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放課後で2人見ぃつけた

傾く陽が、人影2つを運動場に映す。

「ちょっと遅くなっちゃったな。せっかくの悠里の歓迎会だし、皆を待たせたら申し訳ないし、急ぎ足で帰ろう。」

「私のせいじゃない。あの男の話が長かっただけ。」

「まぁ、そうだけど。久しぶりの部活見学者に丘野も嬉しかったんだろ。」

手ぶらで歩く少女悠里と、荷物持ちの少年雄大だ。

並んで歩くその姿は仲睦まじいカップルか、もしくは兄妹にも見えかねないだろう。

だが、この2人の関係を端的に表す言葉があるとすれば、それは「パートナー」である。

寝食共に過ごし、言葉を口にしなくとも通じ合う「パートナー」だ。

「別に聞いていないし。」

「・・・さいですか。」

だが、まだ熟年夫婦のように「あれ」「これ」と略称で会話が成り立つほど成熟しきってはいない。

いや、むしろまだ互いのすべてを知りつくした熱い関係には成りきれていないが。


肌寒さが少し残る5月の風が、優雅に奏でる琴線のように悠里の長髪を一本一本たなびかせた。

夕凪の風が吹くちょうどこの時間帯は、横浜港からの潮の香りが内陸にも届くことが多い。

中には塩気の含んだ風が吹くたびに髪の毛が痛んでしまうと嫌がる女性もいるが、神奈川県横浜市はここ数駅東京寄りに位置する仲木戸駅に、雄大達が通う南海高校が存在する。

横浜、品川どちらからも通勤通学が便利とされ、駅近くに隣接する高層マンションと直結したペデストリアンデッキ(横断歩道をいくつも繋げたような立体的な歩行者回廊)が人々の通行をたやすくする。

だが、いくら駅区画の利便性が良いとは言え、在校生のほとんどが徒歩か自転車で通学するほど地元に愛されている学校であり、電車を利用する学生は数少ない。

「地元の学校」という愛着ある特色を持ちつつも平均的な学力を懸念して進学塾に通う者もいるが、文武両道を重んじる学校長の意図を汲む者は授業が終わるとご多分に漏れず部活やバイト、遊びに精を出す。


雄大はというと南海高校写真部の副部長を務め、毎週の部活動に精を出していた。


「転校したばっかだし、早めに友達は作った方がいいぞ。部活とか、バイトとか。」

2人が入寮している『寿園』の禁則事項に「アルバイト」が含まれているが、細かいことは気にしないといった様子で雄大はあくびをかみ殺しながらのんびりと言った。

「私、そういうのいいから。」

「・・・さいですか。」

せっかくの提案もぴしゃりと却下され雄大は海の方へと頭をめぐらせた。

むすっとした表情を浮かべた悠里は、一歩先に歩き始める。

「・・・。」

「・・・。」

会話のない空間が2人を包み込み―

「あっ、・・・・・・ノート忘れた。明日の宿題のやつ。」

唐突に静寂を破ったのは、ちょうど自転車置き場に着いた頃だった。

がさごそと鞄の中をかき分けるようにして大ざっぱに確認した雄大は、諦めたようにため息をついた。

「教室見てくるわ。」

ばつの悪そうな表情を浮かべ、雄大は来た道を振り返った。

「私も行く。」

殴りに行くとでも言わんばかりに力強く悠里が答える。

「いいよ、ガキじゃないし。」

「私はガキじゃないわ。」

「お前のこと言ってんじゃないって。すぐ戻るから待っててくれ。」

校門で落ち合うことを伝えた雄大は、悠里の返事も待たずに教室に向かった。


―いまいち、噛み合わないんだよな・・・。

心中1人ごちた雄大は、靴箱でもう一度上履きに履き替え、そして軽快に階段を上がっていった。

事実、まだ悠里と出会ってから1日も経っておらず、こっちの寮に来る前のことは何1つ知らないのだ。

昨日学校から帰ってきたら寮の玄関で寮長と入居の手続きをしていたのが彼女で、雄大の帰宅に気づいた寮長が手続きを止め、その場で雄大を紹介したのが事の始まりだった。


明日から俺と同じ学校に通うこと、年齢が俺より1つ下であること、料理が得意であること。



――そして同類であること。



今日から雄ちゃんの新しいパートナーになるからね、仲良くしてあげてちょうだい。


寮長のにこやかな紹介に反比例するかのように終始固い表情のままの悠里であったが、それは新しい生活に対して緊張をしていたということではなく、どうやらいつものことらしい。

きっと今も、老若男女が逃げ出してしまいそうなほど眉間にしわを寄せた形相をして校門で待っているんだろうな。

「パートナー、か・・・。互いにまだ早いと思うけどな。」

今日の夜のことをもんもんと考えながら、誰1人としてすれ違わずにあっさりと2年6組に着いた。

早く戻らないと今度は何をされるか分からない。

ぶるっと身震いひとつ、ガラリと教室の扉を開けた雄大はさっと机に向かった。


―いや、向かおうとして、足が止まった。


「・・・・・・・つ、つき、つき、月姫っ、くんっ!?」

「えっ・・・・!?さ、佐伯さん・・・?な、何してるの・・・?」

俺の机で。

という言葉は思いもかけない光景についぞ音とならなかった。

扉を開けると、同じクラスの佐伯彩矢がそこに居た。

雄大の机に頬ずりをする格好で、そこに居たのだった。

くりっとした大きい両目が、雄大の幽霊でも見たかのように驚愕に見開きながら。

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