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第3話 約束のピザ作り

前回のあらすじ

樹のおばあさんのために、料理を作るふたり。

千尋の手際の良さで料理は大成功。

ところが、あたたかな食卓を見て、千尋は泣き出してしまう。

明るく人当たりのいい千尋の ”本当の姿” を垣間見る。

いつものように、美術準備室で昼食をとっていた僕は、ふと思い出したように口を開いた。


「ばーちゃんが、昨日入院したんだ」


パンを頬張っていた千尋の手が止まる。


「肩の怪我、ひどいのか?」


「うん。三週間くらいの入院になるって」


「……そっか。心配だな。樹、家のことは大丈夫なのか?」


僕は笑ってみせた。「大丈夫ではない……けど大丈夫」


「どっちだよ、それ」

千尋が笑う。相変わらずの口調に、僕もつられて笑った。


でも、内心は少しだけ苦しかった。正直、寂しい。

だけど、それを口にするのは、なんだか自分が負けたみたいで悔しかった。


「……一人暮らしっぽくて楽しいよ。一人って自由でいいよね」


そんな強がりを口にすると、千尋は少しだけ目を伏せて「あー……うん。そうかもな」と相槌を打った。

どこか歯切れが悪かったのが気になった。


だから僕は、無理やり明るい声で言った。

「来る?僕の城に?」


「一人を満喫してるんじゃなかったのか?」

千尋は冗談めかして笑った。


“寂しいから来てほしい”――そんな言葉は、やっぱり言えなかった。僕は口実を探す。


「あ……そうだ。ピザ作るって、約束したじゃん!」


「……ああ、そうだったな!」


千尋の顔がふわっと明るくなる。その笑顔を見て、僕の胸の奥もふっと軽くなった。


***


「千尋、上がって上がって!」


玄関を開けるなり、僕は興奮気味に千尋を迎え入れた。


ばーちゃんが入院して一人になったこの家に、千尋が来てくれる。

それだけで、こんなに嬉しくなるなんて、自分でも驚いていた。


「お邪魔します……って、今更思ったけど、おばあさん不在なのに俺、上がり込んでいいのか?」


「うん。ばーちゃんには言ってあるから、大丈夫!」


「……そうか。って、すげー散らかしてるじゃん!」


千尋が目を丸くして、リビングを見渡した。脱ぎっぱなしのパジャマ、テーブルに置きっぱなしの食器。

ばーちゃんがいた頃は、こんなこと、絶対になかった。


「……はは、そうだった」


僕は慌てて笑い、パジャマを拾ってカゴに押し込む。


「おばあさんが入院して、一日でこれはヤバくないか?」


「まとめて片付ければ、大丈夫だって!」


そのやりとりに笑いながら、千尋はキッチンへ向かう。


「よし、ピザ生地作り始めようか」


千尋のスマホに表示されたレシピ動画を参考に、僕たちは材料を準備し始めた。


「ぬるま湯にイースト菌を入れる……」


「うん。イースト菌って何?」


「わかんないけど、YouTubeが言ってるから信じよう!」


そんなやりとりを交わしながら、僕は小麦粉に手を突っ込んで、生地をこね始めた。


「楽しいな、これ……!」


「そしたら、ひとまとめにして発酵させる」


「発酵?」


「40分ぐらい置くらしい。……しまった、食べる時間が遅くなるかも」


「僕はいいけど、千尋は?」


しばらく考えていた千尋は、僕の目をまっすぐ見て、静かに言った。


「……大丈夫。遅くなっても。どうせ誰も心配しないし」


その言葉に、胸の奥がぎゅっと痛んだ。


誰も心配しないなんて悲しいこと、考えてほしくなかった。


僕はこんなに千尋を必要としているのに。


「じゃあ、さ……泊まっていけば?」


僕の唐突な提案に、千尋は一瞬目を見開いて固まった。


さすがに泊りは無理かな……

そんな思いが、胸の奥から静かに浮かび上がってきた。


でもそんな心配をよそに、千尋の口元に淡い笑みが浮かぶ。


「……わかった。泊まっていくよ」


僕はその返事に心から喜び、ピザ作りの続きを始めた。


オーブンの中でピザが焼けていく。

チーズがとろけ、サラミがジュウっと音を立て、ピーマンの緑が鮮やかに映える。


「千尋、見て見て!いい感じになってきた!」


「まだだって、もう少し焦げ目がついたほうがうまいんだから」


言われた通りに少し待ってから取り出すと、香ばしい匂いがキッチンいっぱいに広がった。


ふたりで分けて、熱々のピザを頬張る。


「うまっ!」


「今まで食べたピザの中で、一番おいしいかも。ありがとう、千尋!」


「へへ、意外と上出来だったな!」


ふたりで笑い合いながら、僕はふと思った。


(千尋といるとたのしいな。この時間がずっと続けばいいのに)


お読みいただきありがとうございます!

PVを見たら、2って書いてあったんですけど、ふたりも読んでくれたって本当ですかね!?


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