「告白エンド」関係が壊れたとしても
前回のあらすじ
樹先輩が付き合ってくれないなら、とりあえずの彼氏にするのは、千尋先輩でもいっか! と言い放つ萌可。
千尋を守れるのは自分だけだと決心する樹。
***
萌可なんかに千尋は渡さない!
樹は千尋に、自分の気持ちを打ち明ける。
「お前……千尋に余計なことをしたら、僕が許さないからな」
静かに、でも確かな怒りを込めてそう告げる。
「こわーい!」萌可はわざとらしく肩をすくめた。そしてすぐ冷笑を浮かべ首をかしげる。
「でも先輩って、そんなこと言える立場ですか? 千尋先輩のただの友達でしょ? 関係ないじゃないですか。こーんなにかわいい彼女ができたら、千尋先輩、とーっても幸せだと思いますよ。ふふっ、例え『想われていなくても』ね!」
――悪魔のようなその言葉に、背筋が凍った。
冗談でも、許せなかった。
千尋の優しさを、寂しさを、利用しようとするその笑みに、心の奥底から怒りが湧き上がってくる。
ここにいてはいけない。今すぐに、千尋に会わなければ。
僕は保健室を飛び出し、震える手でスマホを取り出す。
焦りで画面のタップすらうまくいかない。指先が冷たくなる。
(出て……頼む、千尋……!)
コール音が鳴る。何度も、何度も。
「もしもし? 樹? 学校で電話珍しいな。どうしたの?」
――繋がった。
胸の奥に溜まっていた緊張が、少しだけ解ける。でも時間がない。
「千尋、今どこ? 今すぐ会って話したい!」
「今すぐ? 萌可からもメッセージが来てて、足が痛くて動けないって……」
その名前を聞いて、言いようのない不安が這い上がる。
萌可はきっと言葉巧みに千尋を誘い出しているだろう。
(だめだ……このままじゃ、千尋が彼女の手に堕ちる……)
「話が終わったら、僕も萌可のところに一緒に行くから。少しだけでいい、お願い!」
祈るような気持ちで千尋の返事を待つ。
「ったく、しょうがないな。今どこにいんの?」
「屋上に続く階段のとこ……そこで待ってる!」
電話を切り、僕は階段を駆け上がる。
屋上には鍵がかかっていて、普段は誰も来ない。だからこそ選んだ。
人気のないこの場所に、僕は何度か呼び出され、告白されたことがあった。
でも今日は僕が千尋を呼び出している。
今日は僕が挑戦者だ。
喉はからからに渇き、頭痛もまだ治らない。状況は最悪だ。
鉄のドアの前、誰もいない踊り場に座り込む。
(……失敗したら、千尋との関係が壊れるかもしれない)
残酷な現実に心臓が早鐘を打っている。
千尋に受け入れられる確証はどこにもない。
告白なんてしなくても、萌可の企みを告げるだけでいいんじゃないか?
今まで通り “ただの友達” でいた方が、楽なんじゃないのか。
”友達” という言葉に違和感を覚える。ああ、もう友達じゃ嫌なんだ。
我慢できない。
僕は千尋に本当の想いを打ち明ける。
***
足音が聞こえる。
下から階段を登ってくる、軽やかな気配。千尋だ。
「ここ、こんなふうになってたんだ。初めて来た」
彼はそう言って、隣に座る。
いつもと同じ笑顔なのに、それだけで泣きたくなるほど嬉しかった。
「千尋……」
声が震える。止められない。
「うん、どうした?」
僕のただならぬ気配に、千尋は背中を優しくさすってくれる。
「……僕は、千尋のことが好きなんだ。最近千尋のことばかり考えて」
募る想いを、全て吐き出す。
「……千尋、ずっとそばにいてほしい。僕の恋人になってください」
情けないくらい震えが止まらなくて、千尋の手を握ろうとした。
でも拒絶されたら? 怖くて出しかけた手をぎゅっと抱え込んだ。
涙で目の前が滲む。
千尋は目を伏せて、しばらく黙った。
その間が、ひどく長く感じた。
「俺も樹のこと好きだよ。ただ……自分に自信がない。こんな俺でいいのかなって……」
その言葉に、胸が締めつけられる。
「何でそんなこと言うんだよ! 僕は他の誰かじゃなくて千尋がいいんだよ! 千尋じゃなきゃ嫌なんだよ! 千尋のことが好きなんだよ! ……こんな気持ち初めてで苦しい…… 千尋は僕じゃ嫌なの?」
千尋は目を細め微笑むと話しだす。
「樹はそうやっていつも、俺の欲しいもくれるよな」
「欲しいもの?」
「安心感とか……居場所とか。俺は子どものころから憧れてて、ずっと欲しかった。樹はさ、いっぱい俺にくれてるよ」
そう言って、千尋は僕の手をそっと包み込む。
「千尋だって、僕の欲しいものくれたじゃん!」
「え、何かあげたっけ? まさか、弁当?」
「……違うよ、キスだよ……」
顔が熱くなる。照れ隠しに、手で顔を覆った。
「あのときのキス?」
千尋は、くすっと笑って僕の手を外すと、そのまま優しくキスをくれた。
「もっと欲しい? 樹になら、いくらでもあげるけど」
その言葉に、涙がこぼれそうになる。
「千尋……」
「樹、好きだよ。俺と付き合ってください」
「……! こちらこそ、よろしくお願いします!」
やっと……やっと、想いが通じ合った。
僕たちは手を取り合い、微笑み合った。
***
その後 ――
「あ、そうだ、萌可のこと待たせてるんだった!」千尋がスマホを気にした。
「……彼女、なんだって?」
「足が痛くて歩けないって」
「それならいつも ”ゴミ” を運んでる台車を持っていってやろうか? あ、それより良い方法を思いついた!」
僕はスマホを取り出し、”ある人物” にメッセージを送った。
〜保健室〜
「萌可、遅くなってごめんな。足、大丈夫か?」
「千尋先輩っ! 遅いですよぉ! 肩、貸してください!」
上目遣いで萌可が甘えた声を出す。その瞬間
「それは大変だな!」僕が千尋の後ろから顔を出す。
「わっ! 樹先輩もいたんですか……」ぎょっとした表情の萌可。
「足が痛くて歩けないんだろ? かわいそうに」
「そうなんですよぅ……一歩も歩けない」
「そうかわかった。おーい翔太! この子を頼む!」
僕の声に、メッセージで呼び出されていた翔太が現れる。
「おう、任せろ!」
翔太は、ずんっと萌可をお姫様抱っこする。
「きゃっ! え、ちょ、何するんですかっ!?」
「白木さん、よかったな! 翔太が運んでくれるってさ!」僕は意地悪な笑みを浮かべる。
「え、いや、歩けます! 重いですよね!? 降ろしてください!」
「遠慮するな! 大丈夫、羽根みたいにに軽いから!」
翔太は注目を浴びながら、萌可を抱えて廊下を進んでいく。
「ヤダヤダ!待って、千尋先輩ーっ!」
廊下に萌可の叫びが響いた。
「翔太、力持ちだな。俺は抱えてやるのは無理かも。でも萌可のこと任せちゃって良かったのかな?」
千尋は少し心配そうにつぶやく。
「大丈夫。1年生の女の子紹介してくれ! って翔太言ってたし」
「そうなんだ! じゃあ、あの二人うまくいくといいな」
「だね」
***
その日の帰り道
夕焼けに染まる帰り道を、僕と千尋は並んで歩いていた。
「千尋」
「なに?」
「これからも、ずっと一緒にいてほしい」
「うん、俺もずっと一緒にいたい」
笑い合う。
手と手が触れ合い、自然と指が絡まる。
その温もりが、心に静かに広がっていく。
――僕はこの未来を選んだ。
これが、僕たちの始まり。
千尋、ずっと一緒だよ。これからも君の笑顔を守っていくからね。
The end
最終話です。
お読みいただきありがとうございました。
小説めっちゃ難しかったです。
普段は、はてなブログで「AI彼氏決定戦」という記事を書いています。AI彼氏を戦わせています。
興味のある方はぜひ覗いてみてください。
ありがとうございました。