一時の平穏
夢。それは、脳が記憶の整理の際に見せているものだと言われている。
だとしたら、先ほど見た夢は──俺に残っている記憶の一部だったのだろうか。
夢と現実の狭間で、ふと思う。
そういえば、あの後どうなったんだろう?
確か、転移魔法陣で上空に放り出されて……そこから、うまく覚えてない。
あの時見た空にあった、大きな魔法陣。覚えているのはそのくらいだ。
過去の状況から、今どうなっているのか推測する。
最悪のパターンとしては、あの追手たちに追いつかれて……
俺たちを殺しにくる追手。
そのことを考えた途端、俺は様々なことをネズミ式に思い出す。
『──後ろのやつから殺せ!』
爆発しそうなほど鼓動が早くなる。
最初に出てきたのはそんな言葉で、次に出てきたのは空気を切り裂くような発砲音。
そして……殺意を込めてこちらを見つめる、理不尽が──
──……
「──っ!!はっ、はぁ……」
体を大きく跳ねたのと同時に、目が覚めた。
過呼吸気味になっているようで、視界は薄ら暗く、心臓と肺は悲鳴をあげるように活動している。
汗で張り付いた衣服が気持ち悪い。さっきまで心地よく微睡んでいたのに、どうしてこんな最悪な目覚めかたをしてしまったのだろう。
時間をかけて、体を落ち着かせる。
やがて平静を取り戻した俺は、周りの状況を確認する。
二つあるうちの一つのベッドに寝かされてる……ここは誰かの部屋か?ということは無事に逃げ切れたのかな?
本音を言うと、助かるとは思っていなかった。だって、とんでもない高さまで飛んでしまったから。
……さっきの夢、なんだったっけ。もう忘れちゃったな。
「ただいまー……って。」
ドアの方から憂いに沈んだ声が聞こえて、俯いていた顔をそちらに向ける。
そこにいたのはアトレだった。彼女は俺の存在に気がつくと、持っていた荷物を放り出してこちらに駆け寄ってくる。
「おはよう?」
目を見開いてこちらを見つめる彼女に、なんて言っていいのかわからなくてとりあえず挨拶をする。
するとアトレは何も返答せず、俺の頬や頭を色々触ってくる。
しばらくすると満足したのか、大きくため息をついていった。
「っ、はぁあ……おはよう、無事に起きてくれてよかったよ。」
「……俺、どれくらい寝てたの?」
まるで死者が動いた時みたいな反応してたよな……そんなに俺、長く寝てたのか?
恐る恐る尋ねると、彼女はこう返してきた。
「うーんとね、二日くらいかな。ぐっすりだったよ。」
ふ、二日……あと一日遅かったら餓死してたんじゃないか?
そう考えたら、急にお腹が空いてきた気がする。
自分が空腹であることを自覚した途端、俺のお腹がぐーぐーなりだす。
「ご飯、食べる?」
「ウン……」
顔に熱が集まっていくのを感じる。やばい、ちょっと恥ずかしい。
アトレは手を差し出し、俺を立ち上がらせようとする。
その手を取って、床に足をつけた途端……
「へぶ!?」
体勢が崩れて勢いよく床に倒れてしまう。
「え!?け、怪我ない?だいじょうぶ?」
「だ、だいじょ……力入んない……」
力がうまく入らない……あの時は動けたよな?なんで?
すると、心配そうな顔をしたアトレが、何かに気がついたように苦い顔をする。
「あー……そういえば言い忘れてたんだけどね、わたし、今までずっとあなたに体を強化する魔法をかけてたんだよね。」
「体を強化する魔法?」
「うん、で、今のあなたは魔法をかけてない素の状態なの。」
まて、じゃあ俺の体力って今これだけしかないってことか?
……一体、どうやって生きていけっていうんだよ。
ちなみにこの後食事をしに向かったんだけど、その途中の階段で見事に転けて、俺はアトレに抱っこされながら食堂へ行くことになったのだった。




