戦争と戦争の間12
昭和17年5月20日僕達の祥鳳は広島県、呉の柱島に到着した。ここで新任の藤沢艦長と三浦航海長が着任した。僕は魔法小隊長として専任された。以前は航海科と兼務だった。海老名は航海科に編入された。その他に通信科の綾瀬中尉も着任した。これで艦橋勤務者は平塚少尉を含めて、6名となった。人員は大幅に減っているが、何とか長期航海と戦える位の環境にはなった。
艦長達に引き継ぎを行うと艦長達は補給を開始した。食料、弾薬、燃料の他、航空機も補充された。96式艦上戦闘機は降ろされて、零戦が搭載された。これで零戦12機、九七式艦上攻撃機8機となる。かなり戦力は上がった筈だ。零戦隊も九七艦攻隊もトラックからの移動中に訓練をした。祥鳳飛行隊長茅ヶ崎に命じてレイと零戦との模擬空中戦や九七式には対潜哨戒任務をかねて飛行訓練や祥鳳を敵艦に見立てて雷撃訓練や爆撃訓練を行った。祥鳳の航空機用燃料倉が空になるまでやった。かなり練度は上がった筈だ。飛行隊長の茅ヶ崎大尉は随分と喜んでくれた。彼は上官だが、僕に好意的だった。僕が航空分野の知識に富んでいるのが嬉しかったのかもしれない。艦橋の士官達は空母であったにも拘らず、半数が砲雷畑の人達だった。ホント、日本の任官システムは士官学校の席次だけで決まる。適材適所という言葉は知らないのだろう。
祥鳳の飛行隊、乗組員は半舷上陸となり、順番に半数ずつが呉で羽を伸ばす事ができた。僕も1日呉で休める事になった。当然、約束していたレイとのデートをするつもりだ。僕はタイミングを伺って、レイに声をかけた。
「レイ、大事な話があるんだけど?」
「私のパンツが欲しいのね? 流石変態ね? お仕置きして欲しいのかしら?」
「いや、そうじゃなくて…」
「じゃ、私を正式に葵のペットにしてくれるの?」
レイは上目使いで言ってきた。わ~可愛い。これで変態じゃなきゃな…ホントに残念な子だ。
「いや、違うんだ。僕、明日一日休暇をもらったんだ。どうかな? 一緒に呉の街に遊びにいかないか?」
「呉で隙を見て私を襲おうと言うのね、流石ゲスね。下心が丸見えで見苦しいわね。…じゃあ、喜んで行くわ」
ああ、最近ドSとドMが混ざってるな~。でもデートのOKもらった。
「明日の朝9:00桟橋でね」
「うん。葵、わかった。レイ、初めてのデートで恥ずかしいわ」
レイはデートだってわかったんだ。それに普通の会話もできるんだね。それに恥ずかしがるレイはとても可愛らしかった。
翌朝僕は自室でロッカーをあけた。
「(良かった。今日はユキがいなかった)」
デートの前に残念なものを見たくはなかった。僕は夏用の士官服に着替えると桟橋に向かった。カッターの処でレイと会った。約束は桟橋でだったけど、二人共早めの時間に出発してしまった様だ。二人共お互い相手を待つつもりだったのだ。
レイは普段の制服では無く、初夏の出たちだった。白の清楚で綺麗目なブラウスに青のフィッシュテールスカート。肩には小さめのかごのバッグを下げて、アースカラーのサンダルを履いて、頭には麦藁帽を被っていた。歩くたびに裾がひらひらと揺れ、レイの顔立ちもあって、清楚な女性らしく上品な印象を受ける。
レイは僕が目に入ると子犬の様な無邪気な笑顔を僕に向ける。
「おはよう。レイ」
「おはよう。葵」
「早いね。約束より30分前に桟橋についちゃうね」
「私は葵のペット志望なのよ。ご主人様と同じだなんてペット失格だわ」
う~ん。ドSの言葉責めを期待したんだけど、最初からドM発言か…僕と一緒の事思ってたんだから、喜んで欲しいのに、駄犬としては満足しないのか?
「じゃあ、呉へ向かおうか?」
「はい、次回はリードを引いてデートしてもらえる様レイ頑張ります」
一聞、可愛らしく聞こえるレイの発言だけど、ドMな発想が残念極まる。でも、僕はちょっと嬉しかった。前の世界でこんな綺麗な女の子、というか、女の子とデートした事なんてなかった。こっちの世界に来てから、直ぐに士官学校に入学したから、女の子となんて接点がなかった。レイは初めて僕が召喚した使い魔だけど、士官学校時代は僕の中に入ってもらっていた。レイ達は僕の魔力が尽きると人間同様になり、更に魔力が無くなると死んでしまう。そして、使い魔は僕が直ぐ近くにいないと魔力の補充ができないんだ。士官学校にレイを連れて行く訳にはいかないので、僕の中で眠ってもらった。彼女達使い魔はステータス魔法のウィンドウを操作すると僕の中で収納できるんだ。おそらく魔力が低下した時の為の機能なんだろう。
「僕はレイみたいに綺麗な子とデートできて嬉しいよ」
「うん。レイも嬉しい」
そう言うと向日葵の様な明るい笑顔で僕に微笑んだ。
桟橋につくと、僕はレイに手を差し出した。レイは一瞬躊躇した様でけど、頬を赤らめて、僕の手を取った。僕はレイが祥鳳のカッターから桟橋に降りるのをエスコートした。桟橋についても僕は手を離さなかった。
「葵、もうカッターから降りたから、大丈夫よ」
「いや、手を繋いで歩こうかと思って。嫌?」
「い、嫌じゃないです。でも、少し恥ずかしい」
ああ、今日のレイは普通だ。至極普通の女の子だ。ドMでもドSでもない。
「レイって意外と恥ずかしがり屋さんなんだね」
そうなんだ。日頃のドS発言もそうだけど、ドM発言や痴女の様な発言。エッチな事やハードプレイの内容を簡単に口にする癖に手を繋ぐだけで、恥ずかしくなって、頬を赤らめている。ホント、女の子って、わからない…レイを普通の女の子の基準にしていいかどうかはわかんないけど。
「私、男の子と手を繋ぐのだなんて初めてで、その、恥ずかしい。外で首輪をリードで引いてもらったりするよりハードルが高いわ」
いや、普通そんな事ハードル高すぎるって、て言うか、そもそも自殺ものの恥だぞ。そんなレイを生暖かい目で見ていると、レイは僕の手を握ってきた。恋人繋ぎになった。
「お願いします。葵」
僕は優しく笑顔を返して、レイの手を引いて呉の街に向かった。
リードじゃなくて手を繋いで。
ご主人様とペットじゃなくて、恋人同士として。
普段のドSでもドMでもない普通の女の子のレイは恥じらう少女の様で、とても可愛かった。
呉の街を見物しながら、歩くと、本屋さんがあった。この時代、あまり娯楽はない。お菓子やジュースを買う位の事しかない街だけど、本屋さんはあった。僕はこの時代の本屋さんに興味を持ってしまって、レイに聞いた。
「ねぇ、レイ、本屋さん寄っていい?」
「いいわよ。葵、私も興味ある。小説とか」
二人で仲良く本屋に入って、最初は二人でああだこうだと雑誌なんかを見ていると、レイは何かの本に興味を持ったみたいで、本棚の一画で、一冊の本を熱心に見ていた。僕はこの時代の映画の雑誌を手にしていた。でも、雑誌よりレイに興味がいってしまい、直ぐにレイの元に行ってしまった。無理ないよね? 恋人と離れてるのだなんて、もったいないよね?
「レイ、何の本に興味をもったの?」
「葵!? ねえ見て! 新しいプレイがわかったの!」
「へぇ?」
「浣腸よ!」
いや、レイ、君が大きな声で言うから、大勢の人がこっち見たよ。多分、みんな空耳と処理すると思うけど。
「レイ…」
「浣腸で辱められたら! 私!」
普通、お嫁にいけない処だけど…
「天国に行っちゃう!」
プレイがハード過ぎる! ていうか、ここ変態さんの本棚のコーナーみたいなのに、君みたいな少女がいたら、変態紳士の皆さんが近寄りがたいじゃないか! 遠慮しようよ!
僕は慌ててレイの手を引いて本屋から出て行った。いや、レイを晒しものにしたくない。
「ねぇ、どうしたの? 急に?」
「いや、ちょっと思いついた事があって」
僕はとりあえずそう言った。ホントは折角レイが普通の女の子になっているのに、残念ドM令嬢に変化しそうだったから逃げたんだけど。
「海辺でサイダーを飲もうよ」
「ホント、そういえば喉が渇いたわ」
「買ってあげるよ」
「ありがとう、葵」
レイの笑顔が眩しい。僕達はサイダーを買って、海辺で、海を眺めた。とても静かで穏やかな時間が過ぎた。レイが砂浜で、素足になって、海辺で戯れた。とても素敵な思いで。
僕はこれがレイとの最後のデートになるのだなんて、この時これっぽっちも思わなかった。
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