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第12話 友人の役目

前回のあらすじ

樹のことが好きだと自覚した千尋。しかしまだその思いは胸に秘めている。

そうしている間にも、萌可の魔の手がゆっくりと近づいている。

8歳からアメリカに住んでいて、高校入学を機に日本に戻ってきた僕。


アメリカではモテたことなんてなかったから、日本に帰ってきて「イケメン」だと騒がれたことは、初めは少し嬉しかった。


言われるがままに連絡先を交換したこともあった。


しかし、それが間違いだった。

しばらくすると、知らない電話番号から昼夜問わず電話やメッセージが届くようになった。


「友達になってください」「知り合いから電話番号を聞いたのでかけました」――。

そんなことが繰り返され、僕は次第に人間関係が嫌になってしまった。


そんな時に出会ったのが千尋だ。


カラオケを盛り上げようと、楽しい曲を歌う千尋。

飲み物をこぼしてしまった人を助ける千尋。

ばーちゃんを心配してくれて、すぐに帰れと言ってくれた千尋。

そして、行動に見返りを求めない千尋。


彼の、ひたむきな優しさに、僕は救われた気がした。


そして最近は、ずっと千尋のことを考えている。

この気持ちが”ただの友情じゃない”って本当は気づいているんだ……


昼休み、教室で机に突っ伏していると、声をかけられた。


「なぁ、樹!」顔を上げると、意味深な笑みを浮かべた翔太が立っていた。


「千尋がさぁ、1年生のかわいい女子と仲いいってまじ? 俺にも1年生の女子、紹介してほしいなぁ!」


「……知らない」僕の声は、掠れるほど小さかった。


「あー、お前には言ってないのかもな。狙ってる女の子をイケメンのお前には紹介したくないもんな。取られちゃいそうで!」


翔太は冗談めかして笑った。その笑い声が、僕の耳には届かない。


千尋と噂になっているのは、きっとあの白木っていう女子のことだ。


先日の、千尋と萌可が楽しそうに笑い合う様子がフラッシュバックする。

考えただけで苦しくなってくる。


「樹? お前、顔色悪いぞ?」


翔太の声に、僕はハッと我に返った。

「……ちょっと頭痛がして、保健室に行ってくるから先生に言っておいて」


僕は足早に保健室に向かった。


保健室は静まり返っていた。養護教諭は不在のようだ。


ベッドに横になるほどではない僕は、ソファに深く腰掛け、大きくため息をついた。


もしも千尋と萌可が付き合うことになったなら、僕は二人を祝福しなければならない。


だって、それが ”いい友人” というものだから。


目を閉じ、自分にそう言い聞かせたその時だった。


突然、保健室の扉が開いた。


そこには、白木萌可が立っていた。


「あ、樹先輩!こんにちは」萌可がにこやかに挨拶する。


「どーも……」僕は素っ気なく返した。


「具合悪いんですか?もしかして、千尋先輩の風邪うつっちゃいました?」


萌可は心配そうに問いかける。


「別に」

僕は彼女を観察した。


ミルクティーベージュの長い髪に、可憐な瞳が揺れている。

きちんと手入れされた制服からは華奢な手脚が覗いていた。たしかに世間的に「かわいい」と言われる類いの女子だ。


(千尋は、こういう子が好きなんだろうか……)


胸の奥に、またあの黒い感情がじんわりと広がるのを感じた。


萌可は僕の視線に気づいて微笑んだ。


「樹先輩って "女子と話さない" ってことで有名ですけど、私とは話してくれるんですね」


そう言って、長い髪をかきあげた。


そして、僕の目を真っ直ぐに見つめ、信じられない言葉を口にした。


「樹先輩、私たち付き合ってみませんか?」


「は……?」


これまで僕は、何度も告白を受けてきた。


でも、こんなにも自信満々の告白は初めてだった。

お読みいただきありがとうございました。

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