最終回編
ラストダンジョンの魔王の城にて、闇の大魔王マアゾを1ターンで野郎オブクラッシャーした勇者一行は、それぞれ違った形で勝利の味を噛み締めていた。
「シャーおらぁ!やってやったぜオラァ!イェェス!イエスイエスイエスヤッハァ!!」
長期に渡るストレスですっかり性格が変わってしまった僧侶がプラトーンポーズで両手の中指を立て、両腕を上下させながら叫ぶ。
「世界を…主に私を間接的とは言え苦しめやがったテメェは八つ裂きにして野良犬の餌にしても収まりがつかねぇが、これでも僧侶やってるんでな、墓ぐらいはおっ立ててやるぜ!ズリャアアァアア!!」
おもむろに立ち上がった僧侶がマアゾを持ち上げ、そのままパイルドライバーをブチかまして石の床をマアゾの頭部でブチ抜いて即席の墓をつくる。
「ビューティホォォォ!!渾身の出来だぜベイベッハハァ!!」
聖職者として長年抑圧させてきた感情の反動によって、本能とその場のノリのままに叫ぶ僧侶。
「イェェェ!武闘家!武闘家イェェェ!イェッイェッ!」
僧侶が両方の掌を広げてハイタッチの合図を武闘家に送る。
「お、おぉ……」
キャラのぶれまくった僧侶とは違い相変わらず大雑把で乱暴者の武闘家も、僧侶のテンションについていけず相槌を返すのが精一杯だった。
促されるままに両手を差し出してハイタッチを受ける。
「イェェェ!魔法使いイェェェ!」
僧侶が両手を掲げながら魔法使いへと駆け寄ると、魔法使いが駆動音を鳴らしながら両手を広げる。
「温カイ、合理的ニ考エテコレガ人ノヌクモリカ」
魔族との長きに渡る戦い(とゆうか勇者と武闘家のプロレスごっこに巻き込まれて致命傷を負った)によって体の大半を機械化するハメになった魔法使いが、自身の掌を眺め機械音声で呟く。
「勇者!勇者イェェェ!」
「すまないが後にしてくれ、最初の一撃で決められなかったのはハムストリングの仕上がりがイマイチだったからに違いない」
筋肉至上主義の勇者は僧侶のハイタッチには乗らず、その場で延々とスクワットを繰り返す。
「んだよノリ悪いなぁ。筋トレもほどほどにしろよ」
僧侶が掲げていた両腕を僅かに下ろしながら不機嫌そうに呟くと、後ろの方で武闘家が気落ちした様子でため息を吐く。
「んだよ暗ぇぞ武闘家よぉ!!」
「痛てッ!」
武闘家のラグビー用ヘッドギアを僧侶が叩く。
「ようやく魔王をぶっ殺したんだ!!宴だ宴!!油でギットギトのジャンクフードと酒とやくそう(他意は無い、たぶん肉に振る香辛料的なアレ)で派手にブッ飛ぼうぜ!!ヒーハー!!」
「いや、そうしたいところだが今はちょっと落ち込んでてよ……魔王を倒したのは良いが歯応えがなさすぎてつまんねぇんだよ。俺はもっと強い奴と戦いたいけど魔王よりも強い奴なんて滅多にいねぇし、これからどうしようかって思ってさ」
僧侶に叩かれたヘッドギアをさすりながら、武闘家は珍しく落ち込んだ様子で返答する。
「あ〜?相変わらず戦闘狂なのなお前は。てゆうかそんなに強い奴と戦いたいならすぐそこに魔王より強い奴がいるじゃん」
僧侶が言葉と共にスクワットしつづける勇者を指差す。
「馬鹿をいうな僧侶。私と武闘家がやり合えば殺し合いになる。仲間同士でそんな真似はしたくない」
「何度か頼み込んではいるが、ずっとあの調子だよ」
「あ、うん……なんかごめん……」
至極まともな勇者の回答に、僧侶の悪ふざけのテンションが一気に下がる。
「ふ…フン……フン………フン……」
勇者のひとことで場の空気が変わった為、いたずらに燥ぐ者の居なくなった空間で、スクワットを続ける勇者の呼吸音とも掛け声とも取れる音だけが定期的に鳴り続ける。
「まぁそう気を落とすなよ武闘家。なんなら裏ボスでも探しに行くか?」
「ゲームじゃあるまいしそう都合良く裏ボスなんかいる訳ないだろ」
「い、いやそれは……探してみないと分からないだろ」
「……………もう良い、ちょっと寝るわ」
なんとも言えない空気の中、武闘家が無造作に地べたに寝転んだところで、魔法使いが僧侶と武闘家に近付いて声を掛ける。
「チョットヨロシイデスカ?ワタシノ方カラ合理的ナ提案ガアリマス」
機械化しても合理的と連呼するインテリぶった頭の悪さとボキャブラリの少なさが滲み出る口癖は治らないようだ。
「なんだよくだらねぇ話ならガム吐き付けんぞ」
武闘家が面倒くさそうにガムを膨らませながら相槌を返すと、魔法使いが言葉を続ける。
「合理的ニ考エテ強イ相手トタタカイタイノナラ、強イ者カラ命ヲ狙ワレル立場ニ付ケバ良イダケデス。我々デ魔王ノ称号ヲ襲名スレバ良イノデス」
「ハァ!?」
魔法使いの突拍子も無い発言に僧侶が驚きの声を上げ、勇者がスクワットの手を、もとい足を止める。
「………それに何の意味があるんだよ」
武闘家がガムを膨らませながら言葉を続けるよう促す。
「簡単デ合理的ナ話デス。魔王トハ人類ノ天敵。新タナ魔王ガ現レタナラバ、ソレヲ討ツベク新タナ勇者ガ現レル。シカモ力デ他者ヲ押サエ付ケル立場トモナレバ当然ヤリタイホウダイシホウダイ。クダラナイ情ヤシガラミニ捕ワレル事モアリマセン。腕ノ良イピザ職人ヲ攫ッテ無理矢理ピザヲ作ラセタリ、合理的ナ情報操作デアメフトヨリモラグビーノ方が素晴ラシイト洗脳シタリ、タックルノ練習用ニ広大ナ土地ヲ独占シテ長イ一本道ヲ創ッタリナンデモアリデス」
「昨日の雨が不味かったのか?ちょっと待ってろ、いま回復魔法を」
魔法使いの故障を疑い出した僧侶が杖を掲げるが、それを不要だと止めた魔法使いが、更に言葉を続ける。
「私ハ至ッテ正常デ合理的デス。良ク考エテ下サイ僧侶サン。魔王ヲ倒シテ今コノママ町ニ帰レバ確カニ我々ハ英雄デショウ。シカシ英雄ニナッタラナッタデ、今度ハソレニ相応シイ品格トヤラヲ求メラレマス。ハタシテ僧侶サンハ今ノハッチャケタママノキャラデ英雄視サレ続ケルデショウカ?今ノキャラガ受ケ入レラレズ失敗スレバ、マタ禁欲ヲ至上トシタ僧侶デ自分ヲ押シ殺シテ細々トヤッテイクノガ関ノ山。ゲームトカデ英雄ト叫バレル女キャラニ今ノ僧侶サンミタイナキャラガ果タシテドレダケイルコトヤラ。合理的ニ考エテエロゲーデモナイカギリ世ガ女性ノ英雄ニ求メルノハ清楚系ガ大半。合理的ニ考エテ魔王ガ消エテモ無意識ノ殺人ハ無クナリマセン。ソレニ、魔王ルートヲ選ベバRPG編ニテ僧侶サンニセクハラシタ店主ニ復讐スル事モ可能デス」
「すまなかったなマアゾ。少し悪ふざけが過ぎちまった。お前の意志は私が受け継ぐ。今ちゃんとした墓を作ってやるからな」
元・僧侶が地面に突き刺さったマアゾの死体に語り掛ける。
「……フン。屁理屈野郎にしては魅力的な提案じゃねぇか」
「最新ノAIニ基ヅイタ合理的ナ判断デス」
武闘家も魔法使いの提案に肯定の意を示したところで、神妙な面持ちの勇者が魔法使いの正面に立つ。
「なんだぁ勇者?魔王堕ちは勇者の血が許さないってか?」
武闘家が好戦的な笑みを浮かべながら上半身だけ起き上がらせたところで、勇者がそれを一喝する。
「武闘家は黙っていろ」
「………ナンデスカ勇者サン。合理的ニ考エテ何カ言イタゲナ表情ヲシテイマス」
「…………魔法使いよ……君はいま魔王になれば何でもやりたい放題だと言ったな………」
神妙な面持ちのまま勇者が言葉を続ける。
勇者がこれほど真剣な表情と口調で話すのは今まで無かった事だ。
仮にも勇者の称号を持つ者の前で堂々と闇堕ち宣言は不味かったのか、心なしか胸筋と上腕二頭筋がピクついている勇者を前に、3人の間に緊張が走る。
「…………魔王になれば私専用の筋トレジムを作る事も可能なのか?」
「合理的ニ考エズトモ容易イ事デス」
「宴じゃアアアアァァ!!!」
元・僧侶が両手でガッツポーズをとりながら叫ぶ。
「オッシャア!!今日はギネス目指すつもりでピザ食いまくんぞ!!出前取れ出前!!」
勢い良く起き上がった武闘家も僧侶に続いて叫ぶ。
「こんなラストダンジョンまで来てくれる出前屋があるのか?雑魚的もそれなりの強さだぞ。道中で襲われるのがオチじゃないか?」
「駄目元デ頼ンデミマショウ。出前ヲ待ッテイル間ハ酒ヲ開ケルノガ合理的ナ宴ノ方法デス」
勇者の疑問に返答しつつ、魔法使いが自分の体に付属したボタンを押して出前の電話を掛ける。
「マァ、出前ガ来ナクテモプロテインヲ小麦粉代ワリニスレバピザガ焼ケルデショウ。昨夜ミンナガ寝テル内ニ合理的ニオーブン機能ヲ搭載シトキマシタ。ピザノ油分ハ私ガ頂ク事ニナリマスガ、用ガアレバ声ヲ掛ケテ下サイ」
「油分無しのプロテインピザ!?なんだその魅力的な響きは!私はそれが良いぞ!さっそく頼む魔法使い!」
クレイジーシスターズ
完結