001 学生生活開幕編①
太神貴明はいつも普通の生活を送りたいと考えていた。
というのも、貴明の親は日本有数の大企業の社長であり、先祖代々築いてきた太神家の栄光を引き継ぐために貴明は英才教育を受けてきた。
そのため、同年代の子供達みたいな普通の生活を送れなかったのだ。
一般家庭よりも厳しい生活環境にいつしか痺れを切らし、「俺は跡を継がねえ!」と親に啖呵を切った。
猛反発を喰らうかと思いきや、それも一つの道だ、と親は快諾。
あまりのあっさりさにこれまでの人生は何だったのか、と貴明は頭を抱えた。
とはいえ親から許しを得たため、一般常識を覚えたり、生活能力を高めるために実家を出ていくことを決意した。
ただ、それでも一人息子のことは心配なのだろう。
一人暮らしを許可するために交換条件が一つ与えられた。
それは、幼い頃から貴明専属のメイドである谷沢朱梨をお目付け役として同じ学校に通わせることだった。
かくして、貴明は普通の生活を得ると共に、朱莉との高校生活を始めることになった。
「いやしかし、谷沢さんって高嶺の花だよなー。顔もかわいいし、高校一年生なのにプロポーション抜群だし!」
クラスメイトであり、友達の関田亮二が女子友達と話している朱莉をチラ見しながら口にする。
「……そうか?」
と、貴明は恍ける。
自身のお目付け役として一緒に入学した朱莉だったが、互いの関係性は周りにバラさないようにしよう、と意見を合わせていた。
そのため朱莉とはあくまで偶然同じ地域からやってきたただのクラスメイトとして日々を過ごしていた。
入学してから一週間。
貴明と朱莉が主従関係であることがバレる気配はない。
同じ地域の人間ということもあって意気投合し、他と比べると少々親密な関係である、ぐらいにしか思われていないはずだ。
「おいおい、恍けるなよ。俺は妬みで言ってるんだぞ。入学早々あんな可愛い子と付き合ってイチャイチャを見せつけやがって」
「何言ってるんだ。谷沢とは別に付き合っていないぞ。ただの友達だ」
「毎日一緒に登下校したり、谷沢さんに弁当作ってもらってたりするのに、付きあっていないと申するか?」
「――私のこと呼んだ?」
最初はコソコソ話だったのに、熱が入っていつの間にか声が大きくなってしまったのだろう。
自分が話題になっていることに気づいた朱莉は、貴明と亮二のもとにやってくる。
「た、谷沢さん。あはは、気にしないで~」
困り顔で笑顔を浮かべる亮二を見て朱莉は首を傾げた。
それから貴明の方に向き直り、「あ」と何かに気づいて目の前にやってくる。
「ご主人様、ネクタイの結び目がおかしいです。もう、いつまで経っても慣れないんですから。今直し――」
「……谷沢」
「……………………あ」
ネクタイに手をかけた朱莉の手がピタリと止まる。
己の失態に気づいてしまったからだ。
「え、二人が恋人同士だったのは知ってたけど、そういう関係性!?」
「高校生なのに主従プレイ!?」
「へ、変態だー!」
「待て、待ってくれ! 話を聞いてくれ!」
クラスメイトの誤解を解くために、結局二人は互いの関係を全てつまびらかにしたのであったとさ。