第六十四話 開始
「とりあえずお前は落ち着け」
鬼のような形相で玉座の間から飛び出そうとしている唯果の襟を掴む。それでも手足をバタつかせている唯果を見て、可愛いと思ってしまった。
いや、こんなときに何考えてんだ俺。
とにかく状況を整理しよう。
まず、俺は第一王国の王子。唯果を守るために生まれてきた存在、かもしれない。謎。
使える能力は二つ。危険。
第四王国の神が、第一王国の王に俺を捨てさせた。最低。
神は一度、俺達火星人を消して、また新しくやり直すと言っていた。……………………それってやばくないか?
「たいちょー。とりあえず地球に帰ろう。これからしばらく帰れそうにないから、みんなに一言二言言っておかないとー」
「そうだな」
だいぶ落ち着いたのか、唯果はいつもの口調に戻っていた。
「地球に戻るのならこの王国の乗り物を使って行け、息子よ」
俺の目を見て、王は優しく微笑んだ。しかしすぐに暗い顔になる。
「お前は一生私を恨むだろうが、できる協力はさせてくれ」
「王様は何も悪くないですし、恨みません。ご協力お願いします。ありがとう、父さん」
「…………」
父さんは静かに泣いていた。
そこで、
「私のことは呼んでくれないのかしら、なんちゃって……ふふ」
おちゃめな女王の笑顔のせいで、こっちまで頬が緩む。
「……母さん」
「は~い」
最後に俺と唯果はあいさつをして城を出た。
何度も地球と火星を行き来していたせいか、乗り物に乗るのももう慣れていた。
隣で座っている唯果を見る。落ち着いていて表情も穏やかだが、心の中では今、何を思っているのだろうか。
「それじゃーたいちょ―、行こー」
「おう」
何度目かの地球へ出発した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
日曜日、俺と唯果は地球へ戻り、三人に連絡をして集まってもらった。そして、火星で何があったのか包み隠さず話した。
火星についてほとんど知らない光翼は終始、よく分かっていないみたいだったが。
そして話が終わり次第、火星へ戻ろうと思ったのだが、そこで梓に引き止められた。
「二人だけで行くつもり?」
「仕方ないよ梓。危険なんだから。私達はここを守ろう? もしものことがあるかもしれないし」
そう言う叶未も、火星に行きたがっているのが見て分かる。
「俺には何ができるか分からないけど、とにかく生きる! だから硬大と唯果も必ず生きて帰ってこい」
珍しく光翼がまともなことを言った。そんな光翼のためにも必ず生きて帰ってこよう。
梓は納得いかない様子だったが連れて行けるはずもなく、俺と唯果は笑顔で三人に別れを告げて、二人ほぼ同時に地面を蹴った。
フラグだろうが何だろうが俺達は必ず生きて帰る。またみんなで笑いあえる日常へ戻るために。
第四王国の玉座の間に入った俺達はその場で固まっていた。
「お父……さん?」
王が何者かに胸を刺されていた。王はピクリとも動かない。
「いやあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
女王が絶叫した。
普段は強気な女王が泣き叫んでいる。それほど王のことを愛していたのだろう。
怒りが湧いてくる。
「……タク、何してるの? その人……お父さんだよ……?」
タクと呼ばれた少年はゆっくりとこちらを振り返る。
唯果の言っていることが本当なのだとしたら、王子が父親を殺したことになる。ますますどういうことなのか分からなくなった。
「……見ぃつけた……ケケ」
その少年は不気味に笑った。




