半妖我天:その8
【神贄に力授けることなかれ】
のけものにされていた、俺、ですらその言葉は知っている。
神の生贄が、力を持つことは許されない。
そう謳っているのかと、小さい頃は思っていた。
だが、ある時、俺はその理由を知る。
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「おい、町はずれの屋敷で殺しがあったそうだぞ」
「誰がそんな事を…」
「なんでも、下人がやったそうだ…」
「なんとまあ、自分のところの主人を」
そんな農民の会話を聞きながら、俺の足は
その町外れの屋敷へ向かっていた。
自分の家とも思えない、宇賀裏の屋敷に、大人しく
帰るよりも、よっぽど面白そうだったからだ。
その屋敷は、表向きは普通の武家屋敷だが
裏からこっそり入ってみると、至るところに
護符や式札があって、俺が見ても、ここは陰陽師が
住んでいるんだ、ということが分かった。
「殺したのか?」
「勿体ないが、あぁなってしまっては、もう…」
「そうか、もう使えないなら仕方ないな」
近くで聞こえる声に、思わず身を隠した。
そこには、宇賀裏の屋敷で見たことのある陰陽師が数名。
足元には、俺より少し年上くらいの青年が横たわっていた。
「まあ、でも、この陰陽師の自業自得だろう?」
「あれだけ、この一族に術を、教える事は
禁じられているのに、愚かなやつだ」
「俺も自分の奇血餌を持ったら、絶対にもっと
上手く飼いならすよ…」
「おい、そんな言い方、他の奴に聞かれてみろ…!」
「あぁ、そうだった…彼奴等にも人らしさを、だったか」
木陰に俺が居ることも知らずに、陰陽師たちの話を聞く。
自分で言うこともなんだが、あの歳の餓鬼にしては
俺は周りより頭が良かった。だから、こいつらが
話している内容も、理解が出来た。
理解したと同時に、言い様のない嫌悪感が俺を襲った。
(奇血餌…陰陽師の間で禁止されている、神贄一族を
指す呼び方…自分の式神の餌、としか思わない奴らが
この呼び方を使っていたけど…要様が禁じたんだ…)
彼らは神の生贄にされる為に、生まれてきたんじゃない。
人として生まれたからには、人として生きる喜びを
感じなければいけない。
要様は、いつだって人の為を考えている。
そんな所に、俺は救われたし、尊敬している。
こいつらは、その意を汲む事が出来ないのか。
神贄の一族が何をしたというのだ…
言いようの無い怒りが、湧き上がっていた俺だが
結局文句なんて言うことは出来ず、ただ木陰に
隠れていることしか出来なかった。
陰陽師達は、続けてこういった…
「それにしても、この一族、本当に力を
使いこなしたらどうするんだ…?」
「あの位の陰陽師が、粉々になる程の力とは…」
「こいつらに、力を授けることなかれ、は確かに正解だな」
自分たちの足元で、横たわっている青年を見ながら
彼らは、顔を歪めていた。
(あの青年は、神贄の一族だったのか…)
いつか、要様が話していたことを聞いたことがある…
「彼らは、弱く脆い生き物だと思われている、だけど
実際は誰よりも強い力を秘めているんだよ。
その事実が伝わってしまわないように、我らの祖先は
彼らに力の使い方を教えることを禁じたんだ。
彼らの力は、この世を滅ぼしかねないから…
本当に私達は、強欲だよね…」
悲しそうに話す、要様の顔が頭に残って離れない。