第五十六話 隠し事
最近、文字数増やしました。
「え……?」
叶未は驚いた。
当然だ。梓にいきなり訳の分からないことを言われたのだ。
梓は叶未から目を離さない。俺はその目を見て気付いた。梓は確信している。叶未は間違いなく何か隠し事をしているのだと。
教室内では他の生徒の話声や笑い声が聞こえるのに、俺達だけが別世界に行ったかのように静かだ。
黙っている叶未に対して梓は言った。
「それを教えてもらわないと私は仲良くしたくても出来ない気がするの」
叶未も梓から目を離さない。
そこで光翼が口を挟む。
「梓、誰にだって隠し事はあるだろ? そんなの無理に聞き出す奴なんていねーぞ普通」
「そうだね。でも叶未の隠し事は無理にでも聞きださないといけない。確信できる」
そういえば前に梓が何か言ってたな。確かあれはみんなでプールで遊んだ帰りだったか。
『なんでいつも叶未を睨んでるんだよ』
『すごく嫌な感じがする。あまり関わらない方がいい気がするの。女の勘……かな?』
そのときはなんとなくそんな気がする程度に思っていたのだろうが、今の梓は確信している。
「……確かに……そうかもしれない」
叶未は否定しなかった。
「今まで黙っていてごめんなさい。私、実は…………強い人を探しているんです」
俺達一人一人の顔を見て、叶未は言った。
俺は首を傾げた。
「強い人……?」
「はい。でも名前は分からなくて、どんな人なのかも聞かされてはいませんが……」
叶未は一度口を閉じて俯く。
「……すみません、これ以上は言えません……」
「言えないってどういうこと? 何か企んでるんでしょ!? 私、初めてあんたを見たときから変な感じがしてたの。不思議なオーラを隠すこともなく溢れ出してて。そんな人が怪しくないはずがない」
梓は捲くし立てるように言った。
このままではさっきと同じだ。俺はとりあえず梓を落ち着かせようと思い、口を開いた。
「梓、ちょっと落ち――――」
「仕方ないじゃない!!」
しかし俺の声は叶未の大声によって遮られた。
「仕方ないじゃない。だって、全部話したら梓達に嫌われてしまうから……っ……」
叶未は泣いていた。肩が震えている。
「確かに……ぐす……隠し事をしてるよ。でも……っ! 梓達に危害を及ぼそう……だなんて……うぅ、考えてないよ」
泣きながらも頑張って声を出す叶未。そんな姿を見て信じられないはずがなかった。
梓も動揺していた。予想外だったのだろう。
そこで光翼が梓に言った。
「叶未ちゃんは嘘を吐いていないと思う。言っただろ、誰にだって言えないことの一つや二つはある。叶未ちゃんの隠し事が何なのか分かんないけど、俺達は関係ないって言ってるんだ。無理に聞き出す必要はない」
「……ごめん」
梓は叶未に向かって謝った。少しは反省しているようで、俺と光翼は安堵する。
「私の方こそごめんね……何も教えられなくて。えへへ……梓には嫌われちゃうね」
叶未は笑った。まるで何かを諦めたかのように。
「い、いや……別に、私の勘違いだったんだし。……嫌いにはならない、と思う」
「良かったぁ」
叶未の表情がパッと明るくなる。
そこで俺は、神に言われたことを思い出した。
「そういえば火星の人に言われたんだけど」
俺はできるだけ小声で言う。もちろん神とは言えなかった。
三人が俺の方に顔を向ける。
「地球に戻っても気を抜くなってさ。どうやら誰かに命を狙われているらしい」
それを聞いた三人の顔が真っ青になる。最初に口を開いたのは光翼だった。
「……だ、誰が?」
「多分俺だと思うけど、もしかしたら周りの人間も襲われるかもしれない。だからもしこれから何か気になることがあったらすぐに教えてくれ」
三人は何も言わず何度も首を縦に振る。俺のせいで大切な友達を巻き込んでしまうのかと思うと、自分に腹が立つ。
後で唯果にも言っておこう。
「……あ、早く食べないと昼休み終わっちゃう」
「梓、誰のせいだと思ってるんだ」
「さ、さあ? ほ、ほら! 早く食べよ!」
それからは誰も一言も発することはなく、ただ黙々と食べていた。




