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ハーレム勇者と逆ハー巫女。


どうも初めまして、しがない魔法使いです。

ちょっと前に勇者様御一行に拉致・・・じゃーなくて、一行に加えて頂きまして。

現在私達が目指していた場所からだいぶ北西に逸れて通り過ぎてたりします・・・が、私達はゲンキデス。


“達”って言いましたが、元は二人旅だったんです。

どうも夫婦の物見湯山かなんかに見えたらしくて拉致られました。

夫婦でも婚約者でも恋人でもねーよ。

んな甘酸っぱさ1000%の関係に成れないし成りたくも無いよ!

アイツと私はただの腐れ縁んんんんんん!!


って、叫べるもんなら叫びたい。

でも叫んだら最後、私きっとタヒぬ。

勇者様マジラブ美女&美少女軍団に殺される。

大体私とアイツがこの集団に拉致られたのって、魔法使いのポジションが丁度“空いた”ところに遭遇したからなんだよね。


その攻撃魔法使いのポジションが空いた理由ってのは、魔法使い(美女)が抜け駆けして勇者サマに迫ったからだそうで・・・。

他の勇者様マジラブ軍団にフルボッコにされて全治半年の怪我を負って入院余儀なくされたからなんだそうな・・・。

上位の回復魔法が使える治癒師が山ほど居る大病院なのに全治半年で入院なんだそうだ・・・。

で、そこそこ魔法が使えて旦那が居る私が何故か抜擢されたと言う訳だ。

旦那に関してはものっそい勘違いだけど・・・言ったら多分前の魔法使いと同じ末路を辿ると思うんだ、私。

腐れ縁が助けてくれるとも庇ってくれるとも思えないしねー・・・。


「・・・ライ」

「・・・なんだ」


私が名を呼ぶと、隣を歩いていた(そして殆ど同時に足を止めた)体格の良い男は不機嫌そうな声で答えた。

羨ましいって言うより殺意が湧く様なサラサラの直毛は全体的に短いけれど、前髪だけが分厚く目を隠すように長い。

理由があってそうなんだけど、あの真っ赤な目が見えないのは少し残念だと思う。

けど、腹が立つ位には男前なお顔立ちをしてるから妙な嫉妬とか向けられない分には助かる。


「あれ、うちの勇者様と勇者マジラブ美女軍団だよね」

「・・・・・・・・・ああ」


人垣の向こうに見えた遠目からでも目立つ派手な美人集団は、目に見えて殺気立っている。

何で見えたかって、ここ階段の上なんだよね。

で、階段下の広場に、ここ最近一緒に行動しているメンバーが今にもセーラー服の女の子に跳びかかりそう。

あー・・・セーラー服の女の子の取り巻きも似たようなもんか。

そっちは無駄に顔の整った男ばっかりだけど。


「「・・・」」


今、目があったよね。心底助けを求める少年少女と。

ふとライに目配せすると傍から見たら解らない程度にライは頷いた。

腕を取られてふわりと口元で微笑んだ男を、テメェ誰だと殴りたくなったけど我慢ガマン!!

ああああ、誰かこの鳥肌見て!と叫びそうになった瞬間。


「ユウ・・・行くぞ」

「・・・ああ、はいよ」


ニタリと犬歯を剥いて笑ったライに、ああ。と諦めた。

何時もの方が心臓に優しいからまあ許そう。

たとえこの後、あの一発触発空間に突入する事になったとしても。

江戸っ子気質な火の国で生まれ育ったライが我慢出来るとも思ってなかったしね・・・ただ、めんどうだけど。


人込みをすり抜けて広場に出ると広場全体が殺気だってる様だった。


「ミューシアちゃん、これどういう事?」

「あ、あの・・・お帰りなさ、い。ユウさん、ライさん・・・これは、そのぉ」


一発触発な勇者マジラブ組の後ろの方で今にも泣きそうな顔で杖を握り締めていた、治癒士のお嬢さんに声を掛けてみた。

勇者に密かな恋心を抱いていても自分に自信が無くて、しかも大人しい性格のミューシアは何時もこんな感じだ。

っつーか、他の美女軍団が血の気が多過ぎるだけって言うか。

ミューシアが一般常識弁えてるだけって言うか。


「ゆ、勇者様の婚・・・約者と、あの姫君、が」

「あー・・・うん、有難うミューシア。ライ殺さない程度に好きにやっちゃって良いよ。殺気だってるの全部。って言うか動けない程度に伸しちゃってー」

「ハヤトとあの娘は」

「私が責任持って保護するよ、後あんまり街の方に被害出さないでね」


行ってらっしゃいと、ライの肩を叩いて送り出す。

何が良いか今一解らないから取り敢えず二人をこっちに《召喚》ミューシアと、勇人君、女子高生の姿を確認してから《防護壁半円展開》で良いかな・・・

ああ、後余計なのが入って来れない様に《個体認識》も。

突然立って居た場所が変わったからか、私が今まで面倒くさくて隠してた本領発揮したからかは解らないけど目を丸くして私を見る家の勇者サマ勇人はやと君と向こうの姫サマらしい女子高生に私はへらりと笑って見せる。


「コレどういう事?って、ああ。初めまして、私はユウ・ネイル。魔法使いであれの嫁」


あれ、と女だろうが一時の仲間であろうが(ああ、これ一緒か)兎も角馬鹿な私怨で殺気立ってた美男美女に容赦なく拳と足を叩き込んでいる金髪を顎で示せば女子高生はどこか溜飲が下がる様なスッキリとした表情で微笑んだ。

うん、この子結構体育会系なのかもね。


「有難う御座います。私は鈴木香奈って言います。あ、こっち風ではカナ・スズキ」

「ああ、有難う。でも大丈夫」


ちょっと笑って香奈ちゃんにそう言えば、家の勇者である勇人君がああ。と頷いた。


「ユウさん俺の一団のメンバーで常識人の一人なんだ。それに、今は暴れてるけどライさんとこの子。治癒士のミューシアも。って言うかこっちの常識人これだけ」

「三人も居るの?!羨ましい!こっちゼロだよ!ゼロ!あたしの方はさぁ、半年前に旅に出たのにまだ馬車で三ヶ月でこれる場所に居るんだよ!?ほんっと有り得なくない!?」


あ、じゃあ俺とそんなに変わらないでこっち来たんだ。

とか言う、勇人君の目は明らかに香奈ちゃんを哀れんでいた。


「魔王退治の為の準備期間なのに意味無いって言うか!あたし前衛のはずなのにまだ一回も戦闘に出してもらってないし!」

「こっちはその逆だよ、ちょっとした怪我で抱きついてきたりワザと手ぇ抜いて何も無いところで転んでみたりさぁ。馬鹿なの?死ぬの?ってマジで怒鳴り散らしたい。しかも仲間同士で闇討ちしたりフルボッコしたりさぁあああ!!もうアイツらマジいらね!」

「解る!イケメンが何ぼのもんだっつーの!そりゃ最初は優しくされて嬉しかったけど、あたしだって女の子だし!だけど必要以上に纏わり着かれるとウザイし、仲間内で騒いでるだけで先に進まないし、どうでも良いことで巫女様巫女様!過保護も過ぎるとイライラする!」


久し振りに会って安心したのか、愚痴大会を始めた勇人君と香奈ちゃんの愚痴は素晴らしく解りやすかった。

見てるこっちも苛々してたそれは当事者達からすれば爆発的な苛立ちだったらしい。

勇人君は爆発する寸前に私達が一行入りして多少の愚痴を吐き出せてたらしいが、香奈ちゃんの方は酷かった。

イケメン嫌い!アイツらイラネ!を連呼してる状態だったって事は本当に爆発寸前だったんだろうね。

私達が合流する前も、庇おうとするイケメンに対してこれ見よがしに嫌そうな顔してたし。


「って言うか私もっと実戦の勉強したい訳よ!習ってた空手が何処まで通用するかとか!スキルアップのチャンスなのにアイツらさぁああああもー嫌!って言うか、魔王討伐あたし等だけで行かない!?ここでアイツら置いてこうよ!」

「解る!良いなそれ!っつーか何なんだよアイツらさぁ!幼馴染だっつってんのに婚約者とか勝手に勘違いしやがって!耳と頭沸いてんじゃねぇの!?確かに香奈は大事だって思ったし久し振りに会ったら好きだったんだなとか思っ・・・」


はい自爆ー・・・甘酸っペー。

香奈ちゃんも勇人君も真っ赤ですよ。あたしも、とか香奈ちゃん頷いちゃってるよ。

可愛らしいカップルが異世界で成立して、ミューシアが失恋で涙目になってるけど。

そろそろ潮時かな?


「はいはい、両思いおめでとう。ところでそろそろネタ晴らしって言うかまあ、アレ何とかしたいんだけど良いかなー?」


良いともーと真っ赤なまま声を揃えた勇人君と香奈ちゃんに、うんノリが良いと一つ頷いた私はライが不満そうに腕を組んでいる結界の向こう側を指差した。

ああ、暴れたりなかったのか。

あっちはあっちで勇人君と香奈ちゃんの愚痴が聞こえて戦意喪失したのかな?


「この防護壁、ご多分に漏れず音も声も筒抜けなんだよね。向こうに」

「「え?」」


淡い緑色に発光する薄い半円形の防護壁の向こう側に目を向けた勇人君と香奈ちゃんは、あちら側でボロボロになりながらもそれとは違う理由で青褪めて二人を凝視する美男美女の一団を初めて目に入れた。


「そんな・・・」「巫女さ、ま」「ハヤトさまぁ」とかまぁ擦れた声で呟く美男美女達は血の気の引いた蒼白な顔色で、ゾンビの様にこちらに向けて這って進んでいる。

話を合わせただけだとか、嘘だとか、まあそんな感じで美男美女だろうが、結構キモイ。

ああ、あれだ。容姿が良いのにストーカーって感じか。引くわー全力で引くわー。


「「うっわぁ・・・引くわ」」


思わずといった風に二人の声が同時に零れた。

結構小さい呟きだったけど、その場が静まり返っている所為かやけに響いた。

手を繋いだまま本当に嫌そうに顔を引き攣らせた二人の言葉に美男美女軍団はその場に崩れ落ちた・・・けどまぁ良いか。


「『私の本名、烏丸遊ね。日本人。その制服タツ高のでしょ?結構地元。私、黒大の文学部に通ってたんだ。』ところで良かったら私とライの家がある国来る?そこらに転がってる美人ゾンビは追いかけて来れないって言うかまあ、結構遠方にある隠れ里的なとこで、ここら辺よりは結構平和な国だし、帰る為の魔法ももしかしたら近くの国にあるかもしれないんだけど」


日本語で早口に語った私の言葉に勇人君と香奈ちゃんが一瞬唖然として、その後語ったこの世界の言葉に目を丸くした。


「ミューシアも良かったら来る?同盟組んでる国が治癒系統に強くて研究とかも進んでるらしいんだ。ただの観光旅行だったのに私達巻き込まれたじゃない?だからキリの良い処で帰ろうって話してたんだけど。ちょうど良いから大切な物だけ持って君達も来れば?ってお誘いなんだけど」

「『もし・・・ユウ達の様に帰れなくても仕事はあるし、基本的に俺達は種族が違うとか気にしないしな』」


帰ることを仄めかした辺りから此方に寄って来たライが、結界の中に入ってから暇潰しで覚えた日本語で勇人君と香奈ちゃんにフォローを入れた。

あーごめんね、フォロー忘れてた。

目でライに謝罪を入れた私と呆れた様に私を見たライは勇人君、香奈ちゃん、ミューシアの反応を窺った。

日本人の二人は同行者達から逃げたいらしいし、勇人君に関してはツッコミどころ満載な勇者の仕事に嫌気が差していたみたいだから話しに乗るだろうけどミューシアはどうだろう。

自分に自信が持てない子ではあるけれど、研究職とか人を助ける仕事とか好きみたいだったし。


「「どうする?」」

「「行きます!」」


私とライが訊ねれば、日本人二人は即答した。

何処か困った様なミューシアは大体ライの正体に気付いてるんだろう。

ちょっと前からそれっぽい事を聞かれた事もあるし。


「・・・危なくは、無いんですよね?ユウさん私でも大丈夫なんですよ、ね?」

「うん、保障する。嘘だったら私に何しても良いよ殴っても良いし罵倒しても良い。その上で私はミューシアの国まで送る。私達の国が気に入らなくても、他の国が気に入らなくてもちゃんとこっちに送り届ける。約束する」


技術を持って帰ってきても良いよ。と、私が笑えばミューシアは少しだけ下を向いてから心を決めた顔を私に向けた。


「行き、ますっ!」

「じゃあ、決定。忘れ物がなかったら今すぐ行きたいなー。ゾンビが復活する前に」


ニヤリと笑った私に対してライが溜め息を吐いた様だけど気にしない。

三人が三人とも大丈夫だと頷いてくれたのでもう思い残す事は無い。

解ってるライはほっといて、三人に私の近くに寄るように指示をしてから頭の中で魔法を組み立てる。

それじゃあ最後にぶっちゃけますか!


「今まで何されるか解らなくて言わなかったけど、私とライ、別に夫婦でも婚約者でも恋人でもないただの腐れ縁なんだよね。それじゃー皆さんさようなら」

「「ええええ!!」」


ひらりと手を振って西大陸の町を後にする前、勇人君達の驚愕の声に混ざって不機嫌な低い声が聞こえた気がする。

ちゃんとは聞こえなかったけど、後で聞き返すのも何か嫌な予感がするから無視しておこう。


ただの腐れ縁でここまで付き合うか・・・何て、私は聞こえてないからな!



  >> ハーレム勇者と逆ハー巫女。



そんな事があって、数年。

こっちの世界に来てから、私の故郷になった火の国・ジルコーディア王国で勇人君と香奈ちゃんは今でも元気に暮らしている。

帰ることはまだ諦めて無いみたいだけど、あと二年経っても帰る手段が見つからなかったら結婚するんだって。

ああ、後治癒士のミューシアは、例の医療大国で元気に働いている。

その国で出来た恋人に最近プロポーズされたらしく、結婚式には是非来てください!

何て、可愛らしい文字が手紙に踊っていた。


私?私はー・・・

まあ、ご想像にお任せします。



  >> ハーレム勇者と逆ハー巫女。と、火の国の魔法使い。



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