第三話 双葉葛 荷車
ここからは国外追放された双葉がメインで進みます。
第三話 双葉葛
第一章 荷車
幌付きの荷車だった。
荷台に放り込まれ、手首に細い鎖。固定はされていないが、降りようとすれば御者台の兵士が気づく程度の長さだった。
双葉は荷台の板に背を預けて、膝を立てた。
城を出る時、久瀬の顔は見なかった。
見る必要がなかった。あの表情は想像できた。困ったような、申し訳なさそうな、それでいて何かを言おうとして言えない顔。中学の頃から変わっていない。
双葉は目を閉じた。
幌の隙間から光が差している。昼だった。王都からどの方角に向かっているかも、教えてもらっていない。
輸送前の兵士の会話を思い出す。
「……本当に迷宮都市連盟に送るのか」
「命令だ。王国の手の届かない場所に捨てれば文句はないだろ」
「あの年で一人か。死なないか?」
「知らん。不良品だ。王も口出ししてこないだろ」
死なないか、という心配を、他人にされるのは久しぶりだった。
別に、嬉しくもなかった。
ただ、情報として処理した。迷宮都市連盟。冒険者が一番多く、実力主義。富、名声、権力——城の図書室で読んだ資料の文字が頭に浮かぶ。することがなかったので読み漁っていた。
悪くない行き先だった。
むしろ王国に残るより、面白い。
双葉はそう結論づけた。
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馬車は昼頃から走り続け、揺れが変わったのは夕方だった。
石畳から土道に変わった。森の中らしく、木漏れ日が幌に揺れている。
その時、荷車が止まった。
御者台で声がした。
「……何だ、お前」
返答はなかった。
代わりに、ぐしゃ、という鈍い音がした。
荷台の扉が開いた。
立っていたのは、ローブを着た男だった。三十代くらい。目が笑っていない。
「王国の護送車か。にしては装飾品がないな」
男は双葉を見た。
「子供か」
「そう見える?」
「……手首の鎖、罪人護送だな」
「国外追放らしい」
「何をした」
「スキルが気に入らなかったみたいで」
男は少し眉を動かした。
「スキルで追放?」
「愚者っていうスキル。詳細不明で制御できないから要らないって」
男は双葉をしばらく見た。値踏みするような目だった。双葉はその視線を受け止めた。逸らす理由がなかった。
「どこに向かう予定だった」
「迷宮都市連盟」
「なら、連れて行ってやる」
「なんで」
「俺もそこに帰るからだよ」
少し間があった。
「勘違いするなよ。助けじゃない。暇つぶしだ」
双葉「...」
俺のどこかに同情でもしたのだろうか。
この男に何も利益はない。
双葉は少し考えた。
この男と行けば、鎖は外れる。ただし素性がわからない。
「鎖、外せる?」
男は懐から鍵を取り出した。御者台の兵士から抜いたものだった。
「……手際いいね」
「慣れてる」
双葉は荷台から降りた。
手首の鎖が外れた瞬間、久瀬のことを少し考えた。
今頃、王国で何をしているだろう。
それだけ考えて、双葉は男の後ろを歩き始めた。
「名前は」
「双葉。双葉葛」
「変わった名前だな」
「遠い国の出身なんで」
「……ヴァルク・レイン。好きに呼べ」
「ヴァルクさん」
「さん付けは要らない」
「じゃあヴァルク」
森の中を歩いた。夕日が木の間から差していた。
双葉はその光を見た。
綺麗かどうか、わからなかった。ただ、明るかった。
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