半妖我天:その7
僕が落ち着きを取り戻した頃、あまりの騒ぎに
他の陰陽師達も集まってきた。
「なんだ、牛鬼か?」
「化け物が化け物を倒したのか…」
「それにしてもなんで、こんな所に牛鬼が居るんだ?」
そう言われてみれば…確かに、宇賀裏の屋敷が結界に
守られてない、わけがないし…
「さすがの宇賀裏の屋敷も、鬼門は結界が薄くなるね〜
誰だい、この場所の見張り役は?」
「あぁ、遊朴様!ここの見張り役は、ついこの間
徒習になったばかりの奴でして……」
「そうか、徒習か…よし、皆今日は招集日だし
僕が結界を作り直すから、皆は広間へお戻り」
遊朴さんや他の、陰陽師さん達が話しているのを横目に
僕は帝斗さんに着物の襟を引っ張られながら、連れて行かれる。
「うわぁ、わぁ、いてっ、あ、あのっ、帝斗さん!
徒習ってなんですかっ」
「あ?徒習は陰陽師の位の中でも一番下っ端の位だ、そこら辺の
農民と殆ど変わらねぇ」
「一番下っ端…」
「おい、それよりお前どこから走った?」
「走った?鬼と会ったとこですか?池がある所に居たら
急にあいつが出てきて…」
「池、そうか…わかった。いくぞ」
「帰るってことですか?帝斗さん?帝斗さーん!」
あれから5日。心なしか、帝斗さんは僕に優しい。
いや、今までの扱いが荒すぎて、僕がそう
感じているだけかもしれないけれど。
それにしても、万屋のくせに、仕事は何も来ない。
なんで僕は毎日ご飯が食べていけるのか、不思議でたまらない。
僕もすることがない、帝斗さんにご飯を作るくらいだ。
スーッ
ご飯を持っていった時くらいしか開かない書斎の扉が開く。
「おい、お前、術を学べ」
「術????」
久しぶりに、書斎から出てきたかと思ったら、この人は
何を言っているのだろう?
「術って…僕、習ったことも使った事もないんですけど…」
「おう、だから学べって言ってんだよ、弱いんだよお前は」
「なっ!そんな事言ったって、僕は生まれてこの方
陰陽師とは共に過ごしてきましたけど、術とかは
本当にさっぱりわからないんですよ!」
「うるさい、黙れ、俺だって何も知らない奴に
1から自分で学べとは言わない、座れそこに」
帝斗さんに言われるがまま、座って話を聞く。
「いいか、俺がお前に簡単に説明をしてやる、よく聞いておけ」
そう言って、帝斗さんは宇賀裏の一族の話からしてくれた。
この話をしてくれる事自体、僕には特別なことに思えた。
安倍晴明の子孫ではなく、全くの別の一族で、安倍晴明から
知識という宝を貰い、他の脅威から守ってもらい。生きてきたこと。
安倍晴明亡き後、取って代わるように表舞台で活躍してきたこと。
一族の総代の名は「要」を継ぐということ。
それから、遊朴さんは宇賀裏一族の中でも、御三家と言われる者で
次期総代ではないか、と言われていること。
「まあ、あいつが次の総代を継ぐとは、俺は思わないけどな」
「なんで、そう思うんです?帝斗さんより優しいですよ?」
「あのなあ、時には優しさより怖い者はないって言うだろう。
それに、あいつの他に、まだ2人次期総代の候補が居るんだ
まあ、それはまた今度話してやる」
「丹把、ここに立て」
そう言われて、帝斗さんの前に立つ。
「普通の人間は、妖怪を視ることも使うことも出来ない」
「はい、だから僕、術もなにも出来なくて…」
「そうじゃない、普通は視ることも出来ないんだ。
でもどうだ、お前は、”視る”事は出来るだろう」
「あっ、本当ですね…」
「お前は、使えないことはないんだ、頭のどこかで
使わないようにしているだけだ」
神贄の一族には、俺たち陰陽師の間で
暗黙の了解としていることがある。