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クレイジーシスターズ  作者: バナナ焼き
15/29

性欲編

日曜日の学校内。



「うわああああああああん!!!」


手足をばたつかせ、大声で叫びながら、【廊下で走るな!】と書かれた貼り紙に目もくれず、めちゃくちゃなフォームでありながらも猛スピードで廊下を走る少女の名は


切咲裂病きりさき さくや


精巧な人形のように整った顔。


適度に筋肉質でありながら女性的な特徴も目立つ健康的な肉体美。


サラサラと流れる艶やかな濡鴉の長髪。


明るく可愛らしい声色。


魅力的すぎる彼女は、男殺し、というあだ名をつけられていた。


男殺し…切咲裂病が目指す場所は、旧美術室。


切咲裂病を合わせて部員数2名。


漫研(部員数が少ない為に部活としては非公式)の部室だ。


雨の為に校内にて筋トレを行っている汗臭い男共の隙間を、甘く蠱惑的なステキフェロモンを薫らせながら走り抜け、階段をノンストップで最上階に駆け上がり、雨の中でAチームとBチームに分かれて戦っているスタイリッシュ丸太アクション部を見下ろしながら渡り廊下を渡りきった先に見えてきた教室、旧美術室のドアを勢いよく開いて中へ飛び込む。


「ふええぇぇぇん、聞いてよコタロ〜!私また彼氏に振られちゃったのよぉぉぉぉ〜!」


「コタローじゃなくてさくらちゃん、もしくはみねちゃんで呼べっつってんだろ!?これで666回目だぞ!」


切咲裂病の呼びかけに本気で怒鳴りながらも何かを書き続けるという、地味に高度な並行作業を行う、栗色の髪のツーサイドアップの髪型の、眼鏡をかけた目付きの悪い少女の名は


桜峰小太郎さくらみね こたろう


小太郎という男っぽい名前を気にしている少女だ。


「今月に入ってこれで13度目よ!?毎日のように、てゆーか毎日失恋してんのよ私は!!」


小太郎の言葉を受け流し、裂病はガクガクと小太郎の肩を揺らし出す。


「人の話聞け!肩を揺らすな!手元が狂う!今いいところだから邪魔すんな!」


大きく肩を揺らされながらも、小太郎は鼻血を垂れ流しながら手を休めずに、机の上の紙に何かを書き込んでいく。


「BL本なんか書かずに私に構ってよ〜、私の話を聞いて私だけを見て〜、じゃないとこのまま締め落とす〜」


裂病は小太郎の首に手を回しながら、的確に頸動脈を締め上げていく。


「ぐぇぇ!苦しい!わかった!話を聞いてやるから手を離せ!」


「ほんとに!?」


小太郎の言葉を聞くと裂病は嬉しそうに手を離す。


「まったく、、、それで?今回はまたどうして別れる事になったんだ?」


「それが私にもわかんないんだよね〜、彼氏とラブホに着いて、彼氏が始めようかって言ってきたから、私がハンマーで殴りかかったの、そしたら急に怯えて逃げだしてったんだよね〜」

「はいアウト!!それが全ての元凶ですね!!」


「うん?どれが?」


小太郎の言葉に対し、裂病はまるで答えの分かっていない様子で言葉を返す。


彼女のあだ名である男殺しとは、美女が男を手玉にとる様を比喩したものでもなんでも無く、事実としての男殺しだ。


もちろん、彼女の周りの人間が裂病をあだ名で呼ぶ時は、比喩として呼ぶのである。


ただ、小太郎だけは、それが比喩でもなんでも無い事を知っている。


「普通、いきなりハンマーで殴られたら驚くにきまってるだろ、その時点でおまえ、彼氏から間違いなくキ◯◯◯だと思われてるぞ」


「鈍器系は趣味じゃなかったのかな!?ナイフとかにすべきだったかな?、、、あっ!いま思い出した!そういや彼、裁縫が趣味だとか言ってたけど、手元が狂って指に針が刺さった時は大変だったとか言ってた!しかもその話ししてる時なんとなく笑っていたかも!しくったな〜突き刺す系が正解だったか〜あの時わたしは錐を選択すべきだったのか〜せっかく手元にあったのにな〜もったいないなぁ〜」


「いやいやそういう問題じゃなくてだな、まず根本的に、その猟奇的な趣味をなんとかしなければ話にならないだろう」


「コタ、じゃなかった、さくらちゃんは私に死ねと申すのか!?」


裂病は筋金入りの変態だ。


彼女は人を痛めつける事でしか快楽を得られず、人を殺す事でしか絶頂を迎える事が出来ない。


その上、自分の性癖になんの疑問も抱かず、自分は至って正常で、自分の趣味を理解しない人間の方が異常だと本気で思い込んでいる。


「はぁ、、、、、話にならない、時間の無駄だな、そんなんだから男に振られるんだよ、、、せっかく外面は完璧なのに」


「男のいないさくらちゃんに言われたくありませよーだ」


「ほっとけよ!アタイに男がいない事は関係ないだろう!」


「てゆーかさ、さくらちゃんはなんで男ができないの?一見、地味子だけど、よく見れば美形なのにね〜」


そう言いながら裂病は小太郎のスカート

を捲り上げる。


「なんでそこでスカートを捲り上げるの?なんのメリットがあんの?」


「どんなパンツ履いてんのかと思って」


「連日の雨で乾いてなかったから今日は履いてないんだ、わかったら手を離してくれ」


「な〜んだ、つまんないの、私ネタバレされるの嫌いなのよね、そんなんだから男ができないんだよ」


「それくらいは許容されてもいい範囲じゃないのか?ネタバレの内容にもよるが、それに男ができない男ができない言ってるけど、アタイだって告白された事くらいはあるんだぞ、まぁ断ったけど」


「えっ!?うっそ!?まじ!?なんで断ったの!?イケメンじゃなかったから!?」


「いや、見た目も性格も良かったんだけど、アタイは男同志の絡みを見る事でしか萌えないのよ」


「私からすればさくらちゃんのほうがよっぽど異常だよ」


「ってアタイの恋話はどうでもいいんだよ、いまはお前の問題について話してんだろ」


「そういやそうだった、どうすれば私の性欲は満たされるの!?もう溜まりすぎて死にそう!助けてさくらちゃん!」



『おいおい、主旨がズレてんぞ、まぁいいや面倒くせぇ、もう適当に話を合わせとこう』

「あー、まぁ、あれだ、恋愛の詳しい事情ってのはアタイもよくわかんねぇけど、まずは相手の気持ちを知るのが重要なんじゃないかな?」


「ほう、具体的にはどうやって?」


「とりあえずオ◯ニーしてみればいいんじゃねぇの?自分の体を切ったり潰したりしてお前にバラされた男の痛みを知るといい」


「えっ、、、それはちょっと、、、」


「どうしたできないのか?人の事は痛めつけるくせに自分の事になると怖気づいちまうってか?」


「いや、、、痛いのが嫌とかじゃなくてさ、、、オ◯ニーにはもっとやばい問題があるんじゃないかな?」


「はぁ?何がやばいってんだよ?」


「言っていいの?私の事恨まない?これを聞いたらもうオ◯ニーできなくなるかもよ?」


裂病は、恐ろしいものを見たように顔を真っ青にしながら、気まずそうに小太郎から目を逸らしながらもごもごと要領を得ずに喋る。


「??なんなんだよ?もったいぶらずにはっきり言えよ」


「オナニーって自分とのセックスみたいなもんじゃん?自分とセックスするなんて気持ち悪くない?」


「ゲボェェェェェ!!!」


次の瞬間、小太郎は盛大にゲロを吐き出す。


「お、、オェ、、お前ふざけんなよ、もうニ度とオ◯ニーできないじゃねぇか」


「だから言わなかったのに〜」


「聞くんじゃなかったクソッタレ、藪蛇どころか藪バイオハザードだぜ」


「語呂悪いね、てゆーか意味がわからない」


「うっさい変態、お前もう帰れ」


小太郎は裂病に手の甲を向けて、シッシッ、と帰るように促す。


「、、、、、コタローさぁ、さっきから私の事を変態だ変態だって言ってるけど、私は至って正常だよ?」



なにかしらの地雷を踏んだのだろうか?


裂病は机に置かれていたハサミを手にとり、シャキシャキと子気味のいい音を立てながら、鼻先がかする距離まで、自分の顔を小太郎の顔へと近づける。


「ねぇコタロー?なんで人を痛ぶって興奮する人間がいるのかな?答えは簡単、生存本能があるからよ、痛みとは死を避ける為の重要な信号なの、痛みが強ければ強いほど死の危険は大きくなる、自分か相手が痛がる、つまりは死にむかって行けば行くほど生存本能は強く発動するの、《死んでしまう前に命を残せ!》って具合に性欲を促すの、お腹が空いていればご飯が美味しいのと一緒なのよ、死にかければ死にかけるほど生きたくなる、痛くすれば痛くするほど気持ちよくなるのよ、私から言わせれば痛みや死を目の当たりにして興奮しない人間のほうがよっぽど生物として不全に思えるわ」


「それらしい事言ってるけど、お前のそれは自分が痛い思いをしない安全圏からの物言いじゃないのか」


「私はほら、受けか攻めかって言われると攻めだから」


「へぇーそーですかー、診断の結果手に負えないレベルのサイコパスのようです、残念ながらアタイでは相談にのれません、あなたが同じ趣味を持った方と出会える事を祈っています」


「全然心がこもってなーい!」


「いやまじでこれ以上はアタイにはどうしょうもないって、今度駅前のケーキでも奢ってやるから今日の所はもう帰れ、今日中にこれ仕上げないと今度の即売会に間に合わないんだ」


小太郎は、筋肉ムキムキの男が抱き合う紙を指差しながら、面倒くさそうにそう言い捨てた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



切咲裂病は、雨の降りしきる駅前を、華奢な体がギリギリ収まるような小さな折り畳み傘をさしながら歩いて帰路へつく。



「いいじゃねぇか〜ちょっとだけだから頼むよねぇちゃん〜」


「やめて!手を離してください!」


下卑た男の声に続いて、迷惑そうな女性の声が聞こえる方向へと顔を向ける。


「1万でどうだ!?もちろんホテル代は別にして」


「本当にそういうのじゃないです!いい加減にしてください!」



「お兄さん」

ヘラヘラと笑う柄の悪い金髪の男へと、裂病が声をかける。


「ああ〜!?」


露骨に不機嫌そうな唸り声をあげながら振り返った瞬間、男の脳内に電流が走った。

『か!?かわいい!!なんだこの女!?いくらなんでも可愛いすぎるだろ!?』




「お兄さん溜まってるんですか〜?私でよければ相手になりますよ?」

高嶺の花どころか、美の女神とすら言える容姿の裂病の言葉に、男は挙動不審になりながら言葉を返す。


「へっ!?あっ!?ななな何言って!?さ、先に言っとくけど、俺は1万しか払えないぜ?本当にいいのか?」


「お金なんかいいですよ〜私も溜まってるのを発散したいだけなんで」


「うぇ!?そ、そうなのか!?じゃあ問題ないなうん!そそ、それじゃあ早速どこかいこうか!?」



「えぇ、早速いきましょう、、、、2人っきりになれる場所へ、ね」




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