ミッドウェー海戦9
帰還した攻撃隊に茅ヶ崎飛行隊長の姿が無い。艦橋にその情報が寄せられたのは午前10時30分頃だった。僕はいてもたまらず祥鳳の飛行甲板に向かった。そして、艦攻隊の中に茅ヶ崎少佐の姿を探した。だけど、何処にもその姿は見つけられない。そして、僕の目には被弾して穴だらけの九七艦攻の惨めな姿が多数目に入った。まともな機体は1機もない。黒いオイルを吹き出す機、銃弾で穴が開いた翼、胴体に銃痕がある機体。戦いがどの様なものだったかを示している。僕は顔見知りの下士官川崎曹長を見つけて聞いた。
「茅ヶ崎飛行隊長は? 到着が遅れているのか?」
「いえ、茅ヶ崎少佐は名誉の戦死を…先陣を切って敵空母に突撃しているところに敵の対空砲火の直撃を…機体はばらばらになって…そ、それで、うっうぅっ」
この下士官は茅ヶ崎飛行隊長を慕っていた。飛行隊長の僚機でもあった。
「そうか、茅ヶ崎飛行隊長が…」
「見事な最後でした」
最後に見事も糞もあるものか! 死んだら終わりだ。一番大切なものは命だ! せめて着水していてくれたら、捕虜となってでも生きている可能性がある。でも、対空砲火の直撃で機体がばらばらだなんて、つくづく日本軍機の機体はか弱い。米軍の機体なら、ばらばらにはならなかったのではないか? そう思えてならない。
「川崎曹長、君は生き残れよ」
「はい、ありがとうございます」
彼は敬礼した。川崎曹長も内地に妻を残してきている。僕は飛行甲板を後にした。親しい人を初めて戦争で失った。僕の心は沈んだ。
飛龍に十三試艦爆が帰還し、 同機が三隻の米機動部隊の接触に成功したが、無線機故障で連絡ができなかったことが判明した。この時、第二航空戦隊は利根4号機、筑摩5号機が通報した空母1隻の他に2隻の空母がいる事に気がついた。そして、午前11時、利根3号機、4号機が敵航空母艦を求め再び発進した。
午前11時30分、飛龍と蒼龍の第二次攻撃隊は米機動艦隊を発見するが、それは大炎上中のヨークタウンだった。筑摩5号機が撃墜されていた為、第二次攻撃隊は新たな獲物を求めて彷徨った。そして遂に独力で第16任務群空母エンタープライズとホーネットを発見し、これを攻撃した。攻撃隊の友永大尉は味方が少ない事から、空母ホーネット1隻に焦点を合わせて、攻撃を開始、ホーネットに爆弾1発、魚雷二発を命中させた。しかし、2隻の空母の直掩隊にかなりの被害を受けた。
ホーネットが空襲されている最中、米軍は索敵機より「敵発見、空母3、戦艦1、重巡2、駆逐艦4」との報を位置情報と共に受信した。飛龍、蒼龍、祥鳳を中心とする艦隊は周囲に戦艦榛名、重巡洋艦利根、筑摩、軽巡洋艦長良 、駆逐艦3隻を護衛として引き連れていた。
空母エンタープライズは爆撃隊24機を戦闘機の護衛なしで発進させた。両艦隊は僅か90浬(160km)の距離にいた。日本艦隊上空に達した艦爆隊は、エンタープライズのものとヨークタウンの退避隊がおり、それぞれ飛龍、蒼龍へ攻撃を開始した。
「不知火中尉、君の魔法小隊の力を借りる事はできないのか?」
祥鳳艦長藤沢は僕にそう言った。僕達は第二航空戦隊に敵爆撃機接近の報告を既に行った。そして、山口多門司令から魔法小隊への救援依頼を受ける。
『祥鳳の魔法小隊の救援を求む』
山口多門少将は僕達魔法小隊の力を信じてくれた。そして、僕達の力を欲している。
「わかりました。レイとキュウに飛龍、蒼龍の救援に向かわせます」
飛龍も蒼龍も直掩機の疲労は激しい。機数もそれぞれ飛龍6機、蒼龍5機まで落ちている。僕達の直掩隊は第一次攻撃隊の直掩隊に甚大な被害が出た上、祥鳳の直掩隊にも損害が出た。それで直掩隊は僅か4機だ。飛龍と蒼龍を助ける事ができる零戦隊はいない。つくづく祥鳳の搭載機を全て零戦隊とすれば…
僕は直ちにレイとキュウに命じた。
「レイ、キュウ出撃準備、HPと魔力はどれ位だ?」
「レイは4/5まで回復したわ。魔力は満タンよ」
「せんぱ~い、キュウは2/3回復、魔力もです!」
「よし、わかった。レイは飛龍、キュウは蒼龍を救援してくれ」
「レイは直ぐに飛び立つわ」
「キュウも!」
僕は慌てて飛行甲板に向かった。二人を見送りたい。ギリギリ二人を見送る事が出来た。
「葵、心配してくれるの?」
「当たり前だろ、僕はレイに死んで欲しくない」
「あの先輩、キュウは?」
「キュウだってそうだよ。当たり前だろ?」
「珍しく、本気でレイ達の事心配している様ね、ところでレイの下着の色は何だったかしら?」
「えっ? 珍しく真っ赤なショーツだった様な? あっ! しまった」
僕はレイとキュウが祥鳳を飛び立つ時、つい、いつもの癖で二人のスカートの中を鑑賞してしまった。健康な男性なら仕方ないよね? レイはいつもの黒系じゃなくて、際どい赤いショーツだった。キュウは薄い可愛いピンクだった。
「やっぱり見ていた様ね。情熱的でしょう?」
珍しくレイがドS口調で怒らない。
「あのごめん……覗く気はなかったんだ。でも、意外と大人っぽい下着つけてるんだね?」
「何? 下僕のくせに、私の下着に欲情したの? 気持ちが悪いわね」
「い、いや、そういうわけじゃなくて……そ、そうだ! そんな短いスカートでそんなにセクシーな下着を着けていたら、マズいよ! もしかしたら、米艦隊の変態の糞豚どもが嬉々としてレイに群がってくるよ! スカートをめくられるかもしれないよ!」
「そんなわけないよね? 葵、頭のねじ飛んだの?」
レイにそれ言われたくない。
「で、私のショーツへの感想は?」
「う、うん。その……レイは清楚だけど、大人っぽい下着も似合うなぁって思う」
「そんなに凝視してたのね。この変態糞豚野郎!」
いや、本音を言っただけなのに、酷くない?
「葵。ショーツだけでなく、レイの全身を舐めまわす様に見て、目で犯さないでといつも言っているでしょう?」
「い、いや、そんな事、レイは言ってないし、僕もレイをそんな目で見たつもりはないよ」
「じゃあ、どんな目で見てたの?」
レイが愛しくて愛しくてしょうがない…だなどと正直に言えるはずもなく、僕は沈黙してしまった。
「私が馬鹿だったわ……ドスケベな下僕の考えがわからないなんて、私も主人失格ね」
「えっ?」
「わかっているわ。いつも物欲しそうな顔して……私を力ずくで凌辱したいのよね?」
「いや全然違うから!?」
「気がづいてあげられなくてごめんさい。ご主人様の為に私を使って凌辱し尽くして」
「ちょ、ちょっとたんま! 僕はそんな事一言も言ってないよね……うわっ!」
レイは急降下してきた。そして、僕の前に立ち、目を瞑った。
「レイ? ズルい」
僕はレイと唇を合わせるとレイを抱きしめた。
「絶対生きて帰るんだよ!」
「うん。いつも虐めてごめんね」
「僕はいつものレイも好きだよ。今みたいなレイが可愛くて一番好きだけど」
「今のレイが一番可愛いだなんて……か、可愛いだなんて……嬉しすぎるよ。レイ、葵になら何されてもいいの、好きと言ってもらってホントによかった……えへへ」
レイはいつも清楚で大人っぽい。こんなに可愛いレイは初めてだ。レイ可愛すぎ!
キスを終えるとレイとキュウは飛んで行った。キュウはあっかんべをする。キュウめ、やっかみだな、僕は彼女持ちなのだ。彼氏無しのキュウより僕の方が一段上の立場なのである。そんないつものふざけたじゃれあい。それは永遠に続く、僕はそう思っていた。そんな筈もないのに…
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