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夜の闇は静けさの中で命を消し去っていく。
静まり返った道で街路樹の葉が風に流され音を立てる。
そんな些細なことさえも今は恐怖に感じられて、高校生にもなった彼は全力で自転車をこいでいた。
通りなれた道も、いつもと同じ風景さえも全てが終焉の時を、ただ、静かに待っているかのようだった。
死を前にして彼の脳裏に浮かんだのは、今朝、出会った少女からの忠告だった。
「寒い・・・・・・。」
秋も深まり朝晩は冷えるようになってきた。
空は薄く雲が広がり、朝焼けで真っ赤に染まっている。澄み切った、雲ひとつない秋の空とはいかないようだ。
いつもと変わらない、もう何度も繰り返してきた、朝の支度を済ませ。登校のために自転車にまたがった。
家は表の通りから、一本裏に入ったところにある。軽自動車が一台通れる程度の狭い道で、道の両側は民家のコンクリート塀が、より圧迫感を与えている。さらに、電信柱が等間隔に道の片側に並んでいる。
表通りに向かって進むとゴミの回収場所があり、月曜と木曜の生ゴミの日には多くのカラスが群がっている。カラスには曜日感覚があるのだろうか?それとも、毎日やって来て、ゴミのある日だけ、漁っているのだろうか?
電線の上に止まったカラスは、ざっと数えても20は降らないのである。
近くを通る通行人に容赦なく襲い掛かり、苦情は止まなかった。彼もまたその犠牲者の一人であった。なぜなら、通学のついでに、ゴミを出すのが彼の日課だからである。
今日は木曜日でちょうど、ゴミの日なのであった。
覚悟は決めていた、いつものようにやればいい。彼は、そう自分に言い聞かせた。
自転車に乗っている利点を生かし、全速力で近づいて、ゴミを投げ込み、全速力で走り去る。それでも取り囲まれてつつかれるとものすごく痛い。
角を曲がると、カラスの群れが見えてくるはずだった。
「あれっ、・・・・・・なにあれ。」
彼の目にカラスは映らなかった。代わり止まっているのは、獰猛な猛禽類。鷲か鷹だろう。
電柱の天辺に止まっている。民家の塀の上にも。数は5羽。カラスはどこにもいない。
突然、辺りを見渡す彼の前から風が吹いた。同時に、大きなものが後ろに飛んでいった。
「うあ。・・・・・・。」
振り向いた彼の目には、純白の鳥が翼を広げて留まろうとしている、姿が映った。
そこには、小柄な少女が立っていた。