第六十五話 不気味な笑い声
「……あれは、タクじゃない」
はっきりとした口調で唯果は言った。
「だとしたら一体……」
「神の仕業だ……っ! 絶対に許さない。くっそぅ…………お父さんを殺したなああああぁぁぁ!! 絶対にお前も殺してやるーーー!!!」
唯果は天に向かって叫ぶ。その目には涙が溢れていた。
もちろんその怒りは王子に向けたものではなく、神に対してだ。
そして王子はそんな唯果を心配するどころか、襲いかかってきた。
「くっ!」
唯果の前に立ち、王子の拳を手のひらで受け止める。
王子は不気味な笑みを浮かべたまま、今度は俺の横腹目掛けて蹴りを放ってきた。
「ケケケ!」
飛んできた足を腕で払い、空いている拳を目の前にある顔目掛けて突き出した。しかしその拳が王子の顔面を捉えることはなく、風を切る。
「……ケッ?」
攻撃を躱した王子のすぐ後ろにいた唯果が羽交い絞めをした。王子は逃れようとあがく。
同じ王族でも唯果は女の子だ。長くは持たない。
「たいちょー! 今のうちに早くー! あ、でも気絶させるだけだからねー!!」
「分かってるよ」
王子に近付いて、顎を殴った。これで気絶させられるという話は聞いたことはあったが、実際にやるのは初めてで少し不安はあった。
王子はくらっとしたあと、動かなくなった。どうやら成功したみたいだ。
唯果は気絶した王子をゆっくりと床に横たえる。
「……タクから離れてくれ」
いつもの調子に戻った女王が、座った状態のまま王子に手を伸ばした。
俺と唯果は少し離れたところでその様子を見ていた。
ヴォンっという音が響く。
「locker?」
「そうだ。条件は、外側からlocker内に人が入ってくること。もちろん、今locker内にいるのはタクだけだ」
ということは、玉座の間に人を入れさせなければ問題ないということか。
俺は今初めてlockerの存在に感謝した。
「女王、どうする?」
俺は王の亡骸に目を向けた。王の胸にはナイフが刺さっており、そこから血が流れ出ていた。
「そのままでいい。私はこの人と一緒にいたいんだ。死んだくらいでこの人への愛は変わらない。生きてても死んでても、側にいてくれるだけで幸せなんだ」
女王は王を見て優しく微笑んだ。
「お母さん……」
「……うぅ……どうして? 誰がこんなことを……うっ……したんだ? やったのはタクだけどタクじゃない……」
女王は涙を堪えている。
「第四王国の神だよ。お母さん、今すぐ呼べる?」
「……無理だ。少し前から姿を見せなくなった。何があったんだ?」
「ごめん、話してる時間がないくらい酷いことになってるの。タクのこと頼んでもいい?」
「分かった。何が起こってるのかは分からないけど、あとはお前達に任せた……って言っておけばいいのか?」
目に涙を浮かべながら、じょおうはにっと笑った。
本当はかなり辛いはずなのに、本当はもっと泣きたかったはずなのに、俺達が玉座の間から出るまでずっと女王は笑ってくれていた。
どこにいるのか分からない神を探して走りまわっている途中で、王子や王女が何人も襲いかかってきた。その度に全力で戦い、足を一本ずつ折って気絶させるのには苦労したが、殺すわけにもいかない。
どうやら俺達を襲いかかってきているのは王族だけのようだ。王と女王はどの王国でも基本的には玉座の間から出ることはできない。
数を数え忘れていたせいか、あと王族が何人いるのか分からない。
「叶未先輩を除いてあと三人だよー。これがもし神の能力だとしたら効果範囲はおそらく火星だけ。火星の神だからねー。だから地球にいる叶未先輩はきっと大丈夫だと思う」
「そうか」
「それにしても、王族の能力解放までしてるなんて……」
そう、厄介なのは能力解放。ここまでくると神っていうのは何でもありなのかと思ってしまうのだが、実際そうなのだろう。
俺も王族と戦っている内に能力は使えるようになってきたが、それでもきつい。
「すとーっぷー」
突然目の前に何者かが俺達の前に立ち塞がった。
見たことのない少女だった。
「誰? 私達今急いでるんだけど」
それを聞いた少女はケケケと笑う。おかしくなった王族達と同じ笑い方だった。
「これを見ても思い出してくれないの? ケケケ!」
少女の体や顔の形が変わる。変わっていく。
それは徐々に、よく知っている姿に変わっていた。
小柄で茶色の短髪…………唯果だ。
「なっ!?」
唯果は、自分と全く同じ形の人間を見て驚いていたがそれも一瞬。そう、あれは能力だ。一度触れた人間の姿に変えることが出来、記憶を見ることが出来る。
第五王国王女。
「思い出してくれたみたいだねぇ……ケケ。王族だと能力もコピーできるから、とりあえず私の兄にするか」
また姿が変わる。今度は180センチはあるだろう大柄な男性。
そいつは指を一本一本、ポキポキと鳴らしながらこちらへ近づいてくる。
「ケケケ!!」
そして不気味な笑い声を上げた刹那、稲妻が走った。




