る。
「小隊長、レイ先輩は幸せでした。小隊長に愛されたのだから…」
「死んでしまったんだぞ! 幸せな訳がないだろう!? 死んだら終わりじゃないか…」
「小隊長、私達は女です。女の幸せはどれだけ愛されるかです。レイ先輩は小隊長に一番愛されました。レイ先輩だけが愛されました。だからレイ先輩は幸せだったのです」
「…そんな事信じられるか? 死んだのに幸せだっただなんて」
「レイ先輩に先を越されなければキュウが突っ込んでました…」
「ええっ?」
僕は思い出した。あの時の光景を…敵機に激突するレイとレイと同じく敵機に突っ込むキュウを…
「キ、キュウまで、僕の為に敵機に突っ込んでたのか?」
「キュウは小隊長を愛してます。小隊長の為なら、死にます」
「夕張も同じです。小隊長の為なら、命はいりません」
「ゆ、雪風も…」
僕は理解してきた。彼女ら擬人化兵器の事を、そうだ、僕は女神様に願ったのだ。魔法使いである召喚士となる事を…そして彼女ら義人化兵器はハーレム要員では無いか? 生まれた時から僕を好きになる様にプログラムされているのではなか? 僕の為に死んでもかまわないとプログラムされているのではないか? それは本当の愛なのか?
「キュウは初めて会った時から、僕の事が好きだったのか?」
「はい、キュウは初めてあった時から先輩が好きでした…」
「それはおかしいとは思わないのか? 初めて会った時からだなんて?」
「思いませんよ!? この気持ちは本物です。誰がなんと言おうがキュウは先輩を愛してます。先輩はキュウを馬鹿にするのですか? 擬人化兵器だから、人を愛せないと?」
「そんな事…そんな事はない。お前ら人間と同じだ。一緒に笑ったり、泣いたり、同じだよ」
キュウは僕に近づき、僕の頭を抱きしめてくれた。
「じゃあ、キュウに一つだけ、役割をください。今日はキュウの胸で、泣いてください。みんなレイ先輩の為に泣いてくれる先輩に感謝しています。キュウもレイ先輩の為に涙を流してくれる先輩に感謝します」
「か、感謝って、僕は本当にレイの事が好きだったんだ。レイが死んだら…悲しいのは当たり前じゃないか? 涙が出るのはおかしいのか?」
「先輩はレイ先輩じゃなくて、キュウが死んでも涙を流してくれますか?」
「当たり前だろ? キュウだって、死んでなんて欲しくない。当たり前だろ?」
「だからみんな感謝してるんです。キュウ達は先輩の使い魔です。先輩が死ねと言えば死にます」
「……そ、そんな」
「キュウ達はそういう存在です」
「ごめん。僕は何もわかっていなかった。ごめん。こんな世界に君達を引き込んで…ごめん。僕が変な要求を女神様にしたから…だから君達を戦争になんかに引き込んでしまって…」
「違いますよ。先輩。キュウ達は先輩に愛されれば、それで幸せなんです。それは擬人化兵器も普通の女の子も同じなんです。先輩は女の子の事知らなすぎるんです…」
「レイは本当に幸せだったのか?」
「当たり前です。先輩に愛されて、先輩の為に死んで…本望ですよ。キュウならそうです」
「…僕はいつもキュウに冷たくしてたのに」
「レイ先輩程じゃなくても、少し、好きでいてくれたらキュウはそれで十分嬉しいです」
「キュウ、ごめん。僕…ホントにごめん」
「キュウに謝る必要はありません。今日はレイ先輩の事だけを想ってあげてください。それがレイ先輩には一番の手向けです」
「…キュウ」
「今日はキュウの胸の中でいっぱい泣いてください。泣いたら、少し、楽になるかもしれませんよ」
「……」
僕はキュウの胸の中で、泣いた。恥ずかしいだなんてとは思わなかった。僕の罪は恥ずかしいだなんて事では消せない。僕は散々泣いて、そして、その後、再び戦士に戻ろう。でも、今は泣かせて欲しい。今日だけ、お願いだ…
連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)