第5夜
「さあ、今日はもう仕舞だ。片づけが済んだら帰っていいよ」
マスターが今日の収益を数えている。
ローマから帰ってきた翌日(既に日付変更線を過ぎたから正確には翌々日)の朝七時、勤務明け。
立ち仕事でむくんだふくらはぎをどうにかしたくて、足首をぐりぐり回しながらモップがけしていると、客を捕まえ損ねたお姉さんがシャネルを香らせてぶつくさ言いながら目の前を横切った。
彼女のピンヒールの音が、ローマの晩の出来事を思い出させた。ヒールがコンクリートを叩く音と、剣戟の音。
今日、アレッシオは店に顔を出さなかった。
別に、だからどうということもない。警察に追われているから、少し気になっただけだ。本当に、少しだけ。
着替えを済ませ荷物を抱えて外に出た。生憎の雨で、夜は明けているはずがまだ暗い。
(……しまった、傘がないわ)
店に戻って借りようかしら。いや、アパートまでどうせそんなに距離はない。服が濡れたら旅行に持っていった服と一緒に洗ってしまえばいい。
そのすぐ後、雨がスコールさながらの大降りになると知っていれば、面倒でも傘を借りたのに。千里眼を備えない私には知り得ぬ話だった。
おかげで準備中の札がさがったパン屋の前で立ち往生。
しゃがみこんで膝の上に頬杖をついて、止みそうにない雨空を見上げる。
悲しいことだった。
アパートの鍵をバックヤードに置き忘れたことに気づいた。戻ったけれど、マスターは帰宅していて、店の出入り口は施錠されていた。
折悪しくクラウディオもローマより帰宅するなり仕事の打ち合わせに出かけ、三日は帰らない。今晩、マスターが出勤してくるまで私は濡れ鼠で待ちぼうけだ。
「へーっくし!」
通りがかったおじさんがぎょっと私を見た。我ながら今のくしゃみは豪快すぎたかもしれない。鼻をぐずらせる。濡れた肌に体温を奪われている。寒い。
マスターの連絡先くらい控えておくのだった。店の電話番号だけ携帯電話の電話帳に登録してあるからいいやなんて思っていた、あのときの自分が恨めしい。
大きなため息が自然と漏れた。
「にゃあ」
……ため息に合いの手が入った。
足下に、ぶち猫がいた。白地に黒斑の牛柄だ。やけに人なつっこくて太っていて、餌をくれとばかりに体をすり寄せてくる。
「餌なんかないのよ。ごめんね」
暇つぶしで頭をなでてやると、猫は喉をごろごろ鳴らしてポールダンスをするように体をくねらせた。抱き上げると温い。
(ええい、こうなりゃ湯たんぽがわりにしてやる!)
肉球をぷにぷにすると、毛を逆立ててうなられた。
「なによ、ちょっとくらいいいじゃない」
引っかかれてはたまらないと手を離したが、猫はまだ毛を逆立たせている。
「なにがそんなに気に入らないのよ」
困る私の右の肩が、ひたりと叩かれた。ただ手をのせるように。やけに体温の低い手の感触。
私は振り向きかけて、動きを止めた。パン屋のガラス壁がずっと続いているはずの背後に、人が立てるはずのスペースなんて、あったかしら。どうしてこの手はこんなに冷たいのかしら。そして、何故濡れているの——。
そろりと目を動かして、右肩を見た。オフホワイトのカットソーに赤黒い染みがあった。
私は反射的に、道へ飛び出していた。振り返る。
排水溝の蓋の隙間から延びた、しなやかな腕が名残惜しそうに揺らめいている。
壊死した黒く短い爪も、蝋のように白い肌と青白く透ける血管も生者のものじゃない。無理矢理細い隙間を通ったせいで、赤黒い腐った血を親指の付け根から流している。肝心の親指はもはや使いものにならないだろう。
びしゃんと汚水を滴らせて、腕がコンクリートの地面を叩いた。恨めしそうに指をはわせていたが、諦めて排水溝に消えた。
異常な速さで鼓動する胸を押さえて、ほっと一息ついた。
猫はとっくにどこかに消えている。寒気が戻ってきて、鼻をすすった。その音が思ったより大きく響いて、またびっくりした。
(……気のせい?)
ごぼごぼと低い水音が聞こえる。
それは徐々に大きくなり、通行人が足を止めるほどまでになった。
嫌な予感がする。それはすぐ確信に変わる。
まろぶようにして方向転換するとき、視界の隅に吹き飛ぶ排水溝の蓋が映っていた。
まさしく沸騰した鍋の蓋だ。汚水が分厚いコンクリートの蓋を吹き飛ばし、中から幾本もの腕が歓迎のアーチを作る。あるいは客引きの娼婦の腕のように私を絡めとろうとする。
そばを歩いていたおじさんが、悲鳴を上げてひっくり返り、その頭上を飛び越え私はひた走っていた。
(どこかへ逃げなきゃ。どこか、安全な場所!……そうだ、教会へ!)
走る道の排水溝という排水溝がそんな調子なもんだから、あちこちが大騒ぎになっている。
雨の日や夕方や夜などは奴ら——狭間の者が出やすい。経験から知っていた。
考えてみれば、雨の日や夜はものの視覚的な境が判然としなくなるし、夕方は誰そ彼時だ。境界が曖昧なときは、奴らに都合のよいときなのだろう。
そんな日は今までだったらアパートの結界の中でじっとしていた。今日は本当に不運だ。星座占いならきっと最下位だわ。
土砂降りの雨は全力疾走する私の行く手を阻んだ。雨水が喉や鼻に流れ込む。視界も悪く何度も滑った。雨の中でのトレーニングを思い出す。
三ブロック、距離にして一キロは走り続けただろう。運動不足の体には、酷な運動だ。
息が喘ぎ声に変わる頃、ぼろい教会の屋根がようやく見えた。
ラストスパートをかける。右足のサンダルは既にどこかにいってしまっていた。
踏み込んだそこに、マンホールがあった。躊躇い無くその上を通過しようとして私はもんどりうって左肘から転がった。アスファルトに体中をぶつけ、あちこちがすりむけて焼け付くような痛みになる。
直下型地震、震度六。その局地的な地揺れで立ち上がることすらできない。
マンホールが雨の飛沫を上げて、空へと突き抜ける。
巨大な樹のオブジェができた。枝はうごめく腕たち。昔、千住観音像の写真を見た。あれの地獄版だ。
鼻がもげるような悪臭。汚水がしぶきと波になり押し寄せる。波濤のように腕の集合体が殺到した。私は擦りむいた腕で必死に顔をかばう。
「にね!」
そのとき声が響いた。
雷が光る。太陽の見えない曇天で、閃き。
雨雲より黒い衣を翻し、その人物は刃を腕の樹に突き立てた。
『きゃ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ!』
耳をつんざく絶叫がこだます。なます切りにされた腕のかけらがびちびち地面で跳ねる。
それを踏みにじる、八センチのウェッジソール。
黒い尼僧服を纏ったあの時の美女——レオが、右の手にそろえた双刃を、左手にげんのうを、そして口には四本の釘をくわえて、樹の前に立ちふさがった。
振り返ったアンバーの瞳が私を射抜く。
「ふへほ!」
彼は再び押し寄せた腕を切り伏せた。びちゃびちゃと道に落ちた欠片をレオが踏みつける。すると欠片は淡く発光して消えた。
同化だ。
レオは同化を駆使して、相手の力を弱めるつもりだ。同化しきれなかった部分は、悪臭を放ちながら赤黒い血溜りになる。
横合いから突き出された一撃に、レオのげんのうがうなる。だが、たたき落とすまでに至らず、槍のような貫手は彼の眼前まで突き進む。
「危ない!」
声を聞くまでもなく、長い脚が空を切り裂く回転蹴りを見舞わせた。長い黒いスカートの裾が美しい円を描く。……多分、向こうからは中身、見えてる。
レオの踵が触れた箇所から光がこぼれて、狭間の者の体は引き裂かれていく。
「ひはほふひひひへ!」
どうやら、道をひらいてくれるらしい。アレッシオ側と認識されているだろう私を、どうしてこんな危険を冒して、助けてくれるのかわからないが、今はとにかく感謝しておくしかない。
「何言っているのかわからないけれど、ありがとうっ」
私は戦場を駆け抜け、体当たりで扉をぶちあけて中に転がり込んだ。
荒い息をしながら顔を上げるとはたと目があった。バケツを抱えた老神父だった。
「おやまあ、イズミさん、お久しぶりです。しかし、なんという格好で。今タオルを……、いえシャワーの方がいいですねえ」
「す、すみません臭くて」
汚水まみれの私からは、きっと犬の糞のような臭いがしていることだろう。自分の鼻はとっくにバカになっている。
神父は高い天井から落ちてくる雨漏りの水滴を受け止める為にバケツを置いて、笑みを崩さずに奥に消えていった。
私は下手に動くと汚水を滴らせてしまうので、その場で立ち止まる。
壁一つ挟んだ屋内の静かなこと。外の死闘がまるで夢のようだ。
丸投げしてきてしまったが、レオは大丈夫なのだろうか。
扉の向こうからは、雨音が途切れなく聞こえてくる。
少し不安に思って、窓から様子を見ようか思案していると、突然、天井からガンガンと何かを打ちつける音がした。
まさか、あいつらが? 私はびくりと肩を震わせたが、すぐに雨漏りの水滴がバケツの底を叩くリズミカルな音が止まったことに気付いた。
扉が開いた。げんのうを手にしたずぶ濡れのレオだった。
「なんだ、まだそんなところに。早く着替えないと風邪を引くぞ」
肩を押しやられる。ちょうど神父様がタオルを持って戻ってきてくれたところだった。
一枚しかないタオルをまずレオが受け取ってざっと体を拭き、続いて私が汚水を拭う。
その間、私は何度もレオの方をちらちら見てしまった。
困惑しているのを感じ取ったのか、神父が説明してくれる。
「彼女はもうずっとここで奉仕してくださっているシスターです」
「ドナトーニ神父。この娘はおそらく私の素性を知っている」
私がこくりと頷くと、老神父もこくこく頷いた。
「そうですか。それはそれは。イズミさん、彼女、いや彼とは初対面ではないのですね」
「はい。以前、ちょっと。彼がここにいること、アレッシオは……?」
アレッシオがドナトーニ神父とそれなりに親しいとなると、この教会でアレッシオとレオが鉢合わせすることだってあったのではないだろうか。
「もちろん、ご存じですよ。そうそう、クラウディオさんも、彼と顔は合わせていますよ。名乗ればきっとおわかりになります。姿が変わっていて驚くかもしれませんが、最近はみなさんそういうことにも寛容でしょう?」
「……私は性転換したわけでも整形したわけでもないんだが」
レオはむすりとして言い返した。
ドナトーニ神父は、ローマでクラウディオも巻き込んで大騒動になったことは知らないみたいだ。私が無言で問うと、レオも無言ながら必死の形相で言うなと訴えてくるので、心優しい私はとりあえず黙っていてやることにした。
「アレッシオとここで鉢合わせしたら血の雨が降るんじゃないの」
「まさか。あいつだって聖職者のはしくれ。聖域での戦闘行為は避けるだろう」
なんか今、聞き捨てならない言葉が飛び出した。
「ほら、イズミさん。そんな格好でいると、風邪を引きますよ」
しかし、それを問いただす前に、私は神父に奥の古ぼけたシャワー室に連行されたのだった。
通話を終えて携帯電話を鞄に放り込む。
レオの私物であるカーキのカーゴパンツではサイズが大きすぎて、ポケットに携帯電話を入れようものならずり下がること必至だ。今はそれを、ベルトで留めている状態である。
聖堂の裏にある小部屋で、私とレオは身支度を整えていた。
ドナトーニ神父が用意してくれた湯気を立てるココアが、口の中で甘く溶ける。
「保護者はなんて?」
「やっぱり来週くらいまで目処がつかないみたい。今晩は出勤までここでお世話になれるとありがたいのだけど……」
「ドナトーニには私から言っておこう。疲れているなら仮眠していろ」
「……なんだか優しいのね。危険人物かと思っていたのに」
「失礼な」
口調は穏やかだった。レオは水の滴る尼僧服を脱ぎ捨てると、不機嫌そうに着替えを始めた。自分の体をなるべく見たくないようだ。
レオの体は見とれるほど美しいラインを描いていて、思わずぼんやり鑑賞してしまう。
どういう手品を使ったのか、数日前にアレッシオによって傷つけられた鳩尾には、シミひとつない。
「そんなに見るな。嫁入り前の娘が」
「聞いていいかしら。レオって男の人だったのよね。やっぱり違和感はあるの」
「ある。当たり前だ。尼僧服を着るとき、自分がわからなくなるな。あと排泄のとき。女性の体を借りるのは三度目だが、毎回そうだ」
「……その人を殺したの?」
弾かれたように顔を上げ、レオが眉根を寄せた。
「なんだと?」
強い語調に、私はひるんだ。けれど、どうしても知りたくてもう一度言葉を発した。
「その人を殺したの? 器を借りるということは、相手の精神を飲み込むことだと、アレッシオが」
「あの異端者め……」
憎々しげにつぶやいて、レオが赤い髪の毛をかきあげた。水滴が空中で照明を反射する。
「神に誓って、私は自分の生命のために無辜の人を手にかけたことは一度もない。一度もだ。今までも、そしてこれからも。この娘は通り魔に刺された。命の火が消えかけているところでこの教会に運び込まれ、私がその体を譲りうけたのだ。彼女の記憶とともに」
死に際に、彼女はローマに住む老いた両親のことを心配していた。レオに二人を託して、彼女は亡くなった。
レオは、アレッシオに手ひどくやられた自分の体を捨てて彼女の体を継承した。記憶を共有し、彼女——マリアの心をも継いだのだという。
私と初めて会ったあの日、彼はマリアとして、ローマに住む彼女の両親に顔を見せに行ったのだ。
レオは、マリアの横腹に残るみにくいミミズ腫れをみせてくれた。これが致命傷となったのだ。
「彼女を殺した犯人は見つかっていない。だが必ず見つけよう。それが彼女への礼になる」
アンティークのロザリオを首から提げて、レオはアンバーの目を決意で鋭くした。
アレッシオが言っていたような、冷酷な人物像とは結びつかない姿だ。
私にはむしろ、アレッシオの方が——。
「それよりお前こそあの男とどういう関係だ。まともな人間ではないぞ、あいつは」
心を見透かされたのかと驚いたが、いらいらと爪を噛むレオはそんなつもりはなさそうだった。
私はかいつまんでアレッシオとのことを話した。
話が進むにつれてどんどんレオの眉間の皺が濃くなっていくので、内心冷や冷やものだ。
話し終えるとついにレオの拳が、古ぼけたテーブルを打ち据えた。三脚の一本が折れ、バランスを崩したテーブルが重たい音を立てて転がる。……普通の女性は、そんなことできないと思うの。だいぶ、豪快だわ。
「あいつの罪深さはサタンをも凌ぐ」
「や、いくらなんでもそこまでは……」
レオは立ち上がった。
「娘、お前はあの男に関わるべきではない。いいようにされて捨てられるのが関の山だ。司教に着任していながら、私欲のために邪教に手を染めた不義の者だ」
「ねえ、さっきも気になったのだけれど、アレッシオは聖職者だったの? 本人はそんなこと一言も」
「ああそうだ。もう九百年以上も前の話だが、奴は司教の地位にあった。流石に、禁忌を犯したことは後ろめたいと見える。お前にはその話を一切していないのだな」
「何も聞いてないわ。禁忌って?」
「悪魔の召還さ」
私はその途方もない話を、一笑に付すことができなかった。神秘から遠ざかった現代でそのような儀式を行おうものなら、『カルト』の言葉一つで済むが、過去にはそれで済まない時期もあったはずなのだ。
あらゆる神秘、自然現象、さらには人間の営み全てに神の意志が認められていたころは。
アレッシオから直接話は聞いていなかったが、思い当たることがあった。
あの、古い古い石の部屋の記憶。追いつめられていた男が呼び出した、輝く人。
あれはきっと——。
「私は、奴の行動を見張り、怪しい動きがあれば即座に連行するよう仰せつかっていた。そしてことは起きた。私たちは奴を止めようと地下の秘密の小部屋に突入し、人ならざるものに遭遇した。仲間の八割が死んだ。生き残った私は、名誉挽回の機会を伺い、奴を追っていた。だが途中で、別の儀式の巻き添えになって、このような呪われた体に……」
レオはおそらくそういうものを取り締まる役職だったのだろう。しかし、儀式に巻き込まれるというのはなんとも……。
それより、そうやって狭間の者を召喚してしまう儀式が何度も行われていたことに驚いた。昔はそういった儀式がさかんだったのかしら。あるいは、レオが職業柄、そういった場面に出くわしやすかったのか。
「どうして、アレッシオはそんなことに手を出したの?」
「知らん。はじめは模範的なよくできた司教だった。元は一領主だったのだが、皇帝により司教を拝命したのだ。しかしいつしか、憑りつかれたようになって、あのざまだ」
模範的なアレッシオ。それはたしかに今の彼からは想像もつかない。遅れて来た反抗期?
「私は主命によりあの男を処罰しなければ土に還ることもできぬ。だが、あいつも流石にただではやられぬな。もとより知勇兼備とあだ名されていただけあって、剣技などは私を凌ぐ。いかにしてやつを捕らえるか」
レオはぎりぎりと歯をならす。
何が何でも捕まえたいなら、罠でもしかければいいのに、そういった卑怯なことは嫌いなのだろう、この人は。そうやって何百年も、アレッシオを追いかけてきた。真面目が服を着て歩いているようなものだ。
そのままにしておくと、何時間でも床を睨んでいそうなので、話題を変えることにした。
「ねえ私たちは、どうすればこの狭間の者の呪いから開放されるの」
アレッシオと同じくらい長い時を生きているレオなら知っているかもしれない。淡い期待を抱いて問うと、レオは怪訝な顔をして小首を傾げた。
「やつに聞かなかったのか? 単純だ。対の者と同化すればいい」
「え」
(対の者に同化するというのは、狭間の者に体を明け渡すことじゃないの)
喉まででかかった言葉を飲み込む。
脳裏に閃きがあった。答えは目の前で美女の形をとっている。
「狭間の者を、しかも、半身を奪った対の者を取り込むのね」
「その通りだ。そうすることで奪われた半身を取り戻し、完全なる物質界の住人に戻れる」
「成功した人っているの」
「私は残念ながら知らない。あの男はどうかな」
アレッシオ。
胸がちくりとした。彼は、元に戻る方法はまだ知らないと言っていた。
本当にそうだったのだろうか。
黙り込んだ私の心を読んだように、レオが言った。
「だが、この方法はかなりのリスクを負う。狭間の者を取り込むのは、至難の業だぞ。私やあの男は、奴らを退けるために、奴らの一部を刈り取って同化するという方法をとって、力を削いでいく。それだって、精神的な負担が大きい。自我を保つというのは簡単そうでかなり難しいものだ。欠片でそれなのに全体をそうするとなれば——わかるだろう?」
「逆に取り込まれる可能性が高いのね」
「そうだ」
押し黙るほかない。
アレッシオが方法はまだないと言った理由がわかった気がした。
精神世界でイニシアチブをとるのはどのくらい大変なのだろう。私は、アレッシオやレオのように戦えないし。元に戻るにはまだまだ道が長そうだ。
「さて、私はドナトーニのところへ行く。この部屋は好きに使ってよい。仕事まで休んでいるか」
「うん。ありがとう」
レオは淑やかな尼僧の顔に戻って、部屋を出ていった。ちょっと歩幅が大きすぎるけれど。
部屋には、小さなソファがある。古いが手入れされているので不潔ではない。
鞄を抱えてその上に寝ころんだ。アレッシオからもらった、チャンの本。
最後の三ページが残っている。
眠気もあったけれど、ちゃごちゃになった頭を冷ますために、五分ほど読書に没頭した。
乙女の死後、深く自問するようになった主人公は、やがて老いて、人知れず没する。彼は死ぬまで、神の存在と己がしたことの価値について悩み続けたのだ。
もの悲しい終わり方だったが、それで終わりではないと私は思った。
チャンの作品で共通しているテーマ、存在の確認がここにも出ている。
おそらく、彼の作品を出版年ごとに並べていけば、じりじりと彼なりの結論が見えてくるのだろう。
逆に、物語内の年代ごとに作品を並べると、他作品の主人公の行動が話に影響を与えていておもしろいのだ。
来月発行される新刊では、いったいどんな主人公がどんな時代で活躍するのだろう。
発刊まで、内容に関してはなんの情報も与えられない。それがチャンのスタイルだ。
それが余計好奇心を刺激する。
アレッシオがレポートのために私たちから話を聞きたがるのも、こういう気持ちなのだろうか。だとしたら、少しわかるような……、わからないような。
どうせあのいかれた男の考えなんてわかりはしないと、早々に考えるのをやめて、私は仮眠をとるべく目を閉じた。
「それじゃ。行ってきます!」
卵を詰め込んだ袋を抱え、私は部屋の中に声をかけた。すると、まぶしそうに顔をしかめてクラウディオが顔を出した。寝巻き代わりのカットソーが右肩下がりになっていて、彼もよれよれだ。無理して起きてこなくてよかったのに。
「……どこへ行くんだったっけ」
「教会! 地域の催しに、カップケーキを出すの。レオに誘われたから行ってくる。ごめんね、起こしちゃって。昨晩、遅かったんだから、まだ寝ていて」
上着のポケットにアパートの鍵をつっこもうとして、考え直し、鞄に放り込む。また忘れたりしたくない。
「いつもどる? 夕飯は何にする?」
「夜は……、ううん、いいや。今日は神父様のお誕生日なの。レオと二人でちょっとしたサプライズを準備しているのよ。そうだ、クラウディオも来ない?」
クラウディオはなぜか、雷に打たれたように動きを止めた。灰色の目が、玄関にかけられたカレンダーに向かう。
九月の最終週。レオに助けられた日から一月が経過している。
あの日から、私は何かと教会に顔を出すようになっていた。
翌日、お礼を言いに行ったことを皮切りに、神父様のチャン・コレクションを拝見しに行ったり、レオがマリアの両親に贈るプレゼントを一緒に買いに行ったり、地域のチャリティーイベントにでるのを手伝ったり。
レオも、話してみれば普通の、いや、普通よりも真面目な人で意外と常識的なのだ。女ならではの相談にのってあげたり、逆に年の離れた兄のような助言をもらうこともしばしばだ。クラウディオが長期で家を空けるときは、教会に泊めてもらうこともある。
「クラウディオももし時間があったら来てみて。神父様も、たくさんの人に祝ってもらえたらより嬉しいよ」
「ああ、……時間があいたらな」
気がない返事をもらって、ハグをして、アパートを後にした。きっと彼はゆっくり眠る方を選ぶのだろう。疲れているだろうから、それでいい。
私は足取りも軽く、教会へとたどりついた。
教会にたどり着くなり、クラウディオが来ないことを祈るようになるとは思わなかった。
ローマで会って以来、顔を見なかったアレッシオが、なぜか両手にいっぱいの薔薇の花束を持って、敷地の前で待ちかまえていたのだ。荷を持って回れ右しようとしたが、
「久々だなイズミ。元気そうだな。丁度いい、ドア開けてくれ」
先に声をかけられては逃げられない。嫌々ながら、言われるままにドアを開けてやる。
壁抜けすればいいじゃないとは言えない。催しのために着飾ったガールスカウトのメンバーが、元気な声を上げながら教会の前を行進していく。壁抜けなんかしたら大騒ぎになってしまう。
カップケーキの甘い香りが漂ってくる。アレッシオを無視して、材料を抱えて奥に行くと、広くない厨房でエプロン姿のドナトーニ神父とレオが肘をぶつけ合って作業していた。
「材料持ってきました。お手伝いします」
「ああ、イズミさんありがとう」
「こっちの泡立てを頼む」
手渡された人の頭の二倍はあるボールを必死に受け止めて、泡立て器を動かす。腕力には自信がないので、やはりすぐに腕が疲れてしまった。
あまりお菓子づくりは得意じゃない。手際が悪い私の横で、ドナトーニ神父とレオはさくさく自分の作業を終えていく。
アレッシオが厨房の扉を乱暴に開けた。不自然に出た右足は、蹴り開けたことを証明している。両手には薔薇を山盛りにした花瓶。
「これで陰気臭い部屋が見違えるぞ。俺って本当に優しいなあ。わざわざ朝一番で調達してくるなんて」
花びらが幾重にもなっているオールドローズは、柔らかな淡い色で、ピンク、黄色、白にオレンジとバリエーションも豊かだ。これを飾れば確かに場が華やぐことだろう。
「包装は俺がやってやろう。これでも手先は器用だぜ」
彼は花瓶を置くと、腕まくりしてラッピング用のリボンを手にした。狭い室内がさらに狭くなる。
「ちょっと! 邪魔だからどこか別のところでやってよ」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。アレッシオさんは毎年こうして手伝ってくださるのですよ。売り子さんもやっていただけるおかげで寄付も集まるし」
「おいレオ。準備できたらお前も籠持って回れよ。その見てくれを利用しない手はないぜ。男どもに秋波送ってやれ。ざくざく稼げるぜ」
「黙れ、下衆。そんな不浄な心で寄進を募ってなんになる」
「イズミは……まあ、勘定は頼んだ」
「あなたにぴったりの言葉があるわ。”口は災いの元”」
「イズミ、良いことを言うな。違いない」
軽口の応酬の合間に、小山ほどのカップケーキができあがった。
片づけを終え、皆でラッピングしていく。と言っても、てっぺんに銀紙の星を突き刺して、小さなビニール袋に納めるだけ。四色のリボンをちょうちょ結びすればできあがり。
明け方からレオたちが作業していたおかげで、三百を越すケーキがお盆に乗せられた。
教会の前に折りたたみのテーブルを並べ、花瓶を置いてケーキを置いた。
アレッシオとレオの二人が白いエプロンを着て売り子になった。私はテーブルで会計だ。ドナトーニ神父は寄進を集めるための缶の前でにこにこしている。
朝の十時を過ぎると、催しに参加する人たちが道を練り歩きはじめた。
今日の催しは、理由あって親元を離れて暮らす子たちへの支援の啓蒙活動が目的だ。下は三歳から上は十六歳まで、そろいのTシャツを着て、子供たちが旗を振って歩いていく。
観光客や通行人が賑わしく、行進を見送ったり出店を冷やかしたりして、ちょっとしたお祭りのようだ。
私たちのカップケーキもなかなか好調な売れ行き。途中から、アレッシオとレオはそれぞれ籠にケーキを入れて売りに行った。三十分もすると、籠を空にして、左のブロックからアレッシオが、右のブロックからレオが戻ってきた。
「なんでそんな格好なの」
目を眇めると、アレッシオは悠々と襟元をくつろげた。何その勝ち誇った顔。
彼の頬や首には、微妙に色や形の違うキスマークが並んでいる。まるで歓楽街を歩いてきたような出で立ちだ。
逆に、レオは怒りに顔を真っ赤に染めている。もう一つ、赤くなっているものがある。拳だ。何を殴ってきたのかしら。……まあ、ちょっと乱れた襟元を見れば大体想像つくけど。相手は生きているかしら。
二人が差し出した籠にケーキを放り込んで、代わりにお金を受け取って、それを六回繰り返すと売るものはなくなってしまった。
売上金の帳尻も合ったし、少し早いけれど店仕舞いとした。
三時を回る頃、私たちはテーブルを畳んで、後片付けにうつった。
売上金をアレッシオが主催側に届けに行きがてら、店に寄って予約して置いたものを取りに行く手はずになっている。
ドナトーニ神父が倉庫へひっこんだのを見計らって、私とレオは小さなテーブルを奥の部屋に引っ張りだして白いクロスを引いた。
「おう、引き取ってきたぞ」
アレッシオが大きめの箱をテーブルの真ん中に置いた。抱えていた別の袋からは、シャンパン。箱からバタークリームのホールケーキが出てくる。
ケーキに蝋燭を刺しているところで、ドナトーニ神父の声がした。
「神父様、こちらです」
レオが声をかけると、ゆったりとした足音が近づいてきた。私たちはわたわた手の内にクラッカーを納める。
「みなさん、こちらにおいでで——」
「お誕生日おめでとうございます!」
ぱんぱんぱんと破裂音が三度響いて、彩り豊かな紙のシャワーが降ってくる。
火の灯った蝋燭が明明としてケーキを照らしている。
ドナトーニ神父はゆっくり瞬きをした。
よかった、心臓発作は起こしてないみたい。でも、今度からお年寄りにクラッカーはやめよう。
「驚きました。……なんと言ったらよいか」
「何も言わずに、ささ、どーぞ思いっきり」
調子の良いアレッシオに促されて、困ったように眉尻を落とした老神父はテーブルに近寄る。大分苦心した様子で蝋燭の火を吹き消した。
レオが隠しておいた包みを渡す。中身はカシミヤのセーターだ。時期的には早いが、おかげで今冬は十分使えるだろう。サイズもぴったり。
切り分けられたケーキを皿に載せて、ドナトーニ神父も腰を降ろした。
真っ白な髪も眉も、おだやかで丸みのある空気も、この老人が長年をかけて積み上げてきたものの結果だ。私も年老いたらこんな風に、やんわりとしたおばあちゃんになりたい。唐突にそんなことを思った。
とはいえ。今のままでは、まともに年をとれるのかもわからないが。
「お恥ずかしい。この年になっても祝っていただけるとは」
「昨年も同じことをおっしゃっていましたね」
レオが苦笑した。
すでに二つ目のケーキにかぶりついたアレッシオが、指折り数える。
「八〇歳か。まだまだ若い若い」
「そりゃあなたたちと比べたら、世の中若者だらけよ」
違いないと言って、彼は一人で大笑いした。ちっとも年寄りらしくない年寄りだ。
「おいメランドリ。お前食べすぎだぞ。今日の主役はドナトーニだ」
「いいじゃねえか。老体にこのカロリーは過剰だぜ」
「そういう問題じゃない」
予想通りというか、レオとアレッシオがケーキの数でもめはじめ、私はドナトーニ神父の横に皿を持って退避した。
「ごめんなさい、なんだかお祝いの日まで騒がしくて。……神父様?」
「あ、……いえ、なんでしょう。すみません、近頃耳が遠くて」
ぼーっとしていました。そう笑う横顔はどこか寂しげだった。
そういえば、ドナトーニ神父の家族ってどうしているのだろう。神父と言うからには独身だろう。となると、ご兄弟がいなければ、天涯孤独の可能性もある。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか」
聖堂の方から声が聞こえた。立ち上がろうとした私を制して、レオが席を立った。
しばらくして、レオは思わぬ人物を引き連れて戻ってきた。
「クラウディオ?」
片手に花束を抱えたクラウディオだった。
尼僧服のレオとは緊張した様子で距離をとり、アレッシオと一瞬険悪な視線をかわす。
そういえば、クラウディオはローマでの一件以来、レオを警戒している。以前からの知り合いだったというのに、あの過激な立ち回りを見せられて、すっかり不審人物と認定したらしかった。
あれはちょっとした誤解だったと私が一生懸命説明したからか、最近は大分ましになったが、はじめは私がレオと買い物に行くなんていったら、玄関のドアの前で座り込みをするぐらいだったのだ。
そして、アレッシオに関しては、相変わらず、私を誘拐した犯人扱い。
彼は黙って部屋にはいると、つかつかと神父のもとへ歩み寄り、その花束を差し出した。百合だ。真っ白の。なんというか……クラウディオって、ロマンチスト?
クラウディオは戸惑う神父の薄い肩を叩いた。
後から思えば、そこには万感の思いがこめられていたのだろう。
「すまない、その、大したものも思いつかなくて……」
三人の観客の前で、クラウディオはたどたどしく言葉をつむぐ。
「俺は毎年、いつもこの日を待ち望んでは、何もできないでいた。お前を祝ってやりたくて、けれどその勇気が俺にはなかった。お前は、こんな化け物と化した俺を、恐れているのではないかと、いつも不安だったんだ」
「いいえ……」
クラウディオの鋭い灰色の目が、今は苦渋に満ちている。それを包み込むように、柔らかな光を宿したドナトーニ神父の灰色の双眸が、彼を見つめている。
「ドナトーニ。ふがいない俺を許してくれ。俺がお前の生まれた日を祝うことを、許してくれないか。」
クラウディオは目を伏せ、まるで託宣を待つ巡礼者のように頭を垂れた。
「誕生日、おめでとう」
私とレオは顔を見合わせる。事情が全くわからない。お互いの顔を見つめても当然、答えはない。アレッシオのしたり顔に腹が立つ。
渡された百合の花束を抱えて、老神父はしばし灰色の瞳をしばたかせていた。
やがて、その目をかすかに湿らせると、しわがれた手でクラウディオの大きな手を握り、額にこすりつけて嗚咽しだした。
「ありがとうございます、……父よ」
「前もって教えていてくれてもよかったんじゃないの、二人が親子だって」
「お前、そりゃあれだ。プライバシーの権利? いくら共有で記憶を読みとったからって、好き放題していいわけじゃないだろ」
「それはそうだけれど」
アレッシオと私は、並んで食器を片づけていた。
もうすぐ夕方の五時だ。日も傾いてくる。
レオが聖堂の切り盛りをして、クラウディオとドナトーニ神父は親子水入らずでお茶を楽しんでいるはずだ。いつも休まず働いているドナトーニ神父だから、今日くらい休息があってもいいと思う。
ささやかな祝宴に使用した食器たちを洗いつつ、アレッシオからクラウディオ親子の話をぽつぽつ聞いていた。彼から勝手に話を聞いたこと、後でクラウディオにきちんと謝っておかないといけないな、などと考えつつ。
クラウディオは第二次世界大戦で、兵士として家を後にして、戦地で狭間の者となったという。戦争が終わり、家に戻ればお嫁さんは病気で亡くなっていた。
その後は父一人、子一人の生活が続いたが、度重なる狭間の者の襲撃に、クラウディオは息子を神学校に預け自らも家を出た。
そして、十年経っても二十年経っても老いる兆しのない己の体に戦きながら、各地を転々としているとき、このサングエにたどり着き、成人した息子と再会した。
以来、稼いだ金を寄進として息子のいる教会に送り続けることが、彼の生きる目的に成り代わっていったのだ。
「だけどな、難しいもんだ。あいつは悩んでいた。自分よりも老いた息子に、どう声をかければいいのか。他人行儀に挨拶して、ほかの訪問客と同じを装って今までやってきたんだ。今日ここにああしてやってきたのも、相当な覚悟があったと思うぜ」
どんな気持ちなのだろう。自分を置き去りにするように、年老いていく息子を見るのは。
(クラウディオ……)
私には、彼に心の中で話しかけるくらいしかできない。
(養ってもらっている分際で偉そうなこと言えないけれど、子にとって、親はどんな姿でも境遇でも、かけがえのないものなのよ。いい親も悪い親も、等しく大きな存在なのよ、子にとっては)
(その親から、誕生日を祝われることがどれだけ大きなことか)
(生まれてきたことを祝福され、これから生き続けることを祈願される。どんなプレゼントでもかなわない最高の贈り物なのだから)
(クラウディオ、ちゃんと六十年分の「お誕生日おめでとう」を言えている?)
考えていると、ふと眦が濡れていた。
クラウディオとドナトーニ神父のことを考えていたはずなのに、どうしてだろう、脳裏に浮かんでいたのは満面の笑みの両親の顔だった。
「さて、そろそろ俺もお暇するかな」
アレッシオがわざとらしい大声で言うと、後頭部で手を組んで部屋を出ていこうとした。
その背を見て、聞きたいことがあったのだと思い出す。
「ねえ、どうして黙っていたの」
「……なんだよ、まだその話していたのか。だから、クラウディオは」
「違う。クラウディオのことじゃない。体を、元に戻す方法のこと」
「ああ、そっち」
足を止め、組んでいた手をほどくと、今度は大学教授のような思慮深さを装って、腕を組んだ。
「なぜなぜって、あんたはいつも俺に答えを求めるけれど、自分ではどう思っているんだ?」
「きっと、私に実践できない方法じゃ、無いことに同じだから、『ない』と言ったんでしょ。違う?」
肯定も否定もせず、アレッシオはただ唇を笑みの形にしただけだった。
「たしかに、狭間の者を取り込むなんてまね、私にはできはしないわ。けれど、教えてくれたっていいでしょう」
「なぜ」
「なぜって……」
(それじゃあ、信用できないから)
いいかけて、飲み込んだ。そもそもこの男を信用する必要がどこにあるんだろう。
「話は終わりか?」
心の底まで見透かしたようなヘーゼルの瞳が意地悪く細まる。
「……ええ」
彼は手をパンツのポケットにつっこむと、口笛を吹きながら、部屋を出ていった。
ため息をついて作業に戻る。
「あんたは神がどこにいるか知っているか? ちなみに、俺は知らない」
唐突に声が聞こえて、振り返った。
出ていったはずのアレッシオが、扉に背を預けていた。
だが、目が合うと「宿題な」と言い残し、今度こそ消えた。
なんだか釈然としないまま、私は手荒に食器を籠にふせた。




