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クレイジーシスターズ  作者: バナナ焼き
19/29

女騎士編

中年騎士のメタヒゲは困っていた。


「イヤやイヤやイヤやぁ〜!ウチは絶対に騎士なんかならへんからなぁー!」


娘のキャセルが家業を継ぐ事に断固拒否しているからだ。


「わがままを言うなキャセル!我がエーロイノ家は代々騎士を輩出し、国に尽くしてきたのだ!お前の身勝手で伝統を捨て去るわけにはいかん!」


メタヒゲが大声でキャセルを怒鳴る。


「イヤやイヤや絶対イヤや〜!おとんは男やからなんも抵抗なく騎士になったんやろけど女の子のウチが騎士になったら女騎士になってまうやんけ!女騎士ゆうたらゴブリンやオークにめちゃくちゃに犯されたりリョナられたり触手に捕まって苗床になるような人生しか送れへんのやで!」


メタヒゲがキャセルの部屋を見渡すと、何冊もの薄い本がそこかしこに散らかっている。薄い本の表紙は、ほとんどが肌色や謎の粘液で埋め尽くされていた。


「ドージンシとかいう書物か…この馬鹿者!名家の騎士の娘ともあろう者が訳の分からないフィクションの知識を鵜呑みにしおってからに!そんな事に時間を割く暇があれば素振りでもしてきたらどうだ!」


「イヤやゆっとうやろおとんのアホー!なんて言われようがウチは絶対女騎士なんかにならんからな!騎士の跡取りが欲しいんやったらもうひとり子供作ったらええやんか!はよう土下座して浮気の件許してもらってこいや!」


「ぬなっ!?なっ、なぜそれをっ!?」


「クックック…普段から騎士になる事を強要するおとんの言いなりになるのがイヤやから、おとんの弱みを握ったろ思うてあらかじめ盗撮や盗聴やらしとったんや」


予想外に強烈な反撃をもらったメタヒゲは、思わず言葉を失って黙り込む。


「ウチが知っとんのは浮気の件だけやないで〜他にもぎょうさん弱味を握っとんや。おかんにバラされたくなかったら騎士になることウチに強要せんといてか。ほら、こんな写真もあるんやぞ」


キャセルが懐から取り出した写真には、怪しげな部屋でボンテージ姿の女性に亀甲縛りにされたメタヒゲの姿が映っていた。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」


メタヒゲは顔を真っ赤にして涙目になりながら写真を取り上げようとキャセルに突っ込むが、直線的で動きの読みやすい行動をあっさりと躱すキャセルであった。


「キャセルっ!!その写真を渡しなさい!!いや、渡してください!!お願いします!!」


「ん〜?そうやなぁ〜。じゃあもう騎士になれとか言わへん?」


「言わない!言わないからその写真を渡してくれ!」


「騎士の誇りにかけて言わへんと誓う?」


「誓う誓う!誓うから勘弁してくれ!」


「もう二度と強要せんな?してきたらおかんに全部チクるけどそれでいいんやな?」


「………………………」


黙り込むメタヒゲであった。


「なんでやねん!このボケええ加減にせぇよ!」


「そ…そこまで騎士になるのを嫌がらなくて良いじゃないか…騎士になれば仕事は安定していて給料も高いし国民からも憧れの眼差しを向けられるんだぞ」


「そんなんいらんっちゅうねん!犯されたりリョナられたりするリスクのんがデカすぎて釣り合わんわ!」


「だからそれはドージンシの中だけの話だと言っておるだろう!それに、この小説はギャグ小説だからそんなR18やR18Gみたいな展開は無いから安心しろ。女騎士が犯されたりリョナられたりするのはエロやシリアスに限った話だ」


「は?なんの話し?」


「要約すると女騎士だからって酷い目に遭ったりしないって話しだ!だからそう毛嫌いするな!な?」


「なんや分からんけど、とにかく女騎士だけはお断りやで。ウチの人生はウチが決めるんや」


メタヒゲは、キャセルの言葉を聞くと、何かを悟ったように小さく溜息を吐いて部屋を出ていった。


『お!ようやく諦めたか?』


遂にメタヒゲを言い負かしたかと思いかけた矢先に、再びメタヒゲが、1枚の紙を手にしてキャセルの部屋に入ってきた。


「な、なんやねん。まだなんかあるんかいな」


不満気な声で言葉を投げ掛ける。


「いや…お前の言い分はよく分かった。父さんが悪かった。もう騎士になれと言う事も無いだろう。口約束だけじゃ信用できんだろう。誓約書にサインする」


そう言いながらスラスラと紙に文字を書き込むメタヒゲ。


「父さんの分はこれで終わりだ。キャセルもこっちにきて誓約書にサインするんだ」


言われるがままに近づいて、キャセルが誓約書にサインしようとするが。


「これ騎士になる為の誓約書やんけ!!おとんのアホォォォォォォ!!!」


いつもなら小難しい文字など読み飛ばしてしまう脳筋のキャセルだが、いまいちメタヒゲの事を信用できず、注意深く文字を読めば、案の定キャセルを騙そうとする旨の誓約書だった。


流石にキレたキャセルはメタヒゲの顔面を全力で打ち抜き、泣き叫びながら家を駆け出した。


脇目も振らず走り続けていると、気付けば中心部を外れた裏路地に辿り着いていた。


「うらぁ!!」


怒声に驚いて声の方向に振り向くと、何を売っているかも分からない怪し気な店の中から、男が蹴り飛ばされて飛び出てきた。


「てめぇこら全然ノルマ足りてねぇだろが!!やる気あんのかこらぁ!!」


「す、すいやせんおやっさん!!もう一度!もう一度だけチャンスをくだせぇ!!」


「黙れクソが!!しばらくそこで反省してろ!!」


他人事とはいえ見ていて気分の良いものでは無い。慌ててその場から立ち去ろうとした時、不意に、何者かがキャセルの肩を叩いた。


「ひっひっひ。お嬢さん殺したい奴はいないかい?1万くれたら誰でもヤッてやるぜぇ〜。ひっひっひ」


絡んで来た男はあからさまに危険な風貌だ。


「いっ!け…結構です…」


一刻も早くこの裏路地を出ようと、来た道を走って戻っている途中で、細い路地の隅で痩せこけた男が「お恵みくだせぇ…お恵みくだせぇ…」とぶつぶつ呟いていた。



「…はぁ…はぁ…はぁ…あっぶな〜…知らん間にめっちゃやばそうな区画に入っとったわ…」


子供のキャセルでも分かる。

あれは落ちぶれた人間達なのだろう。

正しい道を歩まなかった、ある意味、獣のような存在。


『マジで怖かった。あんなんと関わりたないわ』


キャセルは、安全そうな人通りに出ると、しばらくそこを歩き続ける。


『社会ってのは恐ろしいな。安定感の大事さを再認識したわ。よう考えたら、万が一にもウチがあんな事にならんようおとんも口やかましぃ騎士になれ騎士になれ言うてるんかもな』


視界の端に映った建物に何気なく振り返ってみれば、立ち読み可能の本屋が建っていた。


『なんやえらい御誂え向きのタイミングやな。せっかくやし、騎士について先人達の意見でも勉強してみるか』


中に入って、実際に職業を体験した人々の意見が書かれた体験談の本を手に取ってみて、女騎士の欄を開いてみる。


『実際そんな酷い目に遭わんとかおとんも言うとったし。ウチの考え過ぎなんかもしれんな。体験談読んであんまりキツくなさそうやったら覚悟決めて女騎士になってみるか』


そこには、以下のように書き込まれていた。



【最悪です。長年守り続けた純潔をオークに奪われました。(匿名27)

ズタボロにリョナられた。クソゴブリン皆殺す。目ん玉くり抜いて皆殺す。野犬の餌にしてやる。(復讐心の塊30)

女騎士最高!ドMに生まれてよかった!女騎士になってよかった!(ひなないTNS19)

もともと性に開放的でアダルトビデオに出演したりもしましたが、触手プレイだけはマジで勘弁。(匿名24)

女騎士は最悪です。究極最恐のドグサレブラックです。(匿名36)

もしも過去に戻れるなら過去の自分にこう言ってやりたい。女騎士になるくらいなら自害しろと!(匿名23)】


「やっぱり犯されてリョナられて触手プレイされるんやんけ!最悪やあのクソ親父!クッソ!もう全部おかんにチクったる!」



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