喪失と邂逅
粗いやすりで脳内を削り取られているような痛みに襲われて、意識が浮上する。
そこは恐ろしく寒い場所のようで、全身から血の気が引くように暖かさがなくなっていくのを感じる。
痛い、怖い、なんだよこれ……俺、死ぬのか?
俺は一体どこに来てしまったんだろう。記憶を必死に探る。
しかし、どこを探してもこの場所に関することを思い出せなかった。
……いや、それだけじゃないな。
俺は、自分の名前や性格、過去の出来事……全てを忘れてしまったみたいだ。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。そして、これからどうすればいいんだろう。
全く見当もつかない疑問を浮かべては、どうしようもならないことに絶望する。
俺って、誰なんだろう。家族はいたのかな?友達は?
なんだか、ひとりぼっちで痛みに耐えているのが悲しくなってきた。
寒くて、痛くて、寂しい。誰か、誰でもいいから……そばにきて。
「……じょう……」
……人の声?本当に助けが来たのか?
痛みで聞こえてくる音なんて気にしていなかったが、俺へ呼びかける声が聞こえてくることに気づく。
「……だいじょ……ねが」
寒さと痛みで感覚が鈍ってしまった手足に、そっと温かいものが触れる。声の主が、手でも握ってくれているのだろうか。
誰かがそばに寄り添ってくれている。それを知覚した途端に、心なしか苦痛が和らいでいくような気がした。
……辛いはずなのに、なぜだか嬉しくてたまらないな。
最初は死んじゃうんじゃないかって思っていたのに、この温かさを思うと……何だか、大丈夫な気がしてくる。
ずっと曖昧だった意識がはっきりしていくのを感じる。
俺はその感覚に身を任せて、目を覚ました。
──……
次に感じたのは、むせかえるほどの煙の臭いとさび付いた鉄のような臭い、じんわりと肌にダメージを与えていくような熱気だった。
さっきまでの苦痛はすっかり消えていて、まるで違う場所に飛ばされてしまったみたいだ。
徐に瞼を開き、周りを見る。
そこには……炎に照らされて虹色にきらめく、不思議な白髪をなびかせた少女がいた。
俺たちの周辺には炎と煙が立ち込めており、一目で火災が起きているとわかった。ここは……誰かの家みたいだな。半壊したベッドが見える。
少女は俺を見つめて眉尻を下げている。黄金色の瞳が伏せられ、不安気な表情だ。
見たところ10代前半といったところだろうか。こんなに小さな女の子が、俺を助けに……
「よかったぁ……痛いところ、もうない?大体は治療できたと思うんだけど……」
少女の幻想的な見た目に見とれていると、突然彼女は距離を詰めてくる。反射的に体が跳ね、距離を放そうと身を引いた。
少女は俺の状態を確認するように、首や額を触ってくる。
なんだか、居心地が悪い。こう……変にドキドキする。
「う、うん。大丈夫だ。」
軽く咳払いをして、少女の手をどける。
……声の出方に違和感がある。俺は自分の声すら忘れてしまったのかな。
俺の声は考えていたよりずっと幼く、高い声だった……俺も子供ってことなのかな。
少女は俺の返事を聞いて安堵の笑みを浮かべ、息をつく。
「そっかぁ、ならよかった。とりあえず、ここから出ようか──そうだ、わたしはアトレ。あなたが記憶を失う直前、一緒に行動してたんだよ。っていってもあなたのことは何も知らないんだけどね。」
少女──アトレは、変わらず笑顔のまま俺に手を差し伸べる。
それがなんだか……異質だった。
火事で絶体絶命の中で、焦りも恐怖も表に出さずに、平然と笑っている少女。
異質で、異常な、天使のような白髪を持つ少女。
──どうして、君は。
考えていることも、感じていることもわからない。そんな彼女を、俺は知りたいと。心のどこかでそう思ったんだ。
俺は彼女の手を取り、立ち上がる。そして、彼女の先導に従って歩き始めた。
──これが、長い長い旅で一緒になるパートナー、アトレとの出会いだった。
ごめんなさい!前のやつ展開が早かったので書き直しました!書き直した方はもうちょっとゆっくり進んでいくはずです。




