半妖我天:その1
「うわ、なんだ、くそっ」
ドタドタッ
「なんだ、こけたのか」
「なにかに引っかかったように見えたぞ?」
ガヤガヤガヤガヤ
「俺の財布なんか盗むからだろう、餓鬼が返しやがれ」
「帝斗さん、こんな人混みの中で、真狼を
出さないでくださいよ、目立ちます」
「うるせぇ、丹治、あいつが俺の財布を盗んだほうが
よっぽど悪いだろう、それにどうせコレは見えねぇ」
「そうですけど……はぁ……」
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人が多く、商売が栄える街、庵楽。
世の中の多くの人が、自分が見るもの、見えるもの以外を
信じる事が、少なくなったこの時代。
だが、未だに妖怪が暗闇を跋扈している。
人々が気付かない間に、着々と侵食していき
再びこの世界は、妖怪たちのものとなろうとしていた。
そんな中、人知れずそんな妖怪共を退治し
人々の生活を守っている一族が居た。
その一族の名は宇賀裏。
陰陽師、安倍晴明が秘密裏に育て、隠し続けてきた
存在こそが宇賀裏家である。
誰も、その存在を知ることがなかったが、陰陽師という
言葉すら廃れてきた頃、安倍晴明に取って代わって
その存在を表すかのように表舞台へ顔を出し始めた。
今や裏世界で人間も妖怪も、その名前を知らないものはいない。
僕の名前は丹把。僕の一族の血は、妖怪が
好む希血と言うらしく、その血を呑めば
格段に能力が上がるらしい。だから、僕らは
代々陰陽師に守られつつ、彼らが使役する妖怪達に
その血を分け与えてきた。一族が皆殺しされる日まで…。
僕はその一族唯一の生き残りだ。
妖怪に襲われ、なんとか逃げおおせたが、一族は皆殺し。
僕以外、生き残りは居ない。逃げた後もこの血のせいで妖怪に
何度となく狙われ、長屋の間で死にかけていたところを
助けてくれたのがこの人。帝斗さんだ。
それからというもの、僕は帝斗さんの家に住まわせて
もらいながら、身の回りの世話をしているのだが……
「おい、丹把!飯はまだか!」
「はい!もう、出来てます、今持っていきます!」
「丹把!郵便もってこい!」
「はい、今!!」
正直人使いの荒さと言ったら
この人の右に出る人は、居ないだろう。
ガサガサガサッ
「!?」
【帝斗!帝斗!召集だ!今宵宇賀裏邸に集まれ!!】
何度見ても慣れないこのしゃべる猫。
怪猫と言うらしい、猫又とはまた違うそうだ。
「聞きましたか?今夜だそうですよ」
「っち、またバカみたいな集まりに呼びやがって」
僕にしてみれば、そんな凄い一族の集まりに呼ばれるなんて
恐れ多いことなのに…
そもそも、僕は、まだ帝斗さんの事をよく知らない。
自分の話をしたがらない、と言う方が正しいだろうか。
助けてくれのだから、もっと恩返しがしたいけど
話してくれなければ何も、わからない。
帝斗さんが住んでるこの平屋で、万屋をやっているのだが
その手伝いばかりで、帝斗さんに何か恩が返せた訳ではないし…
そもそも、ふらふら出歩いてばかりで、全然仕事なんか
してないじゃないかこの人……はぁ、先が思いやられる…