半妖我天:その4
「なんでっ、広間の、方に…
走らなかったんだ僕は…っ、はあっ」
「グワセロ”ッッ」
本当に、広すぎだろうこの庭。
あぁ、ここで死ぬのか?こいつに喰われて?
たくさん陰陽師がいるのに?僕が必死に生き抜いた
この半年はなんだったんだ。
あぁ、もう走れない…次に地面を蹴るべき足が
どちらなのかもわからなくなってきた…。
駄目だ、もう前に進めない。
「グワァァア” イタダキマ”ァス」
(羽良徒…僕も君の所へ行くみたいだ…)
皆がいなくなってから、正直何のために、一生懸命
生きようとしていたのか…わからなかった。
何故僕だけ生き残ったのかも、何故皆が殺されなければ
いけなかったのかも、もう一人で一族の分まで生きなくて
いいんだ、と思うと楽になれる気がした…。
「…っおい、糞餓鬼!!、なにもう死んだような面してんだっ」
もうこいつに喰われても良い、そう思った時
聞こえてきたのは、帝斗さんの声だった。
「おいっ、どこまで馬鹿なんだお前は!!」
「…へっ、帝斗さん…?」
「なんでこんな処に牛鬼がいるのかは知らねぇが…
丁度暴れたかったところだよ…
呼獣使その三 喰らえ 真狼」
この半年、帝斗さんがこんなに動いてるところを
見たことがなかったけれど、今目の前で、宙を舞っている
この人は、本当に帝斗さんなのだろうか?
突然の出来事に、さっきまで死を受け入れようと
していたことなんて、とうに忘れ面食らっていたら
あっという間に、地面で牛鬼がのびていた。
「あれれ、妖気を感じて来てみたけど…帝斗一人で
十分だったみたいだねぇ」
「ゆ、遊朴さん…」
「丹把くん、心配したよ、戻ったらいないし
無事で良かった、本当に」
「おい糞餓鬼、お前も少しは力をつけろ!!
死ぬことなんてなぁ、誰でも出来るくらい簡単なんだよっ!!」
「帝斗、そんなに怒鳴らないであげなよ」
帝斗さんにこんなに怒られたことは、初めてだ。
でも、僕だって、必死に生きてる。ただ生きてるだけなんだ。
「…僕だって…必死で生きてきたんですよ!!
でも、なんの力もないんです!!帝斗さんたちみたいに
妖怪が使えるわけでも、術を出せるわけでもない…!
それなのにこの血のせいで、いつまでも狙われて…
ただ、普通に生きたいだけなのに…う”ぅ…」
「丹把くん…わかったから、泣かないで、落ち着いて?
ほら、とりあえず、その転けた怪我を手当しよう…」
その後は、遊朴さんになだめられながら、怪我の手当を
してもらった。この半年なんとか頑張ってきた緊張が
一気に抜けたような、なんとも言えない脱力感に襲われた。
「帝斗、わざとでしょ?」
「は?何のことだよ」
「丹把くんにあんなふうに怒ったの、わざとそうしたんでしょ?」
「チッ、うるせぇ…俺じゃねぇ…」