ゾンビ編
駅近の4LDKオートロック付きで日当たりも良好で治安も良く防音も完璧、しかし家賃は1万円。
そんな曰く付きの賃貸マンションで神田姉妹は暮らしていた。
「無いっ!無いっ!私のパンツがどこにも無いっ!!」
肩まである黒髪で、三つ編みのポニーテールが垂れ下がるメガネを掛けた制服姿の少女、神田アンリは引き出しを開き、自分のパンツを探していた。
「くっそ〜、またお姉ちゃんの仕業だな」
そう呟やきながら彼女はタンスを閉め、立ち上がり、自分の部屋から廊下に出て、すぐ左手の扉を開ける。
「ちょっとゾンビお姉ちゃんっ!!私のパンツどこやったの!?」
神田アンリの声に反応して、紫色の和服っぽい服装の黒髪ショートヘアーの少女が振り返る。
妹にゾンビお姉ちゃんと呼ばれる少女の名は神田ゾンビ子。その名の通りゾンビだ。
ゾンビと言っても、体が腐ってたり生きてる人間を襲う事はない。
何故か頭にオノが刺さって血を流している所以外、至って普通の人間だ。
神田ゾンビ子は、口元に何か布の様な物を突っ込みながら妹のアンリの問いかけに答える。
「は?パンツ?知らないわよそんなの、何でもかんでも私のせいにするのやめてくれる?」
「今まさに食さんとしてるだろうがぁ!!」
アンリが起こるのも当然だ。姉のゾンビ子が食べているのは、まさしくアンリのパンツだった。
「返せー!!」
「んー!!」
アンリは抵抗したものの、結局パンツは食べられてしまった。
「むしゃむしゃ」
「、、、、。あのさ、お姉ちゃん、まじでいい加減にしてくんない?なんで私のパンツ食べるの?今ので何枚目だと思ってるの?」
「ちょうど90枚目」
「少しは反省しろよこのバカっ!!」
「いや、ここまできたら100枚いこうかなと思って」
「いかなくていいよっ!まじでぶっ飛ばすよっ!?」
「ごめんなさいもうしません」
「そのセリフは聞き飽きたんだよ!!」
まるで反省の色を見せない姉のゾンビ子に対し、妹のアンリは一旦部屋に戻ると、なにやら1枚の紙を持ってきて、それを姉の前に差し出す。
「はい、これにサインして」
「ん?なにこれ?」
ゾンビ子が渡された紙を見ると、以下の通りに書かれていた。
【私、神田ゾンビ子は二度と、妹である
神田アンリのパンツを食べません。
もし食べたら死刑でいいです。】
それを見たゾンビ子が、抗議の声を挙げる。
「ふざけんな!幾ら何でもやりすぎだろ!なんでパンツの1枚や、2枚で殺されなきゃならないんだっ!!」
「1枚や、2枚じゃないからわざわざ契約書作ってきたんだろが!さっさとサインしやがれ!」
「断る!つーかさ、口約束で充分だろ!?お前そんなに私の事を信用してないのか!?」
「信用できる訳ねーだろ!!こうでもしないと絶対お姉ちゃん私のパンツ食べるでしょっ!?いいから早くサインしろっ!!」
「はぁ!?誰が好き好んでお前のパンツなんか食べるかよ!!何?自分のことそんなに可愛いとでも思ってんの?自意識過剰にもほどがあるだろ!!」
「うがぁぁぁぁぁ!!!」
ブチ切れたアンリが日本刀でゾンビ子に襲いかかる。
「ぎゃああああ!!すいません冗談です!!」
ゾンビ子は咄嗟にそれを交わす。
「わかったらサイン書け!」
「だが断る!」
「なんでだよ!書けよ!」
「いやだ!」「書け!」「いやだ!」「書け!」「いやだ!」
「書けっつってんだろこのくされゾンビ!ヘッドショット食らわすぞらぁ!!」
「!!!!!!!」
その言葉を聞いた瞬間、ゾンビ子が一瞬黙り込んだかと思うと、その瞳から一筋の涙を流す。
「!?」
予想外の反応にアンリは思わず口を紡ぐ。
「う、、うぅぅ、、、、」
「ちょ、ちょっと、、何泣いてんのよ」
「ぅ、、泣いてないもん、、、」
「い、いや、泣いてるでしょ?」
「ないて、、ぅぅ、、ないもん、、」
「あ、、、あの、、」
「うえええぇぇぇぇん!!」
突如、大泣きしだす姉に、妹はビクッと体を跳ねさせる。
「そ、、、ヒック、、、そんな言い方しなくても、、、うぅ、、い、、いいじゃない、、」
「いや、、今のは別に、そんなつもりで言ったわけじゃ、、、」
「、、、グスッ、、私だってゾンビに生まれたくて生まれた訳じゃないのに、、そのことで私が、、、どんないじめにあってきたかも、、ヒック、、、知らずに、、、うぅ、、」
「えっ!?い、いじめっ!?お姉ちゃん仲の良い友達たくさんいるんでしょ!?」
「ゾンビにそんなのいるわけ無いじゃん
、、、ヒグッ、、心配かけちゃ、、、いけないと思って、、、言わなかったのよ、、、うぅ〜、、、」
「そ、そんなの、いつでも相談してくれたら良かったのに」
「でも私の事嫌いなんでしょ、、」
「いや、嫌いって訳じゃ、、」
「信じてたのに、、、」
「えっ!?」
「アンリちゃんだけは私の味方って信じてたのにーー!!!」
「ごっ、ごめんねお姉ちゃん!!今のは私が悪かったわ!!」
「ゔええぇぇぇぇん!!ゔええぇぇぇぇん!!」
「ごめんって!私はお姉ちゃんの味方だから泣かないで?パンツも月に1枚なら食べても怒らないから!ね?」
アンリは首元に抱きつく様な体制で必死にゾンビ子を慰める。
ピロリロリ〜♪
その時、ふいにケータイの着信音が鳴り響く。
ゾンビ子は手元に置いてあったケータイを手に取って、楽しそうに話し出す。
「はいは〜い、こちら腐った死体(笑)お〜、狂子ちゃんどうしたの?はっ?何のネタか分からない?狂子ちゃんもしかしてトラクエ知らない?ちょー面白いよ、マジでマジで!」
「、、、、、、、。」
楽しそうに喋る姉を前にして、アンリは状況が飲み込めず、完全に言葉を失っている。
「え?今?妹をからかって遊んでいたとこ(笑)明日の夜?肝試しのゾンビ役?全然オッケー(笑)じゃあ何時に集まる?え?朝の9時?はやくない!?え?ハガネ先輩と鏡ちゃんもくるからゲーセン行くって?おー行こ行こ!パイオパザードやろうよ!そんで私撃ち殺そ私っ!!(笑)あっははは!うん分かった!じゃあねー、はーい!」
ケータイを切ると、ゾンビ子はアンリに向かって楽しそうに話し出す。
「明日友達と遊んで来るわ!留守番よろしく!」
完。