戦争と戦争の間11
僕は祥鳳の操艦をしていた。僕だって、ただ、レイ達と遊んでいるだけじゃないんだ。艦橋勤務の時に海老名中尉や平塚少尉に操艦を教わっていた。元々航海科だったし、何度か訓練で祥鳳の操艦の訓練を受けた事があった。だから、基本はわかっていたんだ。だけど、船には癖とか、教科書通りにいかない注意点がたくさんあった。それを学んで、ようやく操艦ができる様になった。もちろん海老名みたいな正確な操艦はできないけど、それは海老名が航路の修正を毎日してくれた。僕が毎日8時間操艦する事で、海老名達の負担はかなり楽になった。
「助かりますよ。中尉」
「いや、こちらこそ、二人だけに操艦を強いてすまなかった。艦長代理って言っても、この船の下士官達優秀だから、僕、やる事あんまりなかったんだ」
「いや、下士官達も不知火艦長代理には敬意をもっているんですよ」
「僕に敬意? 馬鹿にされているの間違いじゃないのか? 僕、臆病だよ」
「勇猛なのは上級士官だけですよ。最前戦に出て来ない上級士官より、船や航空機の乗員や搭乗員の命を真っ先に考えてくれる艦長代理は敬意の対象ですよ。誰だってホントは死にたくなんてない」
「でも、僕はレイ達のおかげでこの船を守れたのにすぎないよ」
「トラックを出てから、下士官の零戦や97艦攻の搭乗員達に声をかけたでしょう?」
「ああ、死にそうになっても生きろって、敵の近くなら不時着して、米軍に助けてもらえって」
「普通、敵の捕虜となる位なら…て言われますよ。でも、艦長代理は生きろって…それ、みんなの本音ですよ。あなたは上の安全な処にいる士官とは違うって、みんなそう思ったんですよ」
「いや、僕は単に敵の捕虜になった方が敵の糧食を一人分奪えるのだから、その方が理にかなっているって諭しただけだよ」
「そこが、上の頭のおかしい奴らと違うって事ですよ」
「海老名? 軍法会議ものだぞ?」
「艦長代理がそれいいます?」
「海老名も変わったな?」
「艦長代理のせいですよ」
「誉め言葉だと思っておくよ」
「誉め言葉ですよ。それと、そろそろ交代の時間ですよ。艦長代理も疲れたでしょう。お休みになってください」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
僕は艦橋を後にすると、自室に戻った。今日は、やる事がある。この処、毎日ガチャを引いている。軽巡のガチャだ。既に5回失敗している。ガチャは擬人化兵器より装備が出る確率の方が何倍も高い。既に14cm単装砲や、15cm連装砲、5連装魚雷、三式水中聴音機、二式爆雷が出た。魔力量から一日に一回しかできない。トラックまで、ユキやキュウに対潜哨戒任務を出しているので、魔力切れを心配して、無造作には引けない。
自室に入ると、また、キュウがいた。いや、今日はレイやユキまでいた。
「どうしたんだ? みんな勝手に僕の部屋に?」
「またまた、そんなつれないな~昨日の熱いキスは何だったんですか? せんぱ~い」
「ば、馬鹿! お前!?」
僕は焦った、レイがいるのに、あれは浮気じゃないんだ。事故だ! いや、キュウに僕が恥ずかしめられたんだ!
「そんな物欲しそうな顔で私を見ないでくれる? 葵、キュウとキスしたんですって? お仕置きが必要な様ね? 身の程を教えてあげるから覚悟して頂戴」
「い、いや、あれは…」
僕は焦った。彼女の前で、それは一番ヤバい話題だよね?
「謝り方も知らないの? いいわ、特別に教えてあげる。『キュウでエッチな事をした豚です。たくさんお仕置きしてください』って言うのよ」
「レイ、信じて! その……レイの為に!」
「そう。葵はレイの大切な後輩を汚すのね。死ねばいいのに」
「先輩、大丈夫ですよ。キュウと先輩は公認ですよ」
えっ? どういう事? まさか怒りのあまり彼氏彼女解消? 僕はだらだら汗が出た。
「ねぇ? どういう事? 僕、捨てられたの?」
「まあ、そのうちわかりますよ。ホント、先輩は馬鹿なんだから」
「キュウに馬鹿って言われると傷つく!?」
「先輩は子供ですね」
「キュウの方が子供だろう?」
「子供にあんな事したんですか?」
「だから、駄目、その話題!」
「私を無視して話すの? いい度胸ね。どうでもいいけど、下僕の分際で、私をないがしろにするなんて…身の程を知る為、激しいお仕置きを希望するのね?」
「それより、ガチャ」
ユキが珍しく、喋った。ユキも最近喋る様になった。裸を見てしまってから、何故か喋ってくれる様になった。だけど、その全裸の話は絶対喋らないでね。お願いだから。
僕は 何となくわかった。ガチャを引くと大量の魔力を消費する。使い魔である、擬人化兵器の彼女らは、僕がガチャを引いているのに気がついたんだ。多分、立ち合いたくなったんだろう。
「ガチャ引くところ見たいのか?」
「いくら私の下僕とはいえ、勝手に性欲の処理の対象を召喚しないでちょうだい」
「いや、僕は使い魔を性欲の処理にだなんてしないよ」
「嘘をつきなさい……とっとと白状して、楽になりなさい」
「レ、レイ! 今度言葉責めしてあげるから!」
「そうね……『たくさん罵って、蔑んだ目でレイを見下したり、思う存分叱りながらお尻をたくさん叩いてやるからな』って言えたら、特別に許してあげてもいいわ」
ドS、ドMどっち?
「ガチャ、早く…」
ユキが上手くせかしてくれたから、どさくさに紛れてガチャだ!
「ガチャ、引くぞ」
「情けない男ね。冗談でも口説けないなんて。とんだヘタレ糞豚野郎だわ」
あれ、口説き文句なの?
僕はガチャを回した。罵られるのはご褒美なのだが、今はキュウの事で、ちょっとヤバい。誤魔化せ、僕!
「ステータスオープン、軽巡ガチャ」
僕は自分の目の前にステータスウィンドウを開くと、軽巡ガチャのメニューに進み、指で、ガチャのボタンを押した。
青い魔法陣が現れる。そして、レインボーの光キター!? レインボーはSSRの証、つまり、擬人化兵器を引き当てたのだ。
「下僕にしてはよくやったわね。誉めてあげるわ。だから、ご褒美にレイのお尻を百回ぶちなさい」
いや、だからドSとドM混ざって、どっち? そうこうしていると魔法陣から女の子が現れた。
「軽巡、夕張です。幼馴染の葵君、明日から毎日起こしに行ってあげるからね」
えっ? 幼馴染? 何それ? 今、召喚したばかりだよね? 初めてあったんだよね? それなのに何で幼馴染なの? 僕、意味わかんない?
「下僕に幼馴染が出来た様ね。だけど、駄犬の分際で調子に乗らないで、何をそんな物欲しそうな顔で夕張を見ているの? ……あなたのご主人様は誰かしら! この腐れクズ豚ぁぁぁぁっ!」
レイは僕をいきなり巴投げで投げると、背後から首に腕を回し、二の腕をのどに圧迫させ、もう片方の手は握手のような形で組んで、僕を裸絞めで絞めてきた。
「あ、あがっ!? 落ち、落ちる!?」
こ、これは……柔道の裸締! 頸動脈が絞まる。レイの身体に密着してご褒美だけど、僕堕ちそう!
「主人を怒らせる様な豚には、お仕置きが必要よね? たっぷり味わいなさい!」
頸動脈、頸動脈が絞まる! 意識が飛んでいく! 駄目、意識が!
「ぎゃああああっ! 死ぬ、死ぬ、死ぬぅぅぅぅぅ!」
「そう。なら続けるわ」
「お、鬼っ! ギブアップだよ、レイ!」
「いい鳴き声ね。豚の言葉は理解できないのだけど?」
「あががが、ご褒美がす、過ぎる! も、もうちょっとで、い、意識が!」
「ふふっ……もっといい声で鳴きなさい! 本物の豚に負けているわよ!」
僕は意識が飛んだ。
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