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『「毒草師」と追放された私、実は本当の「浄化の聖女」でした。瘴気の森を開拓して、モフモフのコハクと魔王様と幸せになります。』  作者: とびぃ


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9-4:人道的支援

「き、妃だと……!? ふ、ふざけるな!」

王太子はアビス様の言葉の意味を数秒遅れて理解し、顔を真っ赤にして絶叫した。

(わたくしが、捨てた女を……! この、魔王が、妃にだと……!?)

それは、彼の最後の拠り所であった「王太子」としてのプライドを木っ端微塵に打ち砕く、最大の侮辱だった。

「エリアーナ! 貴様、魔王に寝返ったのか! この、売国奴めが!」

「……黙れ」

アビス様のさらに低くなった声が、王太子の罵声を遮る。

「次にその口でわたくしの妃を侮辱してみろ。その首、胴から切り離してアステル王国の門前に吊るしてやる」

「ひっ……!」

王太子はアビス様の本気の「殺意」に触れ、今度こそその場にみっともなくへたり込んだ。

広場を囲む竜人族の兵士たちが槍の石突を「ドン!」と床に打ち付け、王太子の卑劣な言葉への怒りを露わにする。その地響きのような音に、王太子は完全に戦意を喪失した。

「……さて」

アビス様はもはや床で震える王太子には興味を失ったかのように、わたくしに向き直った。

わたくしを抱いていた腕は解かれたが、その紅い瞳は先ほどとは打って変わって穏やかな色をしていた。

「……エリアーナ。わたくしは彼らを今すぐ追い返したいところだが」

彼はわたくしの瞳をまっすぐに見つめた。

「……お前は、どうしたい?」

彼はわたくしに「選択」を委ねたのだ。

「王命」でわたくしを縛ろうとする王太子と、「わたくしの意思」を尊重しようとする魔王。

その差はあまりにも歴然としていた。

わたくしは、アビス様のその信頼に胸が熱くなるのを感じた。

(……この方は、わたくしを「道具」ではなく、一人の「エリアーナ」として、見てくださっている)

わたくしはコハクを抱きしめ直し、広場にいる哀れな王太子を見下ろした。

その視線には、もうかつての主君への敬意も恐怖もなかった。

「……王太子殿下。先ほども申し上げた通り、わたくしがアステル王国に戻ることは、決してございません」

「……っ!」

王太子が泥だらけの床の上で絶望に顔を歪める。

「ですが」

わたくしは続けた。

その声はわたくし自身でも驚くほど冷静で、力強かった。

「……アステル王国の『民』に、罪はございません」

わたくしの脳裏に、王宮でわたくしに「精が出ますね」と優しく声をかけてくれた、あの先輩の庭師の顔が浮かんだ。

わたくしを追放する馬車に命がけでパンと水を投げ入れてくれた、あの年嵩の兵士の顔が浮かんだ。

彼らも今、あの瘴気に汚染された王都で苦しんでいるかもしれない。

そう思うと、わたくしの胸は痛んだ。

「……アビス様。お願いがございます」

わたくしは魔王に向き直り、深く頭を下げた。

アビス様の紅い瞳が、わたくしの次の言葉を静かに待っている。

「わたくしがこの魔王領で育てた『薬草』を、アステル王国の民のために輸出することを、お許しいただけないでしょうか」

「……エリアーナ?」

アビス様の紅い瞳がわずかに見開かれる。

わたくしの隣でギデオン様が「馬鹿なことを!」と声を上げそうになるのを、アビス様が手で制した。

「……エリアーナ様、本気か」

ギデオン様の、その戸惑ったような声がわたくしの本気度を測りかねているようだった。

わたくしは顔を上げ、まっすぐに二人を見つめた。

「はい。彼らはわたくしを捨てました。ですが、わたくしは薬草師です。目の前で瘴気に苦しむ人々がいると知って、見捨てることはできません」

「……」

アビス様は何も言わずにわたくしの言葉を聞いている。

「もちろん、無償でとは申しません。商人ギルドを通して、正式な『取引』としてです」

わたくしはアビス様がわたくしに与えてくださった、あのガラス張りの「研究室」を思った。

「わたくしの薬草は、アビス様がわたくしに与えてくださったこの魔王領の『土』で育ったもの。その利益は、すべて魔王領の民のために使われるべきです」

わたくしのその提案。

それは、わたくしを追放した王太子への最大の「復讐」でもあった。

わたくしを「捨てる」ことで、彼らは国を救う唯一の手段(わたくしの薬草)を、敵国である魔王領から「金で買わなければならない」立場に堕ちるのだ。

わたくしは彼らの愚かさに罰を与える。

だが、民は救う。

それが、わたくしが出した答えだった。

アビス様は、わたくしのその言葉をじっと聞いていた。

やがて、彼の唇にあのわたくしが初めて見た時のような、深くて優しい「笑み」が浮かんだ。

それはわたくしの「甘さ」を嘲笑うものではない。

わたくしの「強さ」と「善性」を、心の底から愛おしむかのような、そんな笑みだった。

「……それでこそ、わたくしが見込んだ女だ」

彼は満足そうに頷いた。

「……よかろう。エリアーナの意思を尊重する。ヴァイスに命じ、商人ギルドとの交易ルートを正式に開こう」

「はっ!」

いつの間にかわたくしたちの背後に控えていたヴァイス様が、深々と頭を下げた。

「……そ、そんな……」

広場でそのやり取りを聞いていた王太子は呆然としていた。

(……薬草を、売ってくれる……?)

彼はわたくしを連れ戻すことに失敗し、国が滅びると絶望していた。

だが、最悪の事態(薬草の禁輸)は避けられた。

(……助かった?)

そのあまりに浅ましい安堵が彼の顔に浮かんだのも束の間。

「ただし」

アビス様の冷たい声がその安堵を打ち砕いた。

「取引の条件は、こちらで決めさせていただく。……ヴァイス」

「はっ」

ヴァイス様が完璧な宰相の笑みを浮かべて一歩前に出た。

「エリアーナ様の名誉がアステル王国全土で回復されること。そして、魔王領に最大の利益が出る形(……王太子殿下が最も屈辱を味わう形)で、交渉を進めろ」

「……御意に」

ヴァイス様が腹黒い笑顔で一礼した。

「そ、そんな……!」

王太子は、自分が国を救うためにこれからもずっとこの魔王領に、そしてわたくし(エリアーナ)に頭を下げ続けなければならないという「現実」を突きつけられたのだった。

「……帰れ」

アビス様が冷たく言い放つ。

「交渉は後日、ヴァイスを通して行う。……二度と、その汚れた足でわたくしの城門をくぐるな。そして」

彼の紅い瞳が、わたくしの肩を抱き寄せたまま王太子を射抜く。

「……二度と、わたくしのエリアーナを、その口で呼ぶな」

「う……あ……」

王太子は何も言い返せず、竜人族の兵士たちに「早く失せろ、人間のクズめ」と笑われながら、這う這うの体で黒曜の門から逃げ帰っていった。


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一人称が誰彼かまわず「わたくし」で、 誰の視点なのか解りにくいし、誰の発言なのか解りにくい。
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