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魔王、帰宅

 ネロがミサトさんの診療所に泊まってから早くも一週間が経ってしまった。部屋も散らかりっぱなし。片付ける気すら起きない。


 たった一日のうちのちょっとしか一緒にいなかったのに、ネロがいないだけでものすごい虚無感に襲われていた。


 たった少しだけだったのに・・・・あの笑顔がもう俺には忘れられない大切なものリストへと加わっていた。これ以上、あいつの笑顔を壊したくない。だったら俺が細心の注意を払うしかない。椿のようにならないためにも。


 それでも今日は平日、学校に行かなければいけない日。気が乗らないけど行くしかないかな・・・いつもならネロが「早くいこ!」って言ってくれるんだけどな・・・体に鞭打っていくしかないか・・・


 すると、インターホンのチャイムの音がする。ネガティブな気持ちは抑えて、しかしながらグッタリした感じで玄関へ向かう。


 「はいはい、なんですか~?」


 気持ちのこもっていない返事をする。


 「や、倉田!元気だった?」


 聞き覚えのある声、透き通るような、俺の気持ちを癒してくれる声。魔界から来たお世話な美少女の声。俺はその声を聞いた瞬間、目を丸くしながら顔をあげる。

 見慣れたような、そうでないような、でも確かに俺の見知った顔の『そいつ』は俺の目の前にいる。


 「ネロ!」

 「ただいま!倉田!ちゃーはん、食べさせて!」


 少しゲッソリした感じだけど、元気そうでよかった。そう考えた刹那、俺の頬を雫が伝う。今月は泣いてばっかだな俺。でも、いいんだ。流していいんだよな・・・


 「ちょ、ちょっと倉田!なんで泣いてるの?私悪いことした?何もしてないよね?なんで泣いてるの?ねぇねぇ!」

 「はは、すまん。いいんだ。気にしないでくれ、俺が勝手に泣いてるだけなんだ」

 「?」

 

 頭の上に疑問符を浮かべるネロ。そりゃそうだよな。


 「とりあえず、中入れよ。すまんな。散らかってて・・・・っと」


 ネロを誘い入れようとすると床に置いてあった荷物に脚を取られてしまった。ちゃんと片付けるべきだったのかもしれない。

 

 ・・・いや、このあと起きるイベント的には片付けないほうが正解だったのかもしれない。


 詳しく説明すると、俺はネロを中に入れようと玄関口に向かう、床にあったダンボールに脚を取られ転ぶ形に。ちなみにこれは玄関ギリギリにおいてあったので、転べば玄関口にいる人に倒れ込む形になる。


 もうここまで言えばわかるだろ?


 そうだよ、ネロに倒れ込む形になったんだよ。あの出るところはでてしまるところはしまってて、グラビアモデル顔負けのスタイルの持ち主、10人みれば全員が振り返るほどの美人に俺は倒れ込む形になったんだ。


 はいエロゲ的展開ありがとうございました。顔と顔はそりゃもう唇が届きそうなほどの近くにあります。しかも左手はネロの胸に。


 「ご、ゴゴゴゴゴゴゴゴメン!今どくから!」


 しかしあまりの状態にパニックで体が言うことを効かない。動け!動けよ俺の脚!この状況、ご近所さんに見られでもしたら『ガチャ』


 ・・・・・・・・・・ガチャ?


 一番聞いちゃいけない音を聞いた気がした。ならその音のする方向を向こうか。首を右に90度回転!すると、目の前には近所の若妻さんがいた。愕然としていた。口をアングリ開けていた。


 「待ってください!待って!お願いだから部屋の中に駆け込まないで!俺の話を聞いてぇぇぇぇえええええ!」


 もういやだ・・・!俺の守っていた『世間体では頭のいい運動のできるいい子』・・・!


 いや自分で世間体っていうのもなんだが、だが守っておきたかった・・・!


 そして俺は手に力を入れる。それはもうグワッと


 「あんっ!」


 そんな声が聞こえた。あん?庵?案?なんだ?あんって。

 

 疑問に思いつつも今度はゆっくりと、優しい手つきで(なんかエロい)右手に力を入れる。ちなみに俺は放心状態のため何がどうなっているのかわからない。


 「あっ!はぁ・・・」

 

 なんか喘いでる気がしないでもないんだけど・・・ん?喘ぐ?


 そして今度は揉みしだくように手に力を入れる。


 「あ・・・倉田・・・・強いよ、もっと優しくして・・・」

 「ごめんなさい」


 今の俺の反応速度は某週間少年雑誌に連載していた40ヤードを4秒2で駆け抜ける、某アメフト漫画に出てくる、パーマをかけた自己中野郎よりも早い速度だったはず。


 「本当にごめんなさい申し訳ありません不可抗力だったんです許してください」


 もう平謝りでもなんでもいい。プライドなんか知ったことか。殺されなければいい。土下座でもなんでもしてやるさ。


 「もういいよ。倉田だし。それに、遅かれ早かれ・・・ね?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 俺今顔めっちゃ赤いだろうなぁ。たぶんゆでダコより赤いだろうなぁ。耳まで真っ赤だろうなぁ・・・


 それにしても何か重要なことを忘れてないか・・・?今日は何曜日だ・・・平日の月曜?


 「がっこおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 「ふえぇ!?何?どうしたの!?」


 着替えなくちゃ!飯も食って歯磨いて顔も洗って・・・今何時!?あぁ!?6時だと!?今から料理してても間に合わん!インスタントですます!


 「ネロ!!お前は病み上がりだ。今日は休んでろ。俺一人で行ってくる」

 「ええ~。私も行きたいよ~」

 「我が儘言うんじゃありません。その代わり、今日一日はお前の相手してやるから」

 「本当!?じゃあ私は家でゆっくりしてるね!」


 早く!早く準備をしなければ!


 今何時!?そうねだいたいね!いや言ってる場合じゃねぇぇええ!


 時計の針は8時20分を指している。俺は歩くと10分くらいのところを激走中。ぶっちゃけ苦しい、走るのもう嫌。でも遅刻はしたくない!


 もし遅刻して先生に理由を聞かれたら俺はなんて言い訳しようか・・・


 『ん?倉田、珍しいな。遅刻か。どうして遅刻したんだ?』


 『実はですね、ネロと玄関で倒れ込んで胸を触ってたら放心状態になってしまって(ry』


 非常にまずい。そんなことを言ったら熱血独身男性34歳のうちの担任がブチ切れた上にクラス全体の反感を買ったあと、女子全員から『変態』というレッテルを貼られた挙句に距離を置かれることになる。


 そんなことになったら俺はもう人生終わったのも同じ。なんとしても回避せねば。


 遅刻の言い訳を考えつつも通学路を猛ダッシュ。現在時刻8時25分。すでに学校の目の前。間に合うんじゃないか!?いけるんじゃないかね!?


 靴をすぐに履き替え乱雑に下駄箱へ。そして廊下をダッシュ。階段を二段ジャンプで飛び越え目的の階へ。発見!熱血教師!まだ教室には入っていない!


 そして、熱血教師が手をかけようとした瞬間、俺は声を張り上げた。


 「待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!」


 と同時に教室の前で急停止、そして教室内へ入る。それと同じタイミングでチャイムが鳴り響く。ギ、ギリギリセーフ・・・・


 「倉田遅刻・・・と」

 「遅刻してないですから!ギリギリですから!貴方には今まで長い間付き合った生徒への情はないんですか!」

 「何を言っている。私はお前と同じクラスになって少ししか経っとらんわ。まぁいい。今回は特別だぞ」

 「あ、ありがとうございます・・・」


 よかった・・・よかったよ。だってあんなに走ったんだぞ。なのに遅刻なんてことになったら俺もうグレるぞ。たった一回の遅刻で。


 


 そんな焦った一日も時間が経って昼休み。俺は弁当を食べよう・・・と思ったら弁当忘れてたことを忘れてた・・・・しかたねぇ、購買行くか。


 相変わらず・・・購買混んでんなぁ。暑苦しいったらありゃしねぇ。


 「おばちゃん、これとこれな。」

 「はいよ」


 ここの購買はいつも俺助けられてるんだよねぇ。安価でしかも美味い。どこのカップラーメンだっての。

 今日は「おばちゃんのやけくそ!焼きそばパン!」というのと「メロンメロンにしてあげる(はぁと)メロンパン」と書いてあるパンをとった。

 一個100円という安さは確かに感謝しているが・・・・このネーミングセンスはどうなのだろうか。 メロンメロンにしてあげるって・・・・確か袋から何から手作りだったよなこの学校の購買は。

 てことはあのおばちゃんが考えてるってことだろ?あのおばちゃんが「メロンメロンにしてあげる」・・・・・吐き気しかしてこねぇ

 こんなこと考えてると飯が不味くなる。早く忘れて食っちまおう。



 日を同じくして時は下校時間。部活もとくにやっていないので早く帰って休もう。ネロにも早く会いたいし。

 

 「ただいま~」

 「おかえり!倉田!」


 うんうん、今日もいい笑顔をありがとう。それが俺の元気の源です。


 「よし、まずは飯にするか!何がいい?今日はネロの好きなものにしようか」

 

 といってもチャーハンしかあげたことないけどな。


 「私ねぇ、はんばーぐっていうのが食べてみたい!」

 「ハンバーグか、よし!作ってやろうじゃないか!」

 「わーい!はんばーぐぅ!」


 早速調理に取り掛かろうか。まずはひき肉と玉葱と塩と胡椒と・・・あとなんだっけ?まぁいいや。ハンバーグかぁ・・・いつ以来だろうな。ハンバーグを食べるなんて。

 

 俺が小さい頃、ようするに母さんがいた頃、俺は母さんの作るハンバーグが大好きだった。どこの家にも負けない、すげぇ美味いハンバーグで毎日食べても飽きないんじゃないかってくらい美味かった、のを覚えている。

 少しでかくなって、母さんの料理を手伝うようになった。その時に聞いた、隠し味。それは作って食べてもらう人への愛情だったという。

 あの時は臭い話だなって思ってたけど、今思うとあながち間違いではないのかもしれない。作って、誰かに食べてもらって、おいしいと言ってもらえる気持ちを、俺はこの前理解した。たぶん、そういうことだ。

 おいしいと言ってもらえたら嬉しいし、また作ってあげたくなる。それがたとえ、どんな人だろうとも。


 「っと、そろそろいい頃合かな」


 たしかあの時、焼くときのコツも教えてもらったな。強火で焼くと表面だけ焼けて中まで火が通らなくて焦げちゃうから、弱火でじっくり焼くとか。


 「お、いいんじゃないですかねこれは。おお~い。そろそろ出来るぞ~、アニメばっか見てないで俺の手伝いでもしてくれないか?」

 「は~い」


 ハンバーグができそうなので、皿を出してもらおうとネロを呼ぶ。

 最近、あいつはアニメにハマりだした。影響は俺がこの前見せた漫画。アニメの原作になっているものである。

 すごく面白い!というのでアニメのほうを見せたら、これすごいねぇ!絵が動いてるよ!と感動して、それ以来だ。

 今となってはいろんなジャンルのアニメに手をだし見ている。

 最近のお気に入りは、『Fate/Ze〇』らしい。作画といい声優といい、神アニメ!ということらしい。

 ・・・・お?なんだその目は。俺は別にオタクを迫害するつもりはない。趣味を持つことは素晴らしいことだ、それがどんなものであろうとも。趣味を持たない屁理屈ばかりこねる輩よか、よっぽどマシな人生を送れるだろう。


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