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クレイジーシスターズ  作者: バナナ焼き
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幼馴染編 ②

真夏の昼下がり。橘は地元のショッピングモールへと足を運んでいた。

母から頼まれた買い出しを終え、両手に買い物袋をぶらさげる橘は、広場を行き交う結構な数の人々から、なるべく距離を取りながら帰路に着いていた。


なぜ必要以上に距離を空けるかというと橘の握る買い物袋の中にはクサヤが入っているからだ。独特のキツイ臭いがもれないよう梱包はしっかりと成されているものの、もし少しでも臭いが溢れ出て、周囲の人間からアイツは異臭を放つ人物だとのレッテルを貼られるのは思春期の女子である橘には耐えられない。

彼女が過剰な警戒態勢に入ってしまうのも、仕方ないといえば仕方ない。


『ただでさえクソ暑いなかのお使いなのに、なんでクサヤなんか買わないといけないのよ。母さんのアホ』

心中で悪態をつきながら、周囲の人間との距離にも気を遣いつつ家を目指す。

『それにしても暑いわね。まじで暑い。汗が止まらないわ』

必要以上の気遣いによって、知らず知らずのうち通常時以上の体力を消費しているのもあるが、それを差し引いても今日は一段と暑い。

『堪らないわね。汗がぼたぼただわ』

腕で額の汗を拭った際、視界の端に映り込んだ褐色色に小さな違和感を感じて、自身の肌へ視線を向ける。

橘は日焼けしやすい体質だった。季節が夏に入ってからたったの数日だというのに肌は真っ黒だ。

『んぁ……色か?今日が馬鹿みたいに暑いのは、もしかして色のせいなのか?確か黒色は熱を吸収しやすいとかなんとか聞いたけど』

右手側の店のショーウィンドウに移る鏡の反射に映し出された自身の全体像を確認する。


すぐ近くへ買い出しに出るだけだった為に適当に見繕った衣服は、ふと気がつけば黒一色だった。

黒のワンピース。黒の靴下。黒のク○ックス。

おまけに黒い髪に黒い瞳。そして日焼けで真っ黒になった肌。抜群の熱吸収率である。

『うわまじか…どうりで暑いわけだわ。外出前にちゃんと鏡で自分の格好を確認するべきだったわ』

今になって自身の迂闊さを後悔しながら、店のショーウィンドウに反射する自身の姿を眺めつづける。


『しかし黒いわね。驚きの黒さだわ。これなら、夜の闇に紛れて誰かを奇襲できそうね』

馬鹿げた独り言だが事実には違いない。橘の服装は、意図せず夜襲部隊仕様になっていた。


『花の女子高生が夜襲部隊仕様なのはどうなの?しかも買物袋の中にはクサヤ。そして酒。etcetc。冷静に考えたら今の私けっこうヤバくない?なんか悲しくなるわ………いやいやいかんいかん!なにこんなしょうもない事で自己嫌悪してんだ私は!違う違う!これはあれだ!両親のプロレスラー(しかも2人ともヒール役)の血が無意識にコスチュームを奇襲成功率が上がりそうなアレに近付けたんであって別に私が女子力低いとか鏡で服装チェックもしないようなガサツな女とかじゃなくてだからもしいま知り合いに出会ってもなんの問題もないわけであってあばばばばばば』

「へい!そこのお嬢ちゃん!」

グダグタと考え込む橘の耳に男の声が入り込む。周りを行き交う人間達の雑談の中でも一段と大きな声の方向に振り返ると、橘の背後に3人の男が立っていた。

「え?あ…え?わ、私?ですか?」

「そうだよ。お嬢ちゃんだよ。他に誰がいるんだよ」

3人の中で橘に一番近い真ん中の男が、妙に馴れ馴れしい口調で喋る。


「え…はぁ……」

『なんだこいつら』



「あの、私になにかようですか」

道でも聞きたいのかと思って橘が質問する。

「嬢ちゃんさぁ、俺らと遊びに行かね?」

「はい?」

しかし、返って来たのは意味不明な返答だった。

「あの…すいません。私達どこかで会いましたっけ?てゆーか誰ですか?」

「いやいや初対面だよ。俺は金田かねだで、こっちが棒緑ぼうりょくで、こっちが瀬楠せくす

橘は困惑した。ますます意味が分からない。なぜ初対面の見ず知らずの相手と遊びに行かなければならないのだ。

『っていやいやちょっと待って!?もしかしてこれ、ナンパか!?ナンパされてんのか私は!?いやでも、私って特別かわいい訳でもないし。なんなの?揶揄われてる?馬鹿にされてんのか?』



「あの、すいません。もしかして私いまナンパされてたりします?」

『まどろっこしいのは面倒だわ!分からない事があれば単刀直入に質問する!』


「いや〜まいったなぁ。別にナンパって訳じゃないよ?俺達ちょうど、これから3人で遊ぼうとしてた所なんだけどさぁ、男だけで集まるのも華がねぇってなもんで、たまたま近くにいた嬢ちゃんに声を掛けさせてもらったのさ。な?いいだろ?人助けと思ってさ、俺達と一緒に遊んでくれよ」


『百パーナンパだこれぇぇ!!?なんで私が初対面の男達の遊びに混ざらなけりゃいけないんだよ!遊ぶんなら男同士で遊べよ!いや私も相撲ごっこやら虫取りやら格闘ゲームやら男の子のやりそうな遊びの方が好きだけどさぁ!?大体こいつ喋り方と言葉回しがめっちゃ胡散臭い!てゆーかクサヤ入ってんだよ私の買物袋には!あと生モノ!この炎天下の中ムダな時間過ごす訳にはいかねーの!』


「すいません。私さきを急ぐんで」

どう考えても断る他ない。適当な言葉を返して踵を返そうとするが、男のひとりが橘の肩を掴む。

「まぁ待てって」

「やっ!?ちょっ!離して!」

驚いた橘が反射的に男の手を払う。


「うぉ、いってぇなぁ」

ワザとらしく男が払われた手をさする。


「な、なによ…いきなり人の肩を掴む方が悪いのよ…」


「あぁ?なんだよその態度」

男が不穏な空気を醸しだす。

「おいこいつどうする?」

「やっちゃいますか?」

「やっちゃいましょうよ!?」

どこかで聞いたようなセリフを吐きながら男達が声のトーンを大きくしていく。

異変を感じた周囲の人々が、言い争う橘と男達に視線を向けるが、男のひとりが睨みつけると、目の合ったギャラリーが気まずそうに視線を背ける。


特別体格が良いわけでは無く、武器を持っているわけでも無いが、男達は一目で不良だと分かる程度には人相が悪い。若くてそれなりの体力もありそうだ。しかもそれが3人組

み。


残念ながら、進んで橘を助けようとする者は現れない。

「嬢ちゃんさぁ。痛い目見る前に言うこと聞いといた方が方が身のためだぜぇ」

3人の男がジリジリと橘に距離を詰める。

「待った!ちょっと待った!貴方達は勘違いしているわ!」


橘が慌ててストップの合図をかけると、一時的に男達の動きが止まる。

「あ?勘違い?」


「そうよ。あんた達さっきから、私のこと嬢ちゃん嬢ちゃん言ってるけど実は私…お…男なんだぜ!」


「……………は……はぁ!?」

自身が聞いた言葉の意味を、遅れて理解した様子で男達が叫ぶ。

「う…嘘付け!どうみても女だろうが!」


「いやほんとよ…だぜ。ほら見ろ!このペチャパイを!全然胸ないだろほら!?」

橘が自身の胸を手で叩く。

『うぅ…自分で言ってて虚しくなるわ…』

橘は自身のド貧乳がコンプレックスだった。


「確かに……男としか思えないほどのペチャパイだが……」

その点に関しては納得だといった様子で男達が頷く。


『くっ!コイツら!いや、騙されたままの方が都合は良いけど』

「ま…まぁそういうことだから?私はここで失礼するわよぜ?男なんかナンパしても意味ないだろ?」

「いや待てこら!確かに胸は無いが顔つきや声色はどう考えても女だろうがよ!適当こいて逃げようとすんな!」

「しつこいわね!本当に男だってば!いま流行り(?)の男の娘って奴よ!だからもうあっちいけ!しっしっ!」


「おいどうする?」

「男ナンパしても仕方なくね?」

3人組が互いに顔を見合わせながらぼそぼそと言い合う。

「いや、ぶっちゃけ俺はアリだと思うぜ」


「はぁ!?」

瀬楠の言葉に、橘と金田と棒緑の3人が驚きの声をあげる。

「だってこいつ可愛くね?チ○コ生えてる事にさえ目を瞑れば全然イケるわ」


「やだ可愛いなんてそんな……じゃなくて!お前アホか!どう考えてもおかしいでしょ!男同士よ!?生物のアレに反してるわ!あんた達もそう思うでしょ!?」

橘が金田と棒緑に意見を求める。

「確かに瀬楠の言う通りだわ」

「チ○コにさえ目を瞑れば俺もイケるわ」


「えぇ!?どんだけ飢えてんだよお前ら!?やだちょっ!ちか、近寄らないで!ちょっと待ってストップストップ!!」橘が慌てて制止の声を掛けるが男達は聞き入れようとせず更に距離を詰めていく。

「まてぇい!!」

叫びながら橘と男達の間に割り込む人影。その人影へと男達が声を荒げる。

「あ!?なんだてめぇ!?」


「下がっていろ橘」

「えっ!?その声は!」

割って入ってきた人物が後ろ姿のまま橘に声をかける。

「トモユキ!!」

橘を助けようとやって来た人物は幼馴染のトモユキだった。

「なんでここに!?」

「今日は廻しの半額セールだからな。それを狙ってやって来たんだが、まさかお前が不良に絡まれてるとは思わなかったぞ」

「私だってそんな謎バーゲンのおかげで助っ人が来るとは思わなかったわよ」


「なんだお前ら知り合いかぁ?」

「しゃらくせぇ!邪魔するつもりなら容赦しないぜ!」


男達が一斉にトモユキに襲い掛かる。

「面白い!まとめて掛かってくるがいい!」


トモユキも応戦しようと構えるが

「おとなしくしろ!」「抵抗しても無駄だ!」「3人に勝てるわけないだろ!」


「ぐああああああああああ!!!」

数の暴力によってトモユキがボコボコに殴られる。


「オラァ!!!私の幼馴染になにしてくれとんじゃあ!!!」


ブチギレた橘が買物袋から取り出したクサヤを男の鼻に押し当てて怯んだ隙に蹴り飛ばし、井○屋のクソ硬あずきバーで男の額をカチ割る。ヒールレスラーの両親から血と技術を受け継いだ彼女の凶暴性は半端じゃ無い。男達はナンパする相手を間違えた。ましてや強硬手段にでるなど愚の骨頂だった。


返り討ちに合った3人組が逃げていくのを確認すると、大の字に倒れるトモユキを橘が介抱する。


「大丈夫?トモユキ」

「顎に良いのをもらってしまった。まだ頭がグワングワンする。肩を貸してくれないか」


言葉に従い、橘がトモユキを担いで立ち上がらせ帰路につく。




「なさけない姿を見せてしまったな」

両者の自宅まで後5分程のところでトモユキがポツリと言葉をもらす。

「そんな事ないわよ。助けに来てくれた時はすごく嬉しかったわ」

相槌を返してから、一呼吸置いて、橘が更に言葉を続ける。

「だから……その……」

躊躇い気味に、小さな声で長い前置きをおいてから、橘は意を決したように感謝の言葉を述べた。

「あ…ありがとね」

少し、いや、かなり照れくさい。それでも言わなければならない言葉を、橘は顔を真っ赤にしながら呟いた。

「ふ、気にするな。友達を助けるのは当たり前だろ」

「大した戦力にはならなかったけどね」

「一言余計だぞ」

「あははは、ごめんごめん」

『よかった。幼馴染がトモユキで』とても暖かい感情を感じる。胸の鼓動がドキドキと高鳴る。気恥ずかしいが悪い気はしない。



「それはそうと橘。ひとつ気になった事があるんだが聞いてもいいか?」

「ん?なに?」


「お前って男だったの?」



            完


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