シナリオ課題3〈復讐〉
シナリオ課題3は〈復讐〉です!
〈題名〉
大切な人
〈人物〉
鈴耶琴音(24)
柳本爽太(27)
日下秋帆(27)琴音の上司
〈本文〉
◯鈴耶家・琴音の部屋(朝)
机・本棚・ベッド以外ほとんど物の置かれていない部屋。
鈴耶琴音(24)、机の前で立ち止まり、机の上に置いてある二枚の写真に目を向ける。
琴音「おとうさん、お母さん。……お姉ちゃん。今日も一日、頑張ってくるね」
琴音、写真に微笑みを向け、カバンを持って部屋を出ていく。
◯カフェ
賑わう店内。
琴音と日下秋帆(27)が向かいあって座っている。テーブルの上にはサラダやパン、それぞれが注文したパスタなどが並べられ、二人で食事をしている。
秋帆「そういえば……。柳本とは最近どうなの?」
琴音、コホっと咳込み、パンに伸ばしていた手をピタリと止める。
琴音「急にどうしたんですか?」
秋帆「急ってわけでもないでしょ。連絡とり始めてから4~5ヶ月経つっていうのに、ふたりとも進展してるのかも何も教えてくれないんだもん……」
秋帆、頬を膨らましてむくれる。
琴音「えっと……その、ごめんなさい」
琴音、俯く。
秋帆、手を伸ばし、琴音の頬をツンツンとつつく。
秋帆「まぁ、こまめに報告してとは言わないけどさ、やっぱり心配だから……ね。私が二人を引き合わせたわけですし」
あははと少しおどけたように笑う秋帆。
秋帆「あれから何度かはあってるんでしょう?もう付き合ってる?」
琴音「あっ……。えっと……」
琴音、視線をさ迷わせてから、
琴音「こっ……告白はされました……」
秋帆「あいつにしては頑張ってるのね。……で?返事はどうするの?」
琴音「それは……」
琴音、困ったような表情をする。
秋帆「何度かあってるってことは、アイツのことが嫌いなわけではないんだよね?」
琴音、コクリと頷く。
秋帆「当人たち次第で、周りがとやかく言うのは良くないってわかってるんだけど……」
秋帆、一度溜まり、少し悩んでから、
秋帆「あいつも……昔いろいろあったみたいで、今まで全然彼女作ろうとしなかったんだよ。だけど、琴音に会ってからいい意味で変わってきてるんだ。だから……」
秋帆、琴音の目をしっかりと見つめ、
秋帆「嫌いじゃないなら……友達としてでもいい、あいつの側にいてくれると嬉しいな」
琴音俯き、複雑な表情をする。
◯鈴耶家・琴音の家(朝)
琴音、机の前で立ち止まり、両親の写真を見てから姉の写真を見る。
琴音「今日で10年……か……」
琴音、姉の写真に悲しげに微笑む。
琴音「待っててね。必ず――」
琴音、部屋を出ていく。
◯新幹線駅・改札中(朝)
琴音と柳本、新幹線のホームへと歩きながら、
琴音「今日は、無理言ってごめんなさい……」
柳本「気にしないで。琴音さんから誘ってくれるなんて思ってもなかったから……それだけで嬉しいよ」
柳本、琴音に笑顔を向ける。
柳本「それにしても、家の人、本当によかったのか? いつも厳しいからって……」
琴音「そうなんですけど、これから行く場所は毎年行ってるところだから……」
柳本「だったら、なおさら家族と……」
琴音「こっ……こういうときじゃないと一緒に遠出は難しいですから!」
琴音、柳本の服の裾をきゅっと掴み、おずおずと柳本の顔を見る。
柳本「……わかった。琴音さんがそれでいいなら……」
琴音「……ありがとうございます」
柳本、琴音の頭を優しく撫でる。
琴音、俯き唇を噛む。
ホームに新幹線が来る。
琴音と柳本、新幹線に乗り込む。
◯田舎の駅・外
駅舎から出てくる琴音と柳本。
柳本「琴音さんって、この辺が地元?」
琴音「そうです。話してませんでしたっけ?」
柳本「あぁ……。俺も地元ここなんだよ。もしかして、昔会ったことがあったりして」
琴音「それはないと思いますよ。昔は体が弱くてほとんど入院してたから……」
琴音と柳本、共に少し沈黙した後、バス停へと向って歩き出す。
◯霊園・バス停
バスから、琴音と柳本がおりてくる。
柳本「お墓参り?」
琴音「えぇ、今日、大切な人の命日なんです。どうしても柳本さんと一緒にお参りに来たかったので……」
柳本「それならそうと言ってくれたらよかったのに」
琴音、少し困ったような表情をしてから、歩き出す。
柳本、琴音の後をついて歩いていく。
琴音「私の自己満足みたいなものですし……
あんまり構えてはしくなかったから…」
柳本「そんな、気にしなくていいのに……」
琴音「(呟くように)本当に優しい人……」
柳本「ちなみに、大事な人って?」
琴音「えっと……。昔、私のことをずっと支えて、守ってくれてた人なんです」
琴音、懐かしそうに目を細める。
柳本「そういえば小さい頃は入院してたんだったよな……。その時に関係ある人?」
琴音「そのときも関係ある人です」
柳本「ふーん……。それにしても、偶然って重なるもんなんだな……」
琴音「……え?」
琴音、不思議そうに柳本の方を見る。
柳本「俺の知り合いにも今日、命日のやつがいるんだよ。」
琴音「その人は、どうして……?」
柳本、空を見上げ、
柳本「高校の、校内に刃物を持った不審者が出てさ、運悪く遭遇してさされかけたとこ、俺をかばって……」
柳本、目を細め、
柳本「俺が守らなくちゃいけなかったのに――」
柳本、俯き、悔しそうに両手に力を込める
柳本、俯いたまま、絞り出したような声で、
柳本「俺なんかよりも、あいつが生きてるべきだったんだ……」
琴音「その人のこと……?」
柳本、慌てたように顔をあげ、
柳本「あっ――。そいつのことが今も好きとかってわけじゃなくてだな……。ただ……あいつ、小さい頃に両親無くしててさ、入院中の妹も――」
柳本、はっとしたように琴音の方を見る。
琴音「大丈夫。柳本さんが不器用だけど誠実で優しい人だってわかってますから」
琴音、柳本の前を歩いているため、柳本の様子に気づかず、歩き続ける。
柳本「……」
柳本、考え込みながら、俯き気味に琴音について歩いていく。
沈黙のまま、歩き続ける琴音と柳本。
しばらくして、琴音立ち止まり柳本の方を向く。
琴音「柳本さん?」
柳本「あっ……。いやっ、その……」
柳本、顔を上げ、琴音の後ろにある墓石に彫られた文字を見て目を見開く。
柳本「――茅崎?」
柳本、呆然とその場に立ち尽くす。
琴音、柳本の様子をただ見ている。
柳本、琴音の方を向き、何度か言いかけてやめた後、
柳本「……茅崎綾音の妹……なのか?」
琴音、柳本、向き合ってはいるが、目は合わせない。
琴音「……いっその事、忘れてくれてたら……馬鹿な女だったって笑って……自分勝手に生きてくれてたら良かったのに――」
柳本「忘れられるわけないだろ!」
柳本、琴音に手を伸ばしかけ、途中でやめる。
琴音「そうだよね、お姉ちゃんが選んでた人だもん、悪い人なわけがなかったんだよね……。でも――」
琴音、苦笑しながらゆっくりと柳本と
の距離を詰めていく。
琴音、柳本の目の前で立ち止まり、俯いき、その状態で動か
ない。
柳本「……琴音――」
琴音「でも…ね…―」
柳本、困惑しながらも琴音をじっと見て言葉を待つ。
琴音「いい人だからって、なんでも許されるわけ……許せるわけ、ないと思うの」
ばっと琴音が顔をあげ、柳本は驚いて後ろに下がろうとする。
琴音、柳本が下がるのを待たず、柳本の腹部へナイフを突き刺す。
柳本「ウッ……」
琴音「あなたが……あなたが死ねばよかったのに――!」
琴音、目には涙をうかべながら、柳本が刺された部分に手をあてよろめいて倒れる姿を見ている。
-Fine-
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。