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第4話 眠れぬ夜に、君がいた

前回のあらすじ

おばあさんが入院してしまって、ひとり寂しい樹。

千尋を家に招いてピザ作りをすることになる。

「今日は泊っていったら?」という樹の提案に、千尋は泊まることにするが……

ピザを食べ終え、入浴を済ませたあと、僕たちはリビングでだらだらとテレビを眺めていた。


「そろそろ寝ようか」


僕の言葉に、千尋が大きなあくびをする。


「うん。俺、どこに寝ればいい?」


「あっ……!」


僕は思わず声を上げた。客用の布団なんて、どこにあるのか全く知らない。


「布団……どこだろう、わからないな……」


「はは、マジかよ」


「探せば見つかると思うけど……」


「おばあさんの留守中に探すのは、やめたほうがいいんじゃないか? 俺、畳で寝るよ。畳なら平気」


千尋が言って、畳にごろんと横になる。


「いや、それはだめだって! 寒いし体痛くなるし、僕の布団で寝て!」


「お前が畳で寝たら意味ないだろ」


「……あ、じゃあ一緒に布団で寝よう!」


自分でも何を言っているのか驚いたが、千尋は意外にもすんなりと頷いた。


「お前、寝相大丈夫だろうな?蹴るなよ?」


「わかってるって!」


布団に入ると、想像より狭くて、お互いに肩が触れる。


「わー、狭い狭い」


「寄らないとはみ出すぞ」


千尋が僕の肩をぐいっと引き寄せた。その体温が、じんわりと背中に伝わる。


「あったかい……」


「俺、体温高いからな。暑かったら言えよ」


「ううん、大丈夫……」


温もりがじんわりと心を溶かしていく。


もっと話していたいのに……

言葉を交わす間もなく、僕の意識はゆっくりと、眠りに落ちていった。


誰かの気配がこんなにも安心をくれるなんて、今日の僕は、世界一ぐっすり眠れる気がした。


――だけど。


朝、目が覚めると、僕は千尋に思いっきり抱きしめられていた。


(う、動けない……)


まるで大きなぬいぐるみに押し潰されているような、重さと温かさ。


ふと、その状況があまりにも可笑しくて、僕は小さく吹き出した。


「……ふふっ」


その笑い声に反応するように、千尋のまぶたがゆっくりと開く。


数秒後、自分の状況に気づいたらしい千尋は、驚愕した表情で飛び起きた。


「わ、わぁっ!? ご、ごめんっ!」


僕はその反応に我慢できなくなり、声を上げて笑った。


「ははっ!……なんか巨大ヘビに締め上げられる夢見た!」


千尋は恥ずかしそうに耳まで赤くなりながら、「なんだよそれ……でも俺、めっちゃくちゃよく眠れた」と小さく呟いた。


***

千尋視点ver.


畳の上に敷かれたシングルサイズの布団は、男二人が並んで寝るには少しだけ狭かった。


けれど、それが妙に心地よかったのは、たぶん気のせいじゃない。

俺に背中を向けていた樹は、すぐに寝息を立てていた。


静かな部屋に、時計の秒針の音と、樹の規則正しい呼吸音が響いている。


俺は最近、よく眠れない。

夢見も悪くて、夜中に目を覚ますことも多い。

内容はよく憶えていないのに、不安で恐ろしい夢に押しつぶされそうになる。


でも……今夜は一人じゃない。樹がいる。


樹は学校で無口でクールだって言われているけど、俺の前では無邪気で素直で、少し子どもっぽい。


ふと、俺はそっと体を傾けて、樹の寝顔を覗き込んだ。

ほんの少し、まつげが震えている。無防備で、穏やかで――こんな表情、学校の奴らは絶対に見たことないだろう。


(……綺麗な顔してるな)


そう思った自分に、少し戸惑う。


樹の髪の毛をそっと梳いてみる。指先に触れるやわらかな感触に、心臓が跳ねる。


(……かけがえのない物に触るみたいだ)


樹の純粋な優しさに、この頃すごく救われている気がする。


(……俺、今日はちゃんと眠れるかも)


そんな淡い期待を抱きながら、ゆっくりと意識が溶けていった。


***


気がつくと、布団がかすかに揺れている。

ぼんやり目を開けて、自分の状況に気づいた瞬間、飛び起きた。


――俺、樹に抱きついてる!?


「わ、わあっ!? ご、ごめん!!」


慌てて飛び起きた俺に、樹は笑いながら言った。


「巨大ヘビに締め上げられる夢見た!」


「なんだよそれ……」恥ずかしさで顔が熱くなる。「でも俺、めっちゃくちゃよく眠れた……」


こんなに熟睡したのは久しぶりだった。

お読みいただきありがとうございます!

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