ミッドウェー海戦8
レイとキュウが祥鳳から飛び立ち、艦隊上空を通り過ぎる、その時、それは起きた。
「なっ!?」
「何だと!」
みんな声をあげた。味方の空母赤城がレイとキュウに対空機銃を乱射している。
「不味い、同士打ちだ!」
味方の混乱は最悪の状態だった。既に午前4時からミッドウェー島攻撃隊、米空母攻撃隊による波状攻撃を受けていた第一航空艦隊は既に疲労の極致に達していた。目に入ったものが全て敵に見えたのだろう。低い高度で飛んでいたレイとキュウを敵と誤認したのだ。
「レイ? キュウ? 無事か?」
僕は焦った。いくら頑丈な義人化兵器のレイやキュウでもこんな至近距離から25mm機銃が命中していたらどうなるか?
「無事よ。HPは3/4と言った処かしら」
「キュウはHPが1/2位です。機銃の直撃を2発受けました」
「わかった。至急退避して、キュウは迂回して帰還しろ。レイは17機の少ない方をやれるか?」
「大丈夫、17機なら楽勝よ。でも32機の方はいいの?」
「君の命の方が大事だ。旗艦に連絡する。対空砲火と回避行動で、凌いでもらうさ」
「わかったわ」
「了解です。先輩」
レイはヨークタウン艦爆隊17機に向かって艦隊を離れて行った。僕はレイにユウやユキの情報を伝え、艦爆隊の上空に誘導した。キュウは迂回して、後方から祥鳳に戻った。
僕は慌てて艦橋に戻った。
「藤沢艦長、レイやキュウが味方の射撃を受けて被弾しました。艦爆隊は全部落とせません」
「何だって? よりにもよって、味方からの同士打ちか?」
「はい、残念ながら、そうです。しかし、予め接近がわかっていれば、対空射撃や回避行動で、何とかなるかもしれません。それに直掩隊も間に合うかも」
「わかった。旗艦に知らせる。綾瀬中尉、旗艦南雲司令宛てに電文を、平文でいい。『敵艦爆隊発見、上空に注意されたし、直掩隊の高度を早急に上げらる様指示されたし』」
綾瀬中尉はすぐさま電文を旗艦赤城に送る。しかし、旗艦赤城は混乱の渦に舞いこまれていた。度重なる波状攻撃に苛まれ、艦内には爆弾や魚雷を搭載した第二次攻撃隊がいるのだ。
「駄目です。返答がありません」
「旗艦は混乱中か?」
「おそらくは」
空母4隻を救う事はできないのか? 僕はまたしても役に立てないのか?
「不知火中尉の使い魔と祥鳳の直掩隊を向かわせるか?」
「僕の使い魔は敵と間違えられる可能性があります」
「それでは、祥鳳の直掩隊だけでも」
「お願いします。祥鳳の直掩は僕の使い魔に任せてください。その代わり、祥鳳はもう少し後方を航行してください。祥鳳上空は空母群の対空砲火の射程内です」
「わかった。茅ヶ崎飛行隊長、直掩隊に指示を」
「わかりました。それに待機の直掩隊4機も発進させます」
「頼む」
祥鳳は敵空母への攻撃隊を既に飛行甲板に並べている。しかし、直掩隊の4機の零戦は一番前で発艦可能に準備をしているのだ。その代わりに、攻撃隊の直掩隊は艦攻隊が発艦した後、飛行甲板にあげる予定だ。軽空母の祥鳳が同時に発艦させられる機体はせいぜい12機なのだ。これでも無理をしている。もしかしたら、発艦中に事故が起きるかもしれない。最前列の零戦はともかく、後続の艦攻隊は800kg魚雷を装備しているのだ。
レイから魔法通信が入る。
「敵爆撃隊17機の約半数を撃破、残りは爆弾を捨てて遁走したわ」
「ありがとうレイ」
僕はレイが無事な事に感謝した。HPの減ったレイ達は防御力が下がる。これで、魔力は半分位にまで下がっただろう。戦えるのはもう一度だけだ。その切り札を使うタイミングを間違える訳にはいかない。
「せんぱ~い、キュウ戻りました」
魔法通信が入る。キュウが帰還した様だ。僕は慌てて飛行甲板に向かった。被弾したキュウが心配だった。
「キュウ大丈夫か?」
「あらら、先輩はキュウの事が心配で仕方ないのですね。キュウルート選んでいいんですよ?」
「いや、だから、僕はキュウを女の子として認定してないし、僕にはレイがいるし!」
「先輩がレイ先輩を好きなのは知っていますけど、先輩は一人だけを愛するつもりなのですか?」
「えっ?」
キュウが変な事を言う。一人だけを愛する。当たり前の事だよね?
「まあ、先輩は鈍いけど、そのうちわかるでしょうね」
「なんだよ、キュウの癖に勿体ぶって!」
「あららら、厳しい言葉! キュウ残念」
ペシッ、ペシッと自分のおでこを叩くキュウはいつものうざい後輩ぶりだ。
僕がキュウを自身の目で見て、キュウがそれ程ダメージを受けていない事に安堵した時、激しい爆音がした。
「なぁあにぃぃぃい?」
それは一航艦の方からだった。一航艦は僕達祥鳳からの情報を活かせなかった。目をやると、空母天城の方から爆炎と激しい黒煙が見えた。艦橋付近に直撃したらしい。続いて、空母赤城からも爆音が響いた。
後日の戦闘詳細で天城には艦橋付近に3発の爆弾が命中。燃料車の爆発もあり、大火災が発生した。赤城は命中弾が1発だけだったが、格納庫内に乱雑に置かれた爆弾、魚雷、航空機の燃料へ次々と誘爆を起こし、大火災が発生した。
空母蒼龍は僕の知っている史実と異なり、損害がなかった。それに空母飛龍も巧みに雲の下にいる事で、敵機に補足さえされていなかった。
午前7時50分第八戦隊司令官は赤城、天城被弾炎上を主力部隊に報告し、「飛龍、蒼龍、祥鳳にて敵空母を攻撃せしめ、機動部隊は北方に避退した上、兵力を結集する」との電文を発信したが、続いて第二航空戦隊及び祥鳳に「敵空母を攻撃せよ」と命じた。
この時、僕達祥鳳と蒼龍は空母飛龍に合流し始めていた。飛龍は単独で進路を北東方向に進めていて、僕達4空母からは相当離れた位置にあった。彼はこの状況を予測したのでは無いか? そう思えた。彼は旗艦を始め、他の艦を囮に自艦の生存性を高めたのだ。反撃の為に。
第二航空戦隊旗艦飛龍の元、僕達蒼龍と祥鳳が合流した。そして、
「全機今より発進、敵空母を撃滅せんとす」
と山口多門少将が宣言した。
午前8時、艦首を風上に向けた空母3隻の空母から攻撃隊が発艦した。飛龍と蒼龍は爆弾を対艦攻撃用に換装していない陸用爆弾を搭載していた機体も発進させた。第一次攻撃隊の内訳は飛龍攻撃隊、零戦6機、九九艦爆18機、蒼龍攻撃隊、零戦6機、九七艦攻18機、祥鳳攻撃隊、零戦4機、九七艦攻8機の計60機だ。第二航空戦隊は第一次攻撃隊を発進させるとすぐに第二次攻撃隊の準備にかかり、同時に米機動部隊の方向へ進路を変更した。
「茅ヶ崎飛行隊長! 死なないでください」
「俺は飛行兵だぜ、せめて無駄死ににないでくれと言ってくれ。敵空母に向かって進撃するんだぜ?」
「しかし、本土には…」
僕は本土には奥さんと生まれてくるだろうお子さんがという言葉を飲み込んだ。ここで、出撃しないという選択支は無い、彼も僕も軍人なのだ。
「ご武運を!」
「ああ、行ってくる。また会おう!」
彼はそう言って、出撃していった。僕達の第一次攻撃隊は米軍が攻撃隊を収容している最中に攻撃に成功した。筑摩5号機からの誘導で第一次攻撃隊(60機)はついにヨークタウンを攻撃した。史実と異なり、零戦隊16機に直掩隊を粉砕されたヨークタウンは艦爆隊と艦攻隊の雷爆同時攻撃にさらされ、ヨークタウンはたちまち大火災を発生した。
午前10時30分、飛龍と蒼龍から第二次攻撃隊(零戦12機 、艦爆12機、艦攻12機、)計36機が発艦した。このうち何機かは、飛龍と蒼龍に着艦した赤城や天城の所属機だった。母艦を失った彼らはその怒りを敵空母にぶつけた。入れ替わりに帰還した第一次攻撃隊がそれぞれの艦に着艦したが、祥鳳攻撃隊に茅ヶ崎飛行隊長の姿はなかった。
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