番外編 ノア
よろしくお願いします
爽やか青年のサミュエル相手にノアをにどう闘わせるかがサラの課題になった。向こうはデートの手腕が高く仕事も出来る。幸い時間はまだある。焦らないことにしたが壁は高いなと大きく息を吐いた。
お茶会への誘いは領地にいても来る。付き従うのはサラとサミュエルかノアだった。ノアは剣の腕も上がり所作が美しくなって立っているだけなのに、いらぬ秋波を送ってくる御婦人が多かった。つけ文も多い。なるべくサミュエルに頼むようにしたがそれでもノアは狙われた。
「仕事中だというのに愛人にどうかなんて低俗なことを言ってきたり手紙を押しつけて来るなんて、美麗な顔も苦労するわね」
棘のある視線はサラにまで向けられた。何故だ、同僚ぞ。
「サラさんにも迷惑をかけてしまい申し訳ありません。ですがウイリアムズ伯爵家ではそういう目で見てくる人がいなくて助かっています。あの時助けて貰わなかったら死んでいましたしこの命をかけて尽くすつもりでいます」
「ですってお嬢様」
「えっ!お嬢様…?いつの間に」
「世の中には恥知らずが多いのね。我が家の者だと知らしめても不埒な真似をするのね。地位で叩くしかないのかしら」
「それが…高位貴族の奥方や令嬢、中には男性までおられまして……」
言いにくそうにノアが返した。
「まあ、なんてこと。もらっている手紙を全部見せなさい。良いわね。
家から抗議の手紙を出すわ。ノア名前は分かるわよね。帰ってお父様に手紙を書くわ。ブラウンにも相談する。もう帰りましょう。こんな目に遭っていたなんて気がつかなくてごめんなさい」
お嬢様が怒っている。ご自分の婚約破棄でさえ怒られなかったのに部下のためには怒ってくださる人なのだなあと、サラはまたまたお嬢様が大好きになったのだった。
自分のために怒ってくれる人を見てノアは耐えるだけだった自分を反省した。もう昔の自分を引きずるのは止めようと思った。
ブラウンやサミュエルに聞いて対処をするのだった。お嬢様がこんなに憤ってくださっている。もっと強く立ち回れるようになりたいと願った。
横で見ていたサラは貴族社会の身分差をよくわかっていたので、ノアが何も出来なくても仕方がないと思っていた。世の中はままならないものだ。地位さえあれば……。
「さあもう帰りましょう。主催の夫人にはご挨拶は済んでいるから。これからの対策を考えないとね」
「はい、お嬢様」いい顔になったサラが返事をした。
屋敷に帰ったサラはお嬢様の着替えの手伝いをしながら思っていたことを話した。
「えっノアを選ぶの?」
「そうでございます。お嬢様さえ良ければでございますが。
旦那様もどちらを選んでも良いと仰せでしたよね?ドアマットヒーローを救うヒロインになるのですよ。お嬢様。ノアに地位を与えてあげてください。これであの実家との縁も切れますし、いかがでしょうか」
「ドアマットヒーローって何?恋愛小説の言葉なの?サラって変な言葉を知ってるわねえ。確かに結婚すると次期伯爵の婿になるわね。地位が高くなるからあの家に何も文句は言わせないわ。お父様に相談してみるわね」
ブラウンにも相談すると丁度あの家から息子を返して欲しいと手紙が来たという。図々しいにも程がある。
父に手紙で相談すると、揉め事が起きる前に親戚の侯爵家に養子に入ってもらうことにしたと返事が来た。形式的なものだから心配しなくていいとのことだった。
オリビアはノアと結婚しようと覚悟を決めた。これから家業の貿易について一緒に学んでいこう。語学は任せて欲しいがそちらの勉強はまた別だ。
ノアは養子の話を喜んだが実家が絡んでいると分かると遠慮をした。
「私なんかが侯爵家の養子になって良いのでしょうか?こちらにご迷惑がかかると思うのですが」
「そんなもの力でねじ伏せるわ。家も結構力があるのよ。任せておきなさい。
侯爵家はお茶会でノアを見かけたらしいわ。ご婦人方の秋波に靡かないところが気に入ったのですって」
「赤の他人の私の為にここまでしてくださりどうやってご恩を返せばいいのか分かりません。ありがとうございます。死ぬまでに返せたら良いのですが」
「他人ではないわ、これから家族になるのよ。ノア、私のお婿さんになりたいんでしょう?侯爵令息ならどこからも不満が出ないわ」
「えっ婚約をしてくださるのですか。サミュエルさんではなく私で良いのですか?」
ノアがぱあっと顔を輝かせた。
「あら、辞退するの?一緒に貿易の勉強をしようかと思っていたのに」
「辞退はしたくありませんし、オリビア様のことをお慕いしております。一緒に新しいことを学ぶなんて楽しみでしかありません。きっとお役に立ってみせます」
「ええ、ノアってかなり頭が良さそうだから期待してるわね。それに領主補佐の仕事もあるし大変だけど頑張りましょうね」
「頭が良いと思われますか?」
「ええ、執事の仕事も直ぐに覚えたし、飲み込みが早いとブラウンに言われたでしょう。自信を持って」
「育ちのせいか自信がないのです。でも隣に立つために精一杯頑張らせてください」
「家に来てからどれだけの事を学んだか分かってないの?自信を持っていいのよ。一緒に頑張りましょうね」
そう言って笑ったオリビアの顔は女神のようで、とても眩しいものだった。




