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この世の外で  作者: 伊田 千早
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遠くの空はまだ青く1

 亘が、今感じたそれを言葉にするならば、どこか懐かしい寂しさ、というものであった。

 

 そのときは住宅街を歩いていた。

 賑やかな家、明るい家が並ぶその通りはもう夕暮れを終えた時間であり、薄暗い。街灯がぽつぽつ点っている。


 歩いていると、壁越しに家のにぎわいや、夕食のに甘いおいが道路にまで漂っている。

 おもむろに顔を上げると、夜が空を覆いかけていた。そう表現するのは、遠く西の空はまだかろうじて淡く青色であるからだ。暗い陰を落とすちぎれ雲が淡い空に佇んでいる。


 暗い夜に飲まれようとする淡い青空は、どこか儚くて、理由のわからない苦しさを覚える。この時間に大空に上がったら、何が見えるだろうか。見たこともない景色に、まだ夕暮れは見えるのだろうか。それは一体、何者で、どこなのだろう。自身、理解のできない思いを想像した。



 数日後、亘は山の斜面をなぞる道路の端っこ、眼下が崖となるガードレールの傍を歩いていた。

 南向きのこの場所からは、幾重もの山並み、眼下には僅かな集落と細い川、所々岩が露出した岩崖を眺めることができた。


 夏の昼下がり、気温はとても暑く、すぐに汗ばんで、道路は陽炎にゆがむ。辺りは緑だらけであるので、蝉の鳴き声であふれている。


「今日も全く暑いな。こんな日に山散策とは地獄だぜ」

 と前を歩くサワが文句を言う。

「サワ、おまえ、登山するんだろ?」

「高山は夏でも涼しいんだよ。ここは草木が茂っていて、蒸し暑いだけだ」


「なら、サワ、俺とお前はこっちの沢を降りていこう。川が比較的大きいらしい。涼めるぞ。亘、聖は、向こうの沢を上って行ってくれ」

 亘は折り畳んだ地形図を見て、頷いてみせる。


 道路をしばらく進んだ先に、沢があった。道路の下を横断しており、すぐ上方に砂防堰堤いくつか見受けられる。地図に示された形と数が一致していそうである。

「ここっぽいね」

「ここですか」

 聖の声音には苦い笑みが感じられた。


 砂防堰堤という人工物があるものの、道らしい道はなく、沢沿いは鬱蒼と茂った草むらであり、一瞬中に入るのはためらわれた。

「行こうか」

「行きましょう」


 もし亘が行こうと言わなかったら、さすがの聖は行こうとは言わなかったのではないか、と思われた。

 道路とは違い、コンクリートもアスファルトもない。歩けるように閉め固められたわけでもない。ただ自然に戻ってしまった草むらは草をかき分け、凸凹としたぬかるむだけで非常に歩きにくい。あちこちを虫が舞い、聞き慣れない物音がする。砂防堰堤を何個か乗り越えるころには、何度か亘も聖も足を滑らせていた。


「沢さんの言ったとおりでしたね」

 砂防堰堤の袖のコンクリートの上に乗って休憩中、聖が言う。

「着てなかったら擦り傷だらけかもしれない」

 亘は自身の頬を汗が流れ落ちるのを感じる。それをタオルで拭う。おろしたリュックから飲み物を取り出す。


「きっと靴はずぶぬれですよ」

 聖も笑みを浮かべながら自分の飲み物に口を付ける。

「ふう……」

 今、亘と聖はベージュ色の長袖とズボン、つまりは作業服を着ていた。そして靴の代わりに長靴、頭には帽子。

 決して格好良くはない姿であった。


 今回の調査内容はこういうものであった。

 山間の村で侵略者が確認された。それを目撃したのは、少女であり、なんと危害を加えられ怪我をしたという。その少女の母親は超能力者であり、少女の証言から侵略者を想像し協会に報告したという。とうとう侵略者の被害を受けた一般人が出てきたのか、その事実確認及び侵略者捜索、そして破壊のため。


 少女は山沿いの道路を歩いて友人の家に向かっている最中に山中の草むらを歩く銀色の機械の人間をみたのだと言う。そしてそれが駆け下りてきて、怪我をした。しかし、そのあとすぐに侵略者は山に逃げていった――。


「こんなんで見つかるのかな?」

「どうでしょうね」

 夏真っ盛りの山の中、草木がもっとも謳歌する時節にあって、どこもかしこも木々が繁茂し視界は揺れる緑色に覆われてしまっている。どこに何がいてもそう簡単には見つけられないような状態だった。少女が目撃した場所付近はすでに通ってきたが、何者も見つけられなかった。天気が良い今日は、侵略者の銀色の体は見通しの良いところなら見つけられるだろう。そこでその周辺の山の中を手分けして探そうということになった。そのための服装と装備なのだ。



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