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ミッドウェー海戦10

レイが左舷から、キュウが右舷から艦隊の上空を目指して急上昇する。以前二人が同士撃ちに巻き込まれて、被弾した経験から艦隊直上を通らずに迂回して行く。


「…二人共無事に帰ってきてくれよ」


僕はそう呟いた。茅ヶ崎飛行隊長の戦死が思い出される。間違っても女の子のレイやキュウに死んで欲しくない。擬人化兵器の彼女らはHPが0になったり、魔力が尽きるとLOSTする。LOSTは擬人化兵器にとって死と同じだろう。僕にとっては彼女達は人間同様だ。人間と同じ様に接しているし、死んだら当然悲しくてやりきれない。ましてや恋人のレイが死んだり等したら? 僕は何とも言えない不安を感じた。


「何だろう? この不安は」


今から思えば、それは虫のしらせとかそういう類のものだったのかもしれない。


「ユキ、ユウ、敵艦爆隊の位置を教えて」


「敵艦爆隊は1時の方向、距離3浬、高度3000m、機数約14」


「もう一隊の敵艦爆隊は2時の方向、距離4浬、高度3000m、機数約10」


「ありがとう。レイ、1時の方向のを頼む、キュウ2時の方向のを、二人共気を付けろよ!」


二人が敵爆撃機に向かって駆けていく。既に姿は見えないが、魔法通信は常時ONにしておいた。更に魔法映像回線を開いた。これでレイとキュウの見ている光景が見える。


僕はついこんな時に言ってしまった。レイへの気持ちが溢れてしまった。


「レイ、帰ったら、キスの続きしようね!」


「え?……あわわわわわ! そ、そ、そんな! キ、キスの続きをだなんて、そんな! あ! 葵! 直球過ぎる!? え!? そ、そ、そんなにレイとの初めての経験を想像しないで! ああっ! 今日の夜、葵に迫られて、抱きしめられて、『今夜レイは僕のもの』だなんて言われて、レイには良くわからない葵の成分を流し込まれて、天国にいっちゃうのかしら! 駄目よ、未だ早すぎるわ! でも、葵が望むなら! 女神様、私、今日いよいよ大人になります!?」


「きゃぁ~、先輩大胆!」


「葵、こんな処で言わないでよ、恥ずかしいわ。急にもう!?」


「何で? 僕達、彼氏彼女だよね? 違うの?」


「ち、違わない…」


「僕とレイはどういう関係なの?」


あれ? ちょっとドSポイな、これ?


「ふ、二人は……つ、付き合っています。葵はレイの彼氏です!……」


レイに言わせてしまったけど、僕は顔のニマニマが止まらない。


「レイは僕の一番大切な人だよ …」


「そんな、レイにこんな事言わせて『僕の一番大切人だよ…』だなんて、こんな処でそんな大きな声で叫ばれると、わ、わ、私、照れてしまう。でも、安心して、もう結婚式場も新居も購入済みだから!」


レイがちょっと取り乱す。珍しく僕が責めたから、舞い上がったんだろう。僕は本土に帰ったら、レイとキス以上の事をしようと本気で思った。それにしても結婚式場って購入可能なものか?


「きゃぁぁぁぁぁあ、キュウにもお願いします。そういうの!」


「キュウは生意気だから、駄目!?」


「あ~そういうのもいいです。先輩」


何故かキュウも悶える。そういえばキュウはドMだった。S気味に虐めたら、嬉しそうな声で、返事した。変な子。いや、擬人化兵器は全員変か。


「とか、言っている内に敵機視認しましたよ、先輩!」


「気を付けろよ!?」


「は~い、先輩!?」


二人の目に映る映像が目に入る、既にキュウは高度を上げ、上空から急降下してSBDドーントレスに機銃を浴びせる。たちまち数機が吹き飛び墜落していく。キュウの7.7mm機銃の実際の威力は20mm機関砲をも凌ぐ、レイの20mm機関砲に至っては40mm機関砲と言ったところか、しかし、


「――――――~~~~ッ!!!!」


僕は声にならない声をあげた。レイの視界が歪む、ノイズが入り、高度が急降下しているのだ。一体何があった?


「レイ? レイ? 大丈夫か? 一体何があった?」


「落ち着いて、葵、何か巨大な高角砲みたいなの至近弾をもらっちゃったみたい」


巨大な高角砲? 僕は戦艦榛名の主砲の仰角が上方に急角度な事を確認した。三式弾? そう、日本軍戦艦や重巡洋艦の主砲に装備可能な対空砲弾三色弾、それを戦艦榛名はレイに、嫌、敵機に向かって射撃したのだ。しまった。レイやキュウの攻撃を艦隊全体に知らせてなかった。僕の手落ちだ。自分のせいで、最愛の人を窮地に陥れた。僕は自分の浅はかさに思わず自身の頬を張り倒した。僕は直ぐに魔法通信を送った。


「レイ、HPと魔力はどの位?」


「HPは1/5位、魔力も同じ位かしら」


「良かった。直ぐに帰還しろ。敵機はほおっておけ」


「いいの? あれ位なら損害無しで撃墜できるわよ?」


「君の命の方が大事だ。頼むから帰還してくれ」


「あの? キュウはいいんですか?」


「ごめん、キュウも急いで帰還してくれ。戦艦の三式弾が、又君達の近くに着弾するかもしれない。敵機の近くは危険だ」


「先輩ありがとう。キュウの事も心配してくれるんですね。これはもうキュウルート選択宣言ですね☆」


今はキュウのウザさがありがたい。レイが被弾した事で、僕はナーバスになっていた。軽口のキュウに癒された。


「くれぐれも慎重にね。二人共」


「はい、葵…」


「はい、先輩」


僕は人心地つくと、再び心を戦場に戻した。


「ユキ、ユウ、敵機の数は?」


「敵艦爆隊は1時の方向、距離2浬、高度3000m、機数約14」


「もう一隊の敵艦爆隊は3時の方向、距離3浬、高度3000m、機数約5」


「ありがとう。ユキ、ユウ」


僕は慌てて艦橋に戻ると、艦長に報告して、山口司令に連絡した。


「祥鳳より、我が魔法小隊、友軍の対空砲火に巻き込まれ、敵機への追撃を断念す。敵機、1時の方向14機、3時の方向5機」


通信科の綾瀬中尉が無線で連絡してくれた。そして、飛龍から返信があった。


「たいあたりのようなつもりだった。いったものへはおれもあとからいってあやまっておく」


山口少将からの電文です。


「山口少将…」


「まるで辞世の句の様な」


「縁起でもない。滅多な事は言うな」


藤沢艦長が海老名中尉を窘める。しかし、海老名中尉の言った事は正鵠を得ていた。


艦爆隊は最初の14機が空母飛龍に的を絞った。そして、残りの5機は軽空母の祥鳳を襲った。飛龍を襲った最初の6機の攻撃は零戦隊に撃破された。しかし、続く6機は太陽を背に飛龍に向かって急降下を行い、450kg爆弾を投下した。この6機に気づかず、無防備の飛龍は4発の命中弾を受ける。飛龍のエレベータが吹き飛ぶのが見えた。そして、艦橋付近に突き刺さる。そして大爆発の音が聞こえた。


「あ、ああああああ」


僕は思わず声をあげた。また、同じだ。僕は何にも役にたたない。そんな時、


「葵小隊長、大変、敵機15機、更に接近中」


ユウからの連絡だ。


「ユウ、敵位置知らせ」


「3時の方向、距離2浬、高度2500mm、機数15機」


僕は直ちに艦長に報告した。そして全艦隊に連絡した。守るべき母艦を被弾した空母飛龍の零戦隊6機はぐんぐんの3時の方向に向かった。敵討ちとばかりに! しかし、彼らの手から漏れた敵機が10機、祥鳳に向かって飛んできた。飛龍直掩隊に前進を阻まれた敵機は進路を変え、艦隊最後尾の祥鳳に向かってきた。蒼龍の周辺には直掩隊5機が周回中だ。祥鳳は4機、その上、対空砲火も少ない。


「不味いぞ、あいつら、多分、祥鳳を狙うぞ!」


三浦航海長が叫ぶ。僕も同感だ。彼らは目の前の航空母艦に爆弾を落とすだろう。彼らに進路を変える程のエネルギーは無い、援護する戦闘機も無く、進路を変更すれば凄まじい対空砲火が待つ蒼龍では無く、目の前にある祥鳳の方に。


「対空戦闘始めぇ!」


藤沢艦長の号令の元、祥鳳の高角砲が火を噴き始める。直掩隊4機も敵機に向かって飛んでいく。


「ユキ、ユウ頼む!」


僕はユキとユウに魔法通信を送った。後は直掩隊と祥鳳の対空砲火、そして、ユキとユウにかけるしかない。10機の爆撃機に祥鳳は対抗できるのか? 艦長は未だ着任したばかりで、この艦に慣れていない!


「爆撃機が近づいたら、取り舵一杯で回避する。海老名君、各員に伝令」


「はい!」


海老名は伝声管で、この船がもうじき取り舵いっぱいで急に左に傾く事を注意する。そして、10機が急接近する。10機の内、4機は零戦に撃墜される。残りの6機もユキとユウの対空砲火と祥鳳の対空砲火でおそらくげ撃墜されるだろう。そう思った時、


「小隊長、左舷直上、艦爆5機急降下中!」


5機の艦爆が太陽を背に急降下してきた。ユキからの魔法通信だ。


「艦長、頭上急降下爆撃機!」


ユキとユウの対空砲火が凄まじい咆哮をあげる。しかし、艦爆隊は一列に並び、順に急降下してきた。角度が急で、ユキとユウも苦戦している。教科書通りの見事な急降下爆撃だ。


「いかん、取り舵いっぱい!」


「全員、伏せろ!」


藤沢艦長と三浦航海長が叫ぶ。何発かは命中するだろう。僕もそう思った時、


「葵はレイが守る!」


「先輩はキュウが守るんです!」


叫び声が魔法通信から聞こえてきた。

連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)

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