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死神ちゃんと僕のお語

作者: 雪河馬

「お気の毒ですが、あなたは今日死にますの。」


そんな物騒なセリフを突然言われたら・・・、君ならどうする?

まあ、普通に考えれば頭のおかしいやつだと無視して通り過ぎるだろう。

そう言ったのが、この世のものとは思えないくらいの美少女だったからかもしれないけど、僕、天野ユウキはこう答えたんだ。


「ふーん、そうなんだ。」


「あれえ?ユウキさんは死ぬのが怖くないんですか???」


その女の子は黒いフードをはずして小首を傾げる。

肩から黒髪が落ちて腰近くまで広がり、その瞳が吸い込まれそうなほど大きく見開かれ、僕の心臓は投げやりな言葉とはうらはらに生命の鼓動を強く鳴らした。


「いや、死ぬのが怖くないわけじゃないよ。ただ、突然だったんで・・・、ってなんだって君は僕の名前を知っているの??」


少女はニコッと微笑んだ。


「そりゃ、知ってますよ。私のお客様だもの。自己紹介が遅れました。わたしはルナ、死神ですの。」


「死神?嘘でしょ。死神っていったら黒づくめの衣装で・・・。」


「ほら、ちゃんと黒づくめの衣装ですよ。」

少女は若干ゴスロリっぽいワンピースの裾を持ち上げ、くるりと一回転する。


「いや、確かに黒だけど・・・、なんかこう、大きな鎌を持って・・・。」


「ちゃんと持ってますよ、ほら。」

少女はポケットから可愛らしいハサミをとりだした。


「いまどきあんな大きな鎌持ち歩いている死神なんていませんよ。重いし邪魔になるし。」


「いやでも・・・・・普通死神って骸骨だよね。」


少女は頬を膨らませて、小ぶりな可愛いピンク色の唇を尖らせた。


「ひどい・・、わたしだっていずれ骸骨になれますよ。まだ・・魔力が足りないだけで・・・・。」


どうせわたしなんかとかブツブツ言っている。

しまった、なんだか触れてはいけないところに触れてしまったようだ。

例えるなら、最近太ったと気にしている女の子に「健康的だね。」と言っちゃった感じか?


僕はあわてて取り繕おうとした。

「わー、言われてみれば、どこから見ても死神そのもの。やっぱ本物は違うわ。」


我ながらひどい言い訳、だからモテないんだと自己嫌悪に陥り、ふと彼女をみると機嫌がなおっていた。

こいつ結構ちょろいんじゃないか、悪い男にすぐ騙されるぞと心配になって来た。


「わかっていただければ結構ですよ。ということで、あなたは今日死にますの。」


この子が死神だと完全に信じたわけじゃない。

でも、一つ間違いないことは、こんな可愛い子と二人っきりで話せるということは、彼女いない歴25年の25歳のモテないサエない独身男には二度とないチャンスだということ。

僕はこの時間を少しでも長く続けようと彼女に質問した。


「ところで、死神さん。ぼくはどんなふうに死ぬの。」


「ルナでいいですよ、ユウキさん。ほんのしばらくの間のおつきあいですが。えっとですね・・・・。」


ルナは空中の何もないところに手を差し込み、そこから一冊の本を取り出しページをめくる。


「あなたは、2020年4月1日午後2時、いまから5分後に交差点で子猫を助けようとして走って来た自動車にはねられて死亡します。」


「でも、それを聞いたら僕はその猫を助けないかもしれない。そしたら僕は助かるし。それか交差点に入る前に子猫を助けちゃえば僕も子猫も助かるよ。」


ルナは本から目を離して、少しだけ鼻孔をふくらませて勝ち誇ったような顔で僕に告げた。


「残念ながらユウキくん、君は死ぬ1分前に私のことも私と話した内容もすっかり忘れちゃうんです。だから運命は変えられないんですよ。」


「じゃあ、質問を変えるよ。僕が死んだら、僕はどうなるの。」


「ユウキくんの魂は私と一緒に冥界を旅します。そうですね・・・人間の時間でほんの30分ほどでしょうか。そして冥界の門の前でお別れです。」


「なんかまるでデートみたいだな。君みたいな可愛い子とデートできるなら死ぬのも悪くないな・・・でも。」


可愛い子・・・と言われてルナの顔が真っ赤になる。


「そ・・そんな、私なんて可愛くないですよ。ラミヤ姉さまやヘカテ姉様に比べればほんとダンゴムシみたいなものですから・・・。」


「そんなことないよ。もし君が人間で僕の近くにいたら絶対好きになってる。でも、僕は高嶺の花で話しかけることすらできなかったと思うんだ。」


そうなんだ。

僕は絶対自分からルナに話しかけなかっただろう。

僕はいつも、失敗したらどうしようとネガティブに考えて楽な方、安全な方に流されて生きて来た。

何一つ楽しいことがなかった人生、急にテンションが下がって来た。


落ち込む僕と対照的に、ルナは両手で顔を覆ってモジモジしている。


「私、そんなこと言われたの初めて・・・。」


「でも、ルナ。ひとつだけ気になることがあるんだけど。」


「なあに?ユウキくん。」


僕は彼女の前におずおずとスマホを差し出す。


「あの、すごく言いにくいんだけど・・・、今日は、2010年4月1日なんだけど。」


一瞬、ルナはポカンとした顔になり、本とスマホの時間を見比べる。


「え、うそ・・・・・、1と2を間違えた??ええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜???」


彼女は落胆のあまりその場に座り込み泣き出す。


「私ったら、初めてなんで緊張して眠れなくって、目覚まし10年間違えちゃったんだ。」


「まあ、そんな間違いよくあるよ。僕だってときどき目覚ましとめちゃって遅刻するし。」


「どうしよう、死神は一度地上に降りて来たら魂を持ち帰るまで帰れないんですの。」


僕は少しだけ考えたけど、結論は決まっていた。


「じゃあ、いいよ。少し早いけど、僕の魂を君にあげる。」


ルナは泣き濡れた瞳を僕に向けて無理に笑い顔を作った。


「ありがとう、ユウキさん。気持ちはすっごく嬉しいんですけど、運命は変えられないんです。」


そう言って再びシクシクと泣き出す。


「私・・・、どうしたらいいんですの?行くところもないし、おなかすいたです。」



電車を3本乗り継ぎ、ようやく最寄り駅に到着する。

そこからバスに乗って20分、終点のバス停で降りて、田んぼの中をカエルの鳴き声を聞きながら15分。

ようやく家にたどり着く。


「ただいま。」


台所の方から声がした。


「おかえりなさいです。今日はユウキさんの好きなカレーライスですの。」


結局、あの日・・・僕はルナを家に連れて帰った。

ルナとずっとずっと一緒に暮らしている。


よく言えば古風、普通に言えば当たり前じゃないルナのために僕は郊外に家を買った。

ローン残高は保険金で支払えるだろう。


「ルナ、あとどれくらいかな。」


「えっとですね、あと2年と1ヶ月と10日ですの。」


「もうちょっとだね。」


ルナはうれしそうにうなずく。


「休みの日はどこに行こうか?」


「原宿に行って見たいですの。」


「また、スイーツの新しい店を見つけたな。」


「だめ・・・ですか?」


上目がちにおずおずと尋ねるルナを抱き寄せた僕はキスをした。

死神の接吻ならぬ、死神への接吻だ。


「いいよ、ついでに服も買おう。春だし明るい色のな。」


ルナの表情が明るくなる。


「かわいいハサミも欲しいですわ。」


僕は35歳で死ぬ。

そのことは変えられない運命だ。

でも、それは35歳までは死なないということ。

だから1日を大切に生きている。


ただひとつだけ気になっていることがある。

僕は死ぬ1分前に彼女についての記憶を全て忘れてしまうということ。

あれから僕の記憶はルナのことで埋め尽くされているのに、もし彼女のことをすべて失ったら・・・・。


それは本当に僕なのだろうか。

死ぬことよりなにより、彼女との思い出を失うことが怖くて仕方がない。

長い間、かけない状態が続いていまして、心の余裕が無くなったのでしょうね。

こんなお気楽な話が書けるようになるくらいには落ち着いてきたのかなとも。

再開は、あえてホラーじゃない話にしました。

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