プロローグ
「このクラスに転校してきました。桐谷亮史です。」
転校生の王道、黒板に名前を書かれることはなく、亮史は簡単な自己紹介を終えた。
皆からの好奇の目に晒されている時間も亮史にとっては心地良いものでは無かった。
「りょーくん⁉︎りょーくんよね⁉︎うわ、りょーくんだ!皆ー‼︎私のりょーくんだからね‼︎」
圧倒的テンションの高さ
圧倒的空気の読めなさ
圧倒的スタイルの良さ
このテンションMAXで、先生を無視して、亮史に駆け寄ってきた女子生徒こそ、椎名小鳥だ。どうせなら、小鳥のようなルックスだけでなく、声量も似通って欲しかったものである。
「椎名、そろそろ席に戻ってくれ。お願いだから。」
「ねぇ、りょーくん、今まで何処にいたの?」
「後で、話すから小鳥、とりあえず席に…」
「りょーくんがそう言うなら。」
先生が嬉しそうにこっちを見ている。
今までお疲れ様でした。
少しはマシになることをお約束します。
「とりあえず、趣味とかは言いたいこととかはあるか?桐谷。」
「趣味とかは、特にないです。言いたいことは、一応そこの椎名小鳥とは幼馴染でした。皆さんよろしくお願いします。」
クラスの反応は思っていたよりも反響が大きくて、亮史はとても驚いた。これも単に小鳥が暴れてきた歴史の象徴かと思うと、胸が痛んだ。
「そーなんだよー‼︎りょーくんは私と一緒に毎日過ごしてたんだから‼︎お風呂も入ったしねー‼︎」
もちろん、小学生に上がる前のことである。
しかし、クラスの男子生徒に喧嘩を売るには十分な物であったことに間違いはない。
「ロリコン…」
クラスの男子からそんな声が聞こえてきた。その声を皮切りに、
「羨ましね‼︎」
「ロリコン氏ね‼︎」
などという、散々な罵倒が飛び込んできた。
「おいおい、落ち着けよ。小学生になってもない時の話しとかだろー。そうカリカリするな。」
今度は、亮史が先生に尊敬の眼差しを送る番だった。
「「分かってるよ‼︎」」
クラス全員 (亮史と小鳥を除く)からのバッシングが帰ってきた。先生は尊い犠牲となった。
先生が犠牲となった事により、亮史の被害はとても少なくはあった。
しかし、小鳥が亮史にべったりくっつくおかげで友達も少なくはあった。
幼馴染が2人で話している場所に誰が介入出来るだろうか。それが今日ずっと続いた為、クラスの人と話す事すらままならなかった。
「今日、家においでよー‼︎」
小鳥がこう言い出すことを、亮史は知っていた。そして、断る事が出来ないことも。
3歳頃から小学生卒業まで、毎日会わない日は無いほど、顔を合わせてきた。
3年間会ってはいないものの、普段の様子を見る限り、変わっていることはそうそう無いだろう。
「分かった。」
椎名家の家は、今亮史の一人暮らしをしている家とそう離れておらず、制服を着替えに一度家に帰った、その道中中学校の修学旅行の事をふと思い出した。
亮史はそこで飛行機ジャックに遭い、目的地だった沖縄の近海で、命を散らしたはずだった。
しかし、薄れゆく意識と沈みゆく体で、終わった…
そう思った時、出会った幼女は、
「私が助けてあげる」
そう告げた事を覚えている。あれが、走馬灯だったとは思えないが、現実だったとは尚更思えない。
「お邪魔します。」
「いらっしゃーい‼︎ひっさしぶりだなー‼︎小鳥は部屋にいんぞー。」
「お久しぶりです。翼さん。」
明らかに、小鳥のハイテンションは遺伝であることを実感させる、親子揃ってのテンションの高さを久々に感じながら、慣れた調子で、階段を登り、多少失礼に思わなくは無かったが、ノックもせずに扉を開けた。
まぁ、それがまずかった。
小鳥は着替えを行っていた。よく考えると、小鳥が亮史を迎えに来ない理由なんて、それくらいしか、思い浮かばない。
「あ、りょーくんだ…わー
りょーくんなの…」
初めて見た小鳥のテンションの高くは無い場面はとても貴重な光景ではあった。そして何より、何も纏っていない小鳥の姿はとても華奢で、ありていに言えばとても綺麗だった。もっと見ていたいとは思ったが、しかし、扉を閉めない訳にはいかない。
亮史は小鳥を幼馴染に思えなくなってきた。
「入って来ていいよ…」
テンションは戻っていない小鳥が扉を開けて手招きをした。
「かわいい…て、誰?」
小鳥は、きょとんとした瞳で亮史を見て、首を傾げた。
「誰って、そりゃ亮史、桐谷亮史だけど?」
そう言ってはずの自分の声はとても澄んだ高い声をしていた。
「こんなのりょーくんじゃないよ…」




