ミッドウェー海戦5
「不知火中尉、本当に敵機動部隊がミッドウェー島に待ち伏せしているのか?」
「間違いないです。そもそも、呉の誰もが一航艦の次の戦地がミッドウェーと知っていたではないですか? そんな状態で、米軍に一航艦の位置を知られない方がおかしい」
「君の言う事は一理あるが、第六艦隊の潜水艦隊からは敵空母の情報は得られていない。流石に君の杞憂ではないのか?」
僕は空母祥鳳の艦長、藤沢大佐と話しこんでいた。藤沢艦長は前任の艦長と異なり、僕を艦橋付きで使ってくれる上、僕の意見を聞き入れてくれる。僕は彼に期待していた。
「第六潜水艦隊に残された潜水戦隊は皆、長距離哨戒任務に向きません、速度も航続距離も足らず、ミッドウェー前方に展開できるのは6月初旬。つまり、索敵はできていない筈です」
「それが、君の前の世界の歴史か?」
「そうです。僕の前いた世界ではそうでした。そして、珊瑚海でもそっくりでした」
「君の意見を尊重したい。私も一航艦に伝えよう。だが、果たして信じてくれるかどうか」
「それは理解しています。源田実航空参謀ですら、僕の言う事に耳を傾けてくれなかった」
「彼は多忙過ぎるのだろう。山本長官が君の話しを聞く機会を作ったが、いつかの水から石油を作る話の様だと言っていたそうだ」
水から石油ができる。眉唾にも程があるが、海軍は本当に詐欺師を招き、実験を行わせたそうだ。実話と言われている。それ程日本は石油に飢えていたのだ。もちろん石油はできなかった。それに彼が多忙なのは当然そうだ。彼はハワイから一度も休まずミッドウェーに臨むのだ。ミッドウェーは山本長官の横やりで予定外で行う事になった。つまり、彼は事前に作戦への考察を行っていない。珊瑚海海戦の検証も行っている時間はなかっただろう。
「僕の話はそれ程真実味がないのでしょうか?」
「君の未来の知識は断片的に納得がいくが、君が未来からきたという点と、君が魔法を使うという点で、水から石油と同様の事と思われるのも無理もないと思う」
三浦航海長から指摘された。やはり、僕の使い魔を見た人ですらそう言わしめてしまうのか?
「だが、不知火中尉は敵機の機影を見る前に察知できるのだろう? 海老名中尉から聞いた」
茅ヶ崎飛行隊長が僕を援護してくれる。彼は海老名同様僕の理解者だ。
「わかった。もし、君が敵機を察知したら、旗艦赤城へは私から連絡しよう」
藤沢艦長はそう言ってくれた。僕は少し安堵した。珊瑚海海戦で僕が感じた事、それは、このままでは僕は死ぬ。死にたくない。ただそれだけだ。僕だけじゃない、レイやキュウ達も死んでほしくない。海老名中尉達だって死んで欲しくない。
「対空監視と艦隊付近の対潜哨戒は任せて下さい」
「頼む、君に期待している。大日本帝国海軍の為に力を貸して欲しい」
僕は敬礼すると、頷いた。
米軍は日本軍が太平洋のどこかを攻撃することは予想していたものの、ハワイ、ミッドウェー、米本土西岸と可能性の幅が広く、特定に至っていなかった。しかし、米海軍情報班が日本軍の真珠湾攻撃前に変更されていた暗号の一部解読に成功した。そして、日本海軍が大規模作戦を企図していることについて、おおまかに把握していた。最初は詳細が不明であったが、5月頃には攻撃目標が略式符号「AF」の意味する処と判明した。最初「AF」はアリューシャン方面であると考えていた。しかし、米太平洋艦隊司令長官ニミッツは戦略的な観点からミッドウェーが目標であると予想し、 諜報部も情報収集の結果、やはり次の目標はミッドウェーであろうとした。この予想が確実視されたのは諜報部にいた青年将校の発案により、ミッドウェーからハワイ島宛に「飲料水不足」といった緊急の電文を英語の平文で送信させた。これに対し「AFは真水不足」という暗号電文を傍受した。この情報で主戦場がミッドウェーである事が暴露された。
ミッドウェー海戦に先立ち、ニミッツ司令の手元の空母は第16任務部隊のエンタープライズ、ホーネットの2隻のみだった。しかし、ニミッツは珊瑚海海戦で傷ついた第17任務部隊のヨークタウンをハワイに呼び戻し、応急修理を行った。ヨークタウンは中破していたが、72時間の不眠不休の作業で空母として最低限の機能を回復する事に成功した。更に珊瑚海海戦で消耗した航空隊第5航空群をヨークタウンから下し、座礁して米本国で修理されていたサラトガの第3航空群を乗せた。これで彼の手元には三隻の空母が揃う事になった。ヨークタウンがハワイの乾ドックに入ったのは5月27日、ミッドウェー海戦に遡る僅か8日前だった。
昭和17年、西暦1942年5月27日、南雲忠一中将率いる第一航空戦隊、赤城、天城、第二航空戦隊、飛龍、蒼龍擁する第一航空艦隊と第四航空戦隊分遣祥鳳以下護衛艦隊が広島湾柱島から厳重な無線封止を実施しながら出撃した。
同年5月29日、連合艦隊長官山本五十六大将が直卒する主力部隊も広島湾柱島を出撃した。
西暦1942年、昭和17年 月28日、米軍はフレッチャー少将の第16任務部隊、空母エンタープライズ、ホーネットを基幹とする艦隊が真珠湾を出撃、続いて5月30日にはスプールアンス少将の第17任務部隊、ヨークタウンを基幹とする艦隊が真珠湾を出撃した。目指すはミッドウェー、ミッドウェー島守備隊は死守命令を受けていた。全ては来襲する日本の南雲機動部隊を葬る為だ。
昭和17年、西暦1942年 、6月5日午前1時30分、第一航空艦隊から合計108機のミッドウェー空襲隊が発艦して行った。また、偵察機として赤城 、天城から九七式艦攻各1機、重巡洋艦利根、筑摩から零式水上偵察機各2機、戦艦榛名から九五式水上偵察機が発進した。しかし、ここで第八戦隊司令官の判断で重巡洋艦利根は対潜哨戒につく九五式水上偵察機の発艦を優先した。この為、利根、筑摩の索敵機は所定時刻より遅れて発進した。後に利根索敵機のカタパルトが故障し、敵艦隊発見が遅れたという説もあるが、定かでは無い。何故、対潜哨戒機の方が優先されたかについてもあいまいである。全てがあいまいであったのだ、この時点までは…
そして、矢は放たれた。
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