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バッドエンドのその後で  作者: 高菜かな
序章 忌子の聖女と記憶喪失の少年
4/6

俺の力

……おかしい。

壊れた転移魔法陣を見て、違和感を覚える。

経年劣化や事故による破損では、こんなに綺麗な壊れ方はしないはずだ。

それに……この魔法陣にとって重要な記号ばかりが消されている。

たぶん、こんなことをしたのは俺たちを狙っている奴らだろう。それも魔法に詳しい、相当な腕前の魔術師のはずだ。


……ん?なんでこんなこと知ってるんだ?さっきまで魔法ってなんだよとか思ってたはずなのに。


不思議なことにこの魔法陣を見ると、断片的だが色々なことが思い浮かぶ。

自分が置かれた状況がよく理解できないが、確かにわかるのは……俺の記憶にもまだ奪われてない部分があったってことだな。


「ど、どうしよう、これじゃ……」


俺が転移魔法陣を眺めていると、アトレが弱々しい声でそう呟く。その後に続く言葉は俺でもわかる、『転移できない』だ。

だけど、一つ疑問が浮かぶ。


「なあ、直して使うっていうのは、できないのか?」

「直す……?」

「うん、右上のあの記号と、そのちょっとしたの記号が綺麗に消えてるだろ?あそこだけ書き直せば、また使えるんじゃないかって思うんだけど……」


あれ、でも今の俺ってほとんど覚えてることないんだよな。覚えてることも断片的だし。どうしよう、なんか変なこと言ったかな。

言い出したのは自分だが、不安になってくる。

俺の言葉を聞いたアトレは、少し考える素振りを見せた後、こう言った。


「……やってみよう。魔法の使い方、教えてあげる。」


アトレの反応が何を意味しているのかよくわからないが、とりあえず魔法陣を修理するという考えは彼女に受け入れられたようだ。

魔法陣を書くなら……まず、ペンの代わりになる杖とか出すべきか?

俺の中にある魔法のイメージを元に、魔法陣の書き方を考えてみる。自分の記憶が正確かどうかはわからないけど、今は不確かな情報でも縋りたいんだ。

今の俺は杖を持っているわけではない。だったらどうすればいいかな……

──!

杖を使う以外の方法を考え始めた時、俺の中から何かが飛び出してきそうな感覚がした。

理由はないが、"これ"が杖のような気がする。

俺は飛び出してきそうなそれに感覚を集中させて、杖を取り出そうとする。

すると、俺の目の前で光の粒子が集まって杖の形になった。


「……すごい、もう杖出せるんだ。」


アトレが感嘆の息を吐く。

それにしても無から杖が出てくるって……どうなってるんだよ、この世界の物理法則は。


「それで、どうすればいいんだ?」

「あっうん。えーと、ちょっとごめんね。」


首を傾げる俺に、アトレはそういって杖を握る俺の手に上から自身の手を被せてきた。

その瞬間、俺の周りに光の粒子が飛び始める。

光はさまざまな色をしていて、まるでイルミネーションみたいだ。

そして不思議なことに、この光る粒子を、俺は手に取るように動かせる。


「今あなたが動かしてるのが、魔法の元である"魔素"。それをギュッて集めて、糸みたいにしてみて。」


光の粒子をグルグル動かしていた俺に、彼女が教えてくれる。

なるほど、魔法の元……これを糸にするのか。

俺は紡績の過程を思い浮かべて、小さな魔素を一本の糸にしていく。

10秒ほどかかったが、何とか綺麗で丈夫そうな糸ができた。


「これをあそこに繋げて、修理すればいいんだな。」

「……うん、多分そうだと思う。」


糸を使って、俺は魔法陣を修理し始めようとする──その時だった。

勢いよく鉄が叩きつけられる音が聞こえる。それと同時に、複数人の足音が聞こえてきた……きっと、俺たちを追ってきた奴らだ。


「っ!アトレ、すぐそこに奴らが来てる!」


どうしよう、隠れればいいのか?でもここ隠れられるような場所ないよな!?

どうすればいいのかわからなくって、助けを求めるようにアトレを見つめる。

彼女は真剣な顔で少し考えた後、微笑む。


「大丈夫。わたしがなんとかする。だからあなたは魔法陣の修復に集中して。」


言い終わると、彼女は先ほど俺がしたように無から杖を取り出す。

そして、淡く虹色に輝く薄い壁を作り出した。

それと同時に、敵の姿が見える。

……失敗はできない。はやくしないと!

焦る気持ちを落ち着かせながら、俺は慎重に魔方陣を修復していく。


「……できた!アトレ、速くこっちに!」


完成した魔方陣にぬけがないか確認して、アトレを呼ぶ。

俺の言葉を聞いた彼女はがこちらへ駆け出す。

これできっと助かる。そう思っていたが、彼女が動くと同時に俺たちを敵の攻撃から守った薄い壁がはじけ飛ぶ。


「壊れた、打て!」

「アトレ!!」


アトレの腕をつかんで、魔法陣の中に引きずり込む。

起動した魔法陣は、あと少し時間があれば作動しそうだ。

だけど、その前に銃弾がこちらに向かってくるだろう。

生きるか死ぬかの瀬戸際の中、時間がゆっくりと流れているように錯覚する。

……大丈夫。まだ、相手は引き金を引いていない。

魔素を一気に相手にぶつければ、もしかしたら少しは時間を稼げるんじゃないか。

俺は目の前の敵に杖を向けて、勢い良く魔素をぶつける。


「こっち……くんな!」


俺が放った魔素は、銃弾だって吹き飛ばせそうなほど強い風になって向こうへ飛んでいく。

やがて敵が空中に浮いた姿が見えると、俺の視界から敵が消えた。

見えるのは満天の星空と、空に浮かぶ大きな魔法陣。

そしてはるか下に……森と地面。

……もしかしなくても、俺今飛んでる?

どうやらさっきはなった風が、俺たちまで吹き飛ばしてしまったみたいだ。


「へ、と、飛んで……」


アトレも事態を飲み込めず、愕然としている。

それにしても……あの魔法陣。見覚えがあるような。

夜空に手を伸ばしながら、そう思う。


「ひゃぁああああ!お、おちる!」


体に、心地よい眠気が襲ってくる。視界がだんだん狭まって言って、何も考えられなくなるのを感じた。


「へ!?ちょ、ちょっと寝ないで!死んじゃうよーーー!」


意識が落ちる寸前に聞こえたのは慌てたアトレの甲高い悲鳴だった。


まだ何もかもが謎ですが、この魔法陣の修復をきっかけに主人公の能力がどんどん開花していきます。

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