表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世の外で  作者: 伊田 千早
8/17

遠くの空はまだ青く2

「あの子は、超能力者なのかな?」

 超能力者だけが侵略者を見ることができ、触れることができる。

「そうだと思います」

「でも、超能力はまだ発現していない」


 少女は一般人であった。少なくともそのときまでは、そう思われていた。母親も注意して観察していたという。


「そもそも遺伝することはあるらしいですけど、必ずしもそうとは限らないそうですよ」

 超能力に関することも、侵略者に関することも良くわかっていない。そもそもにおいて、大半の人には目撃されず、絶対数が少ないからだ。そして恐らくそれを調べる予算もない。


「超能力に関することはよくわかってません。何も解明されてませんし。ただ、超能力をもっていない人にも侵略者が見えるようになっているなら、世界はこんなに静かであるはずはありません。宇宙人の襲来ですよ。今回のことは、母親の超能力を遺伝していないとしても、何かしらの影響は受けているのでは、と思います。もしくは、超能力が発現しかけているか、です」

「怪我をした、というのは?」


 侵略者は超能力者をさらうという。それを目撃したというひとはほとんどいないため、はっきりとしたことは、これもやはりわかっていない。ただ、行方不明の超能力者は何人かいる。


「連れ去ろうとして、転んだ、とかですか?」

「うーん」


 亘はだらだらとした上り斜面、沢の上方を見上げる。草木の生い茂ったここを歩くのは、憂鬱だ。そして、何かが変わろうとしているのか、と想像する。この山には何か得体の知れないものがあるような気がしていた。


 山の奥の方へ行くと背の高い木が増え、勾配はやや緩くなる。すると、木によって光が遮られるせいか、草の量がやや減った。

 とはいうものの、人の手がほとんど入っていない道は、石が大小ばらばらに転がっていたり、とてもすべりやすかったり、大木が倒れて塞いでいたりと歩くことがなかなか困難であった。沢は山の斜面を削った浅い谷の地形をしており、見通しが全く良くない。


 亘と聖は右往左往しながら沢の中を進んだり、沢沿いをたどったりして上を目指す。地形図に寄れば、もう少し行けば、上の方の道に出るらしい。山に入る人しか使わないような古い道のようだ。

 しかし、薄暗い山中において、遠くの明るい部分がどうなっているのかはよくわからなかった。


 結局、岩をよじ登って上の道路に出てくることはできたが、侵略者は見つけられなかった。

 道路にたどり着いたとき、亘の心臓の動悸は異常なほどに激しかった。脈打つ鼓動が喉にまで、伝わってくる。


 今一段と蝉の鳴き声が騒々しく感じた。


 一層、気温は上がったように感じられ、音と熱が激しい合唱になっている。しかし、蝉はその夏のあまりの暑さに悲鳴を上げているかのようにも思われた。


 道路沿いの木陰で亘と聖は休んだ。立ち止まると本当にまるで滝のような汗が流れ落ちていく。

「汗が、ひどい」

「ほんとに」


 力なく笑いあい、首を巡らし周囲を見る。暑さでどれだけか、熱中症になりかけているのか、世界は一層に明るくまぶしく煌めいている。

 風が吹き抜け、それは世界の広さであり、それが異様なほどにびっくりするほど、涼しい。心なしか、蝉の合唱が薄い帳の向こうになった気がした。


「けれどいい天気だ」

「ほんとうにね」

 また、力なく笑いあう。


 亘と聖はそこから道路沿いに下っていく。道路は結構荒れていた。道路上には、山の上部からの落石や、落ち葉がそのままになっている。

 地形図によれば、道路をそのまま下っていくと地形はなだらかに広がるらしい。そこは、侵略者を目撃した辺りの斜面上側に当たる。

 道路の辺りからは斜面が比較的広く見渡せた。背の高い木が多いため全体的に薄暗く、その隙間でぽつぽつと木漏れ日が落ちている。


「銀色だから、わかりやすいと思うんだけどな」

「向こう側にいたら、見えないですよ」

 超能力者は、侵略者を見ることができる。侵略者がこの世界にいるときなら、見ることができるのだ。

 彼らは前触れもなく、どこからともなく、現れる。ただわかっているのは、同じ場所に現れる傾向にあるということだ。


「いないのかな」

 一縷の風が吹いた。辺りの草木がさざめく。

「早計ですよ」

 横に立つ聖が落ち着いた声でそうつぶやく。

 彼女は頬に汗を垂らし、目を見開いて斜面を見下ろしていた。その目は黒く、ほんの僅か青色がにじんでいた。


「見えません」

 と彼女はこちらを向く。やはり黒色に僅かな青を含んだ瞳は普段のものとは違うように思われる。聖が一度瞬きをするとその違和感は消えた。


「超能力?」

「別にサイコキネシスだけなわけじゃないですから」

 しかし、超能力としてもっともイメージされるのはサイコキネシスの類であり、それ以外の超能力を亘はまだ見たことがない。本来なら、遠くの者と会話をしたり、遠くへ瞬間に移動したりすることも可能であるらしいが、ほとんど使える人はいない。


「それは遠くまで?」

 訊ねると、

「目がかなり良い人程度何ですけどね」

 と苦笑いで答えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ