第五十五話 帰還
最近、3日4日が早く感じます。……私だけでしょうか。
夜が明けて、俺達は城を出る前に女王達に挨拶をした。
唯果は昨日のことが嘘だったかのように元気だった。
「また来るといい。それと、第一王国に行くときは気を付けな」
第一王国という単語を聞いて唯果は暗い表情になったが、すぐに笑顔を見せた。
「分かってるよー、お母さん。それじゃ行ってくるねー」
唯果は手を振って玉座の間から出て行った。梓も一言言って頭を下げた後、唯果に続いて歩いて行く。
「次ここへ来たときは皆で飯でも食おう」
「……今更かも知れんが、私は女王でお前は部隊長だぞ。もう少し……」
そこまで言って女王は口を閉じた。言っても無駄だと思ったのだろう。
いつから俺はこの人達とこんなにもフレンドリーに話す関係になったのか。そんなこと俺にも分からん。
女王は溜め息を吐いて、シッシと片手を前後に振った。それに苦笑して振り返り、歩き出した俺を神が呼び止める。
「隊長」
「ん?」
神の方へ向き、顔を見た。そこにいつもの薄気味悪い笑みはない。
「地球に戻ってもあまり気を抜かない方がいい。あの緑髪種族の娘を攫って、コロシアムでお前と戦ったのは王子なのだろう? もしもそうなら次は」
「王女……か」
神は頷く。確かにそれはあってもおかしくはない。そうでなければ王子の死が無駄になってしまうから。
……ただ。
「普通は親が引き止めるはずなのだが、……そういうことなのだろう。この火星はもう崩壊している」
「どういうことだ?」
神は首を左右に振って苦笑した。
「なんでもない。とにかく気を付けるように」
気にはなったが、無理に聞こうとも思わなかった。
俺は首肯だけしてその場を後にした。
外に出ると、唯果と梓が乗り物に乗っていた。それは何度見ても変な造りをしていた。見た目は、どこにでもある軽乗用車のような形をしており、タイヤはないがその代わりにロケットエンジンが付いている。
こんなので地球に行けるのかと思うと不思議でならない。まあ、これでも一応女王の力を使って生成しているものなのだが。
「かなり久しぶりに乗ったなぁ」
梓が呟く。
確か梓が最後に乗ったのは小さい頃か。
感触を思い出すためか、梓は乗り物を撫でていた。
「レミはどうしてるかな……」
俺が乗り物に乗ると同時にそんな声が聞こえてきた。乗り物だけではなく、昔の出来事も思い出していたらしい。
「きっとどこかで頑張ってるよ。またいつか会えるんじゃないか?」
どうしてか、梓の独りごとのような呟きに言葉を返していた。
それを聞いて、そうだねと微笑む梓。
……唯果は一人でハテナマークを浮かべていたが。
乗り物が急発進をする。俺達はなぜかとても穏やかな気分で火星を出た。
「それで火星から皆で帰ってきたと?」
光翼の言葉に俺は頷いた。あの後家に帰り、翌日学校に行ったのだが、学校に休みの連絡を入れ忘れていたことに気付いて俺と梓は光翼に事情を説明していた。
本当は伏せておくべきなのだが、俺と梓が二人とも無断欠席をしたのだ。風邪だと言っても嘘だとバレるに決まっていた。
無断欠席の理由を話したといっても、もちろんコロシアムでの出来事や、俺と唯果の火星での立場など細かい部分は省いている。
光翼は怒っていた。
「俺の梓を攫うとはいい度胸してるじゃねえか。おい、その火星人連れてこい。俺がボコボコにしてやる」
「お前人の話を聞けよ。俺がお前の代わりに殴っておいたんだって」
「それじゃダメだ! 俺がこの手で」
「それに行方不明になったし。どこかで誰かに倒されたんじゃないか? それが悪者の末路だろ」
その後も光翼は何か言っていたが、チャイムが鳴って担任が入ってきたことによってそれぞれ席に着いた。
昼休み、茶色のツインテールの髪を揺らしながら叶未が走ってきた。
「硬大くん、梓、大丈夫ですか? お二人とも無断欠席って聞いたので心配しましたよお」
叶未は安堵したのか、ふぅ~と息を吐いた。かなり心配させてしまったようだ。
「ごめん、もう大丈夫だから」
「何があったんですか?」
俺は光翼と同じように叶未に説明した。その間……というか、叶未が教室に入ってきたときからだが、梓の機嫌が悪くなっていた。
……仲良くすればいいのに。
しばらくして、叶未は俺の話を聞いて納得をしたようだ。
「硬大くんと唯果ちゃんも火星人だったんですね」
「ああ。黙っててごめん」
「謝らなくてもいいですよ」
叶未はこういう話を聞いても距離を置くことはなく、笑顔のままでいてくれる。そういうところ見るとやっぱりいい子だと思うんだけどなぁ。梓は何が気に食わないんだろう。何か男と女では見方が違うのか。
「梓も大変だったね。怪我とかしてない?」
女の子同士だからか、叶未はいつからか梓に対しては話し方が違っていた。それも嫌なのか梓が不機嫌そうな顔をする。
「大丈夫だよ」
「そ、そっか」
さすがの叶未も少し困った顔をしていた。当然だ、あそこまで嫌そうな顔をされているのだ。
叶未からは笑顔が消え、両手で抱えている弁当で顔を隠して俯いていた。
……これはさすがにまずい。
そう思って俺が口を開こうとしたときに光翼が言った。
「梓、叶未ちゃんに謝れ」
「……え?」
梓が驚いたような顔をする。
「友達を泣かせるような奴と一緒に飯は食いたくない」
「いや、……でも」
「いつも叶未ちゃんに対してああいう態度だったよな。叶未ちゃんは梓に何かしたのか?」
静かに怒る光翼。なかなか珍しいし、ナイスだ。
梓の目が泳いでいる。……これもなかなか珍しい。
「い……いや、何も」
「なら謝ろう。俺は梓を信じてる」
光翼の言葉に梓はうぅっと声を出し、叶未の方へ体を向けた。
「ごめんなさい、叶未ちゃん」
梓の謝罪を聞いて叶未は顔を上げた。目は少し赤かった。
「う、うん。いいよ」
その言葉を聞いた梓は何かを考えるような表情になる。
そしてナイス説教をした光翼はパンッと一度手を叩いて笑った。
「よーし! 梓と叶未ちゃんが仲直りしたことだし、飯にしよう。早く食べないと休憩終わっちゃうよ」
と言って光翼は梓の弁当に手を伸ばす。
「気持ち悪い」
そこで光翼の頭に梓のチョップが入った。
良い雰囲気に戻っていた。
それぞれ弁当箱を開けて食べ始める。
そこで梓が口を開いた。
「叶未ちゃん。食べながらでいいから一つ教えて欲しいんだけど」
「……え? う、うん」
一応謝ってもらったとはいえ、まだ気にしているのか叶未は慎重に返事をした。珍しく声を掛けてきたことの驚きもあるのだろう。
見る限り梓は別に怒ってはいなかった。ただ何か気になっているような感じだ。
「教えて、一体何を隠しているの?」




