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『「毒草師」と追放された私、実は本当の「浄化の聖女」でした。瘴気の森を開拓して、モフモフのコハクと魔王様と幸せになります。』  作者: とびぃ


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10-3:わたくしの「庭」と「王妃」

アステル王国は、自滅した。

わたくしが魔王領で「妃」として保護されていること、そしてわたくしの両親までもが魔王領によって救出されたという事実は、アステル王国にとって決定的な「敗北」を意味した。

国王はすべての権力を失い、王太子はその愚かさゆえに幽閉された。

国は、商人ギルドを介して、魔王領から「薬草」という名の命綱を買い続けることでしか存続できなくなった。

彼らが「毒草師」と呼んで捨てたわたくしが、今や彼らの生殺与奪の権を握っている。

これ以上の結末はなかっただろう。

だが、わたくしは、もはやあの愚かな国のことなどどうでもよかった。

わたくしの「仕事」は、あのガラス張りの中庭にあったからだ。

わたくしは、両親との再会を果たし、何の憂いもなくなったことで、持てる力のすべてをわたくしの「研究室」に注ぎ込んだ。

わたくしの両親も、今ではこの魔王城の一室を与えられ、わたくしが育てた薬草や野菜を、セレス様やヴァイス様たちに「これがうちの娘の育てたものですのよ!」と自慢して回るのが、新しい日課になっているようだった。

「エリアーナ様、すごい……」

「これが、あの『死の中庭』だったとは……」

魔王城の魔術師や、侍女たちが、今やわたくしの研究室を畏敬の念を持って見つめていた。

あの日、アビス様から贈られた、あの荒廃した黒い大地。

それは今、わたくしとコハクの力によって、魔王城の、いや、この魔王領全土の「希望」となっていた。

わたくしは、中庭のすべてを浄化した。

瘴気で死んでいた土は、今やわたくしの金色の光を吸い込み、生命力に満ちた「聖なる土」へと生まれ変わっている。

そこには、王宮から持ってきたカモミールやレモンバームが城壁のように生い茂り、一年中、心を落ち着かせる香りを放っている。

わたくしが森で採取した未知の薬草たちも、この浄化された土の上で本来の力を取り戻し、青々とした葉を広げていた。

(この『瘴気喰らい』の蔦も、こうして浄化した土でマナを調整すれば、毒性を完全に消せるのね……)

わたくしは、あの森で危険だと判断した、美しい紫色の花を咲かせる蔦を、今や研究室の壁に這わせていた。

その花から抽出した蜜は、毒性を失い、代わりに、魔力を高める貴重な「蜜」へと変化していた。

そして、あの『死の涙』。瘴気の森の最強の毒キノコさえも、わたくしの手にかかれば、その猛毒を中和し、別の薬草と調合することで、魔獣の傷さえ癒やす強力な「解毒薬」へと生まれ変わった。

わたくしは、追放された「毒草師」から、真の「薬草師」へと、わたくし自身の力で生まれ変わったのだ。

そして、何よりも。

「……ここは」

わたくしの中庭を、毎日のように訪れるようになったアビス様が、その光景にいつも息をのんでいた。

「……温かい」

そう、この中庭だけが、魔王城の他のどの場所とも違った。

ガラス張りの天井からは相変わらず紫色の瘴気の霧しか見えない。

だが、わたくしが育てた植物たちが、一斉にわたくしの力に応えるかのように、淡い温かな「金色の光」を放っているのだ。

植物たちが自ら「浄化のマナ」を生み出し、この中庭を瘴気の呪いが届かない本物の「聖域」へと変えている。

「この香りを吸い込むと、頭痛が和らぐ」

アビス様は、わたくしの育てたカモミールの花にそっと触れた。

彼の紅い瞳は、わたくしが淹れる「安眠茶」と、この「聖域」のおかげで、もはや血走ってはいない。

何年ぶりかの安らかな眠りを手に入れた彼の顔には、王としての威厳と、一人の男としての穏やかな表情が戻っていた。

「アビス様、またいらしたのですか。お仕事は……」

「……終わらせてきた」

彼が、わたくしから視線を外して、ぶっきらぼうに答える。

(……本当かしら)

わたくしは、彼が「わたくしの薬草茶」と「コハクのセラピー」と、そしてこの「聖域の香り」を求めて、仕事を無理やり終わらせて会いに来ていることを、知っていた。

知っていて、そのことが、どうしようもなく嬉しいのだから、わたくしも大概だ。

「キュイ!」

コハクが、そんなアビス様の足元に駆け寄り、その黒いブーツにすりと額の宝石を擦りつける。

(また来たのか!)とでも言うような、親しみのこもった挨拶だ。

コハクも、今やアビス様のことをわたくしと同じくらい「家族」だと認めているようだった。

アビス様は、そのモフモフの頭をわたくしよりもよほど手慣れた様子で撫でながら、わたくしに向き直った。

「エリアーナ」

「はい、アビス様」

「……お前が、この城に来てからすべてが変わった」

彼は、わたくしの、土で汚れた手をそっと取った。

王宮の王太子が「不快」だと侮辱した、この手を。

アビス様は、まるで世界で最も尊い宝物に触れるかのように、その冷たい、しかし大きな手のひらで包み込んだ。

「わたくしは眠れるようになった。民も、お前の薬草で救われている。ギデオンやセレスの、あの瘴気による苛立ちも消えた」

「……」

「この城に、初めて『安らぎ』が生まれた。……すべて、お前のおかげだ」

彼の燃えるような紅い瞳が、わたくしをまっすぐに見つめている。

そこには、もう「賓客」を見る目ではなく、一人の女性を、愛おしむ光が宿っていた。

(……ああ、この方は)

わたくしの顔が、熱くなる。

あの日、黒曜の門で、わたくしは彼の言葉を「方便」だと、必死に自分に言い聞かせていた。

(……わたくしを「妃」と呼んだのは、あの時だけの、方便では、なかったの……?)

「エリアーナ」

アビス様が、わたくしの手をさらに強く握りしめる。

その、普段は瘴気をねじ伏せるほど強大な魔力を持つ王の手が、わたくしの前では、わずかに震えていることに、わたくしは気づいてしまった。

「……わたくしは欲深い王だ。お前という『希望』を手に入れてしまった今、もはや手放すことなどできん」

「アビス、様……」

「わたくしは、アステル王国の愚かな王太子とは違う。わたくしは、お前の価値を知っている」

彼は、わたくしの土に汚れた手の甲に、そっと唇を寄せた。

王の、誓いのように。

それは、わたくしの「園芸師」としての仕事と、わたくしの「力」と、そして「わたくし自身」のすべてを、肯定する口づけだった。

「……わたくしの、本当の『妃』になってほしい」

「……!」

「あの門での言葉は、確かに『方便』から始まった。だが、この数日、お前と、お前の家族と、そしてお前の『庭』と共に過ごすうちに、わたくしは確信した」

彼の紅い瞳が、切実な光を帯びて、わたくしを捉える。

「この魔王領の、すべての民の『聖女』として。そして、わたくし個人の……唯一の『癒やし』として。……わたくしの、そばにいてくれ」

わたくしは、そのあまりにも不器用で、しかし誰よりも誠実な求婚の言葉に、涙が溢れて止まらなかった。

王宮では、「女」であることは「園芸師」の邪魔でしかなく、「園芸師」であることは「伯爵令嬢」の恥でしかなかった。

だが、この方は。

わたくしのすべてを、「聖女」として、「薬草師」として、そして一人の「女」として、すべてを「妃」として受け入れると、そう言ってくださっている。

わたくしは、コハクを抱きしめたまま、彼の胸に、飛び込むように頷いた。

「……はい。喜んで……!」

わたくしは、この日、追放された園芸師から、魔王領の「聖女」となり、そして、魔王アビスの、ただ一人の「妃」となった。


わたくしの「最大の勝利」は、わたくしを追放したアステル王国が、瘴気に沈んでいくのを高みから見物することではなかった。

彼らが、わたくしの薬草なしでは生きていけなくなり、わたくしに頭を下げさせる姿を見て嘲笑うことでもなかった。

それは、あまりにも小さな「復讐」だ。

わたくしの「最大の勝利」は、

王宮の「鳥かご」では決して手に入らなかった、この広大な「研究室」で。

わたくしが心の底から愛でる植物たちと、思う存分向き合える日々を手に入れたこと。

わたくしの「不快」だと蔑まれた「土いじり」が、今やこの魔王領の何千、何万という民の「命」を救う、「聖女の御業」と呼ばれていること。

わたくしの、園芸師としての知識と、薬草師としての矜持が、この国で誰よりも尊敬され、必要とされていること。

そして、何よりも。

「エリアーナ、おはよう」

「おはようございます、アビス様。昨夜は、よくお眠りになれましたか?」

わたくしが、朝、研究室で土に触れていると、わたくしのために淹れた安眠茶を毎朝飲みに来ることが日課になった、愛おしい人がいること。

彼の、あの深い隈は、もうすっかり消えていた。

「ああ。お前のおかげで、今夜も悪夢は見なかった」

彼が、わたくしの土に汚れた手を何の躊躇もなく握り、その紅い瞳を優しく細めて、わたくしだけを見つめてくれること。

「キュイ!」

わたくしたちの足元で、わたくしの「最初の家族」であるコハクが、わたくしとアビス様の二人を、まるで「わたくしが育てた!」とでも言うように、誇らしげに見上げていること。

アステル王国の愚かな王太子と偽聖女が、枯れ果てた花壇で、失った権力とわたくしへの嫉妬に今もなお苦しみ続けている頃。

わたくしは、この魔王領で。

わたくしを心から「必要」としてくれる人々と、わたくしが愛する「植物」たち、そして最強のモフモフの相棒に囲まれて。

わたくしの、本当の「居場所」を見つけ、最高の「幸福」を、その手で掴んでいた。

これこそが、わたくしが手に入れた、「最大の勝利」だった。


--Fin--


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