薔薇の咲く庭
掲載日:2026/03/20
今日も彼の庭に来た。
「いや〜今日も綺麗ですね。」
「ほんと!水やり大変でしょ?綺麗な白薔薇〜」
「いえ、貴女が」
「もう!」
「痛い〜殴らないでくださいよ〜」
軽く叩くと、大げさに痛がって笑う。
そんなやり取りが、少し好きだった。
こんな日常が、
いつまでも続くのだと思っていた。
——その日までは。
最後に見たニュースは、
テレビから流れる遠い国の爆音だった。
遠い話だと思っていたのに。
どんどんみんなの余裕がなくなっていく。
スーパーの棚から日に日に日常品が、減っていった。
いつもの日常、彼の庭に行く約束をしてた。
彼の家に行くのが少し楽しみなのが恨めしい。
何かが弾けたような音がした。
乾いた音。
「危ない!」
彼は私に覆い被さった。
「逃げてよ!私なんか!」
私がいつも軽く殴っただけで、
身を捩って逃げながら笑っていた人だとは思えないほど
拳が痛くなるぐらい、何度殴っても、
動こうとしなかった。
「…ねぇ、僕が好きだって言ったら困ります?」
彼は、きっと返事を聞けなかった。
花束が、落ちている。
赤く染まった見慣れた花。
彼の手が、冷たい。




