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この世の外で  作者: 伊田 千早
3/17

星は散り風は涼し3

 それを見つけたのは、スクランブルの中に侵略者が棒立ちしているのを見つけ慌てて、喫茶店を後にし、先ほどの予行練習通りに聖が捕縛し、亘が後を支え路地裏に追いやったところで侵略者は逃げて行って、よしよし今日はこれで終わりかなと肩をすくめ、スクランブルに戻ってビル群と青空を見上げた時であった。


 亘はそれをじっと見上げそれがやはり異質であると思い至る。

「聖」

 前を歩いていた少女が振り返る。


「なんですか?」

「侵略者には、人型以外のものもいるんだよな?」


「そうですね。様々です。人の形が多いですけど」

「あれは? あんなものあったかな?」


 亘は、青空に群がる灰色のビル群の中に突き出たものを指差した。銀色の遠目でもわかる銀の光沢のある塔が、そこにはあった。

 聖の場所からは見えにくかったのか、亘の方に近づいてきて、どれ? と覗き込んでくる。


「あれだ」

 亘からは聖の横顔が見えている。思わずそれに見とれていると、聖が素早くこちらを向くから亘は焦る。心臓が高鳴った。


 しかし聖はそんな亘の思いには気づいていないようだった。

「あれは……理想郷、です」


「それは、なに?」

「侵略者と深く関係していると言われている滅多に見つからない場所です」

 不意に聖が亘の手を引っ張る。そして前に進んでいく。当然理想郷と呼んでいた奇妙な塔の方へだ。




 亘と聖は古めかしいが背の高い見上げるほどのビルの屋上の端にいた。手すりの外側の落ちたら落下する端っこに立っていた。心なしか、心臓は大きく鼓動し、やや緊張を覚える。そこから建物が林立する街を見下ろしていた。


 結局理想郷の傍に近づいたところ、それはゆっくりと霧に包まれて空に溶けるように消えてしまったのだ。手持ちぶさたになってしまった聖と亘は、どうしようかとさまよっていると、聖があそこに行こうと指さしたのが、この建物だった。


「少し曇ってますね」

 空は白い部分が多く青い部分は少なくなっている。


「理想郷に行けると思ったのに、残念です」

「そう、なのか?」

「わくわくが削がれましたね。そうだ」


 何かを思いついたのか、聖は首を巡らしてある方向を見上げる。手を突きだした。

「なにを?」

「見ててください」


 穏やかに聖はほほえむので、亘は黙ってそれを見守った。僅かながら、冷えた風が吹いたように思われた。落ちそうになるような感じがして少し亘は怖くなる。


 聖は変わらず空に手を突きだして、空を見上げている。亘はその方をみる。雲が動いていた。それはするすると移動している。天候の良くない日など、雲の流れは非常に早い。しかし、今日は雲が多いがそんな感じではない。雲はするすると移動していく。やがて、晴れ間が広がっていく。


「これ、聖が?」

「そうです!」

「……すごいな」


 正直な感想であった。一個人が空の雲を動かしている。それが可能であると知っていることと、目の当たりにすることは全く違う。それを強く思い知った。

「あ、月だ」


 雲の向こうの青空に小さく丸い白いもの。真昼の月であった。青い宇宙に満たされた異世界が浮かんでいる。

「あれが見れるように空を選んだんですよ」


 雲が流れ、空が広がり、真昼の月が見える。それは全く知らない世界が、とうとうと広がって、それは何も知らない未知であるが、柔らかい光に包まれたものである気がした。誰も知らない 

あの月のように、この街の広がる誰も知らない世界に今、亘はいる。


 この選択は、間違いではないと、その時、そう思えることができた。

「亘さん、わたしたちは世界を守るんです!」


 背を向けたままの聖がつぶやく。

 世界を守る、呟くとそれは、まるで絵空事に思えた。ぼんやりとそれがどこまであるのか判別できず、また曖昧であった。


 しかし、そうではない。その空は確かにそこに、世界の上に遍くあるのだ。

「がんばります」


 亘は言いにくいその言葉をなんとか言う。

 そして。


「一緒にがんばりましょう」

 聖はこちらを向いて、元気良く言ってくれた。

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