#04 マホヨは、告白される
「マホヨさんのことが好きです! ボクと付き合ってください!!」
告白された。
長身で、サラサラなストレートの黒髪が特徴的な爽やかイケメン。
きっと女子にモテるんだろうなー、と予想する。
(きゃー)
とレイナが口を抑えてワクワクした目で見てくる。
使い魔が「カー! 大変だカー!」と騒いでいる。
うるさいわよ、せっちゃん。
男の子が真剣な目で見つめてくる。
私を好きと言ってくれるは、悪い気はしない
でも私の返事は決まっていて。
「ごめんなさい。今は受験勉強と魔法少女の仕事で忙しいから無理です」
私は告白を断った。
曖昧な返事をしてはいけないと思って。
「…………」
彼はがーん、とショックを受けた表情になる。
恋人は欲しいけど、誰でもいいってわけじゃないから。
「だ、だったらまずは友達から!」
食い下がられた。
(やっぱりそうくるよねー)
このパターンも、過去に何度もあった。
「それも……ごめんなさい、今は魔法少女の仕事と受験勉強で忙しいから、友達と遊んでいる時間はないんです」
申し訳ないと思いつつ、はっきりと自分の気持ちを伝える。
でも、時間がないのは本当。
急に友達といわれても、きっと相手をする時間はないから。
「……えっと……は、はい。わかりました」
彼はとぼとぼ帰っていった。
よかった。
これ以上、しつこく言われたらどう言えばいいかわからなかったし。
あんまりひどいことは言いたくないし。
「よかったヨー、マホヨちゃん! これで安心して魔法少女を続けられるネ! 今日もバンバン仕事をとってくるヨ!」
「とってくるな! 私は受験勉強したいの!」
使い魔に怒鳴る。
やっぱ、断らずに保留くらいにすべきだった?
でも、キープみたいな真似は嫌いだし。
うーん……。
「ねー、まほちゃん。さっきの彼、3組の村木くんだよ。サッカー部のレギュラーで結構モテる人なのにもったいないんじゃない? 友達になってもいいんじゃないの?」
「そーなの?」
他クラスに詳しくないので、彼が何者なのかは知らなかった。
というか、彼の名前は村木くんなのか。
木村くんじゃなかったわ。
「そーだよ。彼氏を作って魔法少女を卒業するんじゃなかったのー?」
「うーん、じゃあれいちゃんは私に彼氏ができちゃっていいの? 今みたいに毎日一緒に勉強できなくなるかもよ?」
質問を質問で返しちゃった。
でも、ちょっと気になってる。
女の友情と彼氏との恋愛。
どっちをとるのか……
「まほちゃんが好きな人と一緒になれるなら、私は全力で応援するよ」
「……ありがと」
優しい天使のようなレイナの回答に、私は恥ずかしくなった。
「でも、彼はあんまり好みじゃなかったんだよね」
「じゃー、しょうがないかー」
私の正直な意見に、レイナは同意してくれた。
やっぱりちゃんと好きな人を恋人にすべきよね?
なんて考えていると、レイナが私の顔を覗き込む。
「なに?」
「ねー、まほちゃんってどんな男の子が好きなの?」
そんな質問をされた。
少しだけ考えた末。
「うーん、私より強い人かなー」
と答えた。
「え? まほちゃんより強いとか無理くない?」
「あはは、面白い冗談だネ、マホヨちゃん」
幼馴染と使い魔に同時にツッコまれた。
なによ、あんたたち!
「どこかにいるかもしれないでしょ!」
「魔法少女やってる間は無理なんじゃない」
「というか、その条件だと魔法使いしか当てはまらないヨ」
「魔法使いかー」
魔法少女は魔法使い。
期間限定ではあるが。
だから仕事の中で魔法使いと出会う機会がたまーにある。
その出会いを活かして恋人を作るというのは、ありえない話ではない……のだけど。
「でもねー。魔法少女ってそのうち一般人に戻っちゃうからさ」
「そっか。魔法使いは魔法使いと結婚する決まりだっけ?」
「決まりじゃないけど、暗黙の了解になってるみたい。だから魔法少女みたいな期間限定の魔法使いは相手にされないよ」
私は肩をすくめて言った。
「じゃあ、駄目だね」
「どっかにいい人いないかなー」
そもそも今まで特に好きになった人がいないので、私には恋人と言われてもピンとこない。
「まほちゃんは理想が高いね」
レイナが苦笑する。
「じゃあさー、れいちゃんの好きな人ってどんな人なの?」
私は矛先を変えた。
「わたし?」
んー? と指に口を当てて首をかしげるレイナ。
可愛い。
ちなみに、レイナの答えはいつも決まっていて。
「まほちゃんみたいな、かっこいい人かなー☆」
私の手を握って、笑顔を向けてそんな事を言う親友。
毎回、こうやって誤魔化す。
「じゃあ、私もれいちゃんみたいな料理上手くて、優しい人がいい」
「両思いだー」
レイナが抱きついてくる。
といういつもの茶番。
「君たちはいつも仲良しだネー」
せっちゃんが「カー! カー!」笑う。
「二人はケンカなんてしたことがないんじゃないかイ?」
「そーでもないよ」
「そんなことないよ」
私とレイナは同時に首を振った。
「そう? ボクがマホヨちゃんの使い魔になって以来、二人がケンカをしたところなんて見たことがないけど」
「最近だとそうだけど、前にあったよね?」
「そうそう。確か幼稚園の時かな」
「昔過ぎないかナ?」
使い魔に呆れた声をだされる。
「喧嘩の原因ってなんだっけ?」
「うーん、なにか些細な問題だった気がするけど……」
私とレイナは二人して腕組みして考える。
そして私は思い出した。
同時にレイナもなにかを思い出した表情になった。
「「たしか私が他の子と仲良くしてたのを嫉妬したんだよね?」」
同時に同じことを言った。
「「え?」」
私とレイナは顔を見合わせる。
「違うよ。れいちゃんが、私が他のこと仲良くしてたら怒ってきたんだよ」
「ちょっと、記憶を捏造しないでー。まほちゃんが、私が他の子と喋ってるのを怒ったんでしょー」
「違うって。れいちゃんの記憶違い」
「覚えてるよー! まほちゃんが忘れてるんだって」
「「むむむむ……」」
私たちは睨み合った。
その時。
キーン……コーン……カーン……コーン
昼休みが終わるチャイムが聞こえた。
「昼休み終わったね」
「この続きは放課後かな」
「絶対に私の記憶が正しいから」
「私だよー。まほちゃんが間違ってる」
言い合っていると。
「君たちはずっと仲良しだったんだネー」
と使い魔に笑われた。
「じゃー、マホヨちゃん、レイナちゃん。午後の授業頑張ってネ」
使い魔はバサバサと羽ばたいて飛んでいった。
「じゃーねー、せっちゃん」
レイナが手を振っている。
「担当地域外の仕事持ってこないでよー!」
私は大声で釘をさした。
「それは約束できないネー!」
使い魔は不穏なことを言って飛んでいった。
「もどろっか、まほちゃん」
「うん、れいちゃん」
私とレイナは並んで教室に戻った。
幸い、その日は魔法少女の仕事は入らなかった。
ずっとこんな平和ならいいのになー。




