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彼岸の呼び声
認識せよ、区別せよ。
意識され、初めて世界は存在を許される。
意識すること、他とは違うと認識すること。
それは敵意であり、好奇心である。
体は他者との境界となり、自己を認識する手がかりとなる。
認識されないものは、存在を許されない。
死んでいるも同然なのだ。
そう。存在を葬るのは容易である。
ほうりこめばいい。意識外の海へ。
いないもの、ないもの、ありえないもの。
意識の外に追いやってしまえば、世界と同化させてしまえば、見えない、触れない。
すなわち、個としての死である。
しかし、忠告しよう。
一度、認識してしまったものを完全に意識外に追い出すことは難しい。
なぜならば、それらは既に一度、お前の心の内に存在を許されてしまったのだから。
ロレンツォ・チャン『彼岸の呼び声』




