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【完結】魔法少女の卒業試練  作者: 大崎 アイル


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21/22

#21 怪人の王(後編)

◇赤沢アリアの回想◇


 私がまだ人間だった頃。


 生まれ育った米国(アメリカ)のとある田舎にある少し大きめの街で、私は魔法少女をやっていた。


 相棒で親友だった魔法少女とのコンビは無敵だった。


 悪いやつをバンバンやっつけて、警察と一緒にたくさん逮捕した。


 怪人もギャングも、私たちの前ではみんな雑魚だった。


 表彰をたくさんされて、新聞やネットニュースに載った数は百近いと思う。


 街のヒーロー扱いだった。


 楽しかった。

 

 だから親友の魔法少女とは「学校卒業するまで二人で魔法少女を続けようね☆」と約束していた。


 だから、同じクラスで『好きな人』ができたけど告白せずに胸に秘めていた。


 私が好きになった彼も、私に好意を持っていたと思う。


 けっこう積極的に話しかけてくれたし。


 二人で遊びに行ったことも何度もある。


 告白すれば、きっと恋人になれただろう。


 でも、恋人ができると魔法少女を卒業することになる。


 それはできない。


 親友との約束だから。


 そう思ってた。


 ()()()は。



「ごめんねー、アリア。私、彼氏ができちゃった☆」


 ある日、親友に彼氏を紹介された。


 親友の彼氏は『()()()()()()』だった。


「……な、なんで?」

「えー、だって彼氏欲しいじゃん? 普通に考えて」


「いや、でも魔法少女は……? どうするの?」 


()()()()?」

 あっさりと親友は言った。


「…………え?」

「ごめんねー、お先に卒業しちゃうけど。アリアはがんばってー」

 そう言うと『元』私の親友は、『私の好きだった人』と腕を組んで去ってしまった。



 残ったのは、バカ正直に約束を守っていたバカな女だった。



 それから一人になっても、バカみたいに魔法少女を続けて。


 バカなミスで、とある犯罪組織に捕まった。


 犯罪組織のリーダーは『悪い魔法使い』だった。


 魔法少女は、しょせん魔法使いの劣化版。


 ある日突然に一般人から魔法少女に選ばれるのではなく、生まれた時から魔法の知識を体系的に学んでいる本物の魔法使いには敵わない。


(ああ……私はここで死ぬんだ)


 捕まった時、そう覚悟した。


 怖かったけど、ちょっとホッとした。


 死ねば魔法少女ではなくなる。


 これで私も一般人に戻れ……。


「魔法少女を生け捕りにできたか……。よし、魔法少女を『怪人』にする実験体になってもらおう!」


「…………え?」


 私を掴まえた魔法使いは、魔法研究学者でもあった。


 危険な人体実験を繰り返して、魔法使い免許を剥奪された違法魔法使い。


「ふはははははっ! 実験は成功だ! 君は晴れて怪人になった! しかも上位怪人の『吸血鬼女王ヴァンパイア・クイーン』だ! 喜ぶがいい!」


「………………」

 喜ぶわけがない。


 でも不思議と恐怖はなかった。


 怪人になって価値観が人間の時とは変わってしまったのだろう。


 怪人になって私が最初にやったことは、私を怪人に改造した悪い魔法使いを殺したこと。


 そして、次にやったのは私を裏切った親友への復讐だった。


 魔法少女でなくなった元親友を捕らえるのは、簡単だった。


「お願い! 許して!! 私が悪かったから! タスケテ!!」

 必死で泣き叫ぶ声が心地よかった。


「ふふふ、いいざまね、抜け駆けして私の好きな人を奪って楽しかった? 私は一人でも戦い続けて、悪い魔法使いに捕まって怪人にされちゃったの? ねぇ、どう思う? 馬鹿みたいでしょ? 本当に最悪の気分。だから、この気持ちを元相棒の貴女にも分けてあげる」


「いやー! やめて! アリア! 酷いことしないで!! 私たち親友でしょ!」


「もとね。もう友達でもなんでもないわ」


「ヤメテー! タスケテエエエエエエエ!!!!」


 その悲鳴を聞きながら私は、溜飲を下げた。


 殺しはしなかったけど、トラウマを残させてやったと思う。


 いい気味だ。


 けど、そのあとがよくなかった。


 派手に暴れすぎて、軍隊が街にやってきた。


 それでなくても『魔法少女の怪人化』という醜聞は、国が隠したかったらしい。


 アメリカの魔術師部隊は優秀で、私はあっという間に追い詰められて四肢を切断された。


 それでも死ななかったのは、SS級怪人『吸血鬼女王(ヴァンパイアクイーン)』だったからだろう。


 しかし、一時的にほとんどの力を失った。


 私は、地下に潜んだ。


 吸血鬼は不死人の怪人。


 時間さえかければ、力を取り戻すことができる。


 表には出られない犯罪者たちの集団に紛れ、怪人と魔法の力が戻るのを待った。


 けど、力を取り戻したあとどうする?


 アメリカは、魔法軍の力が強い。


 特に世界最強の魔法部隊『ソーサラーフォース』に出てこられた、一個人の力ではどうしようもない。


 それこそどこかの魔女様の配下に入るしか……。


 その時、思い至ったのが自分の祖父の母国である日本のことだった。


 アメリカに比べると、魔法使いの教育には遅れていて、魔法使いの数も少ない。


 かわりに魔法少女の数は多いそうだけど、軍隊に比べたら大したことはないと聞いている。


 だから私は、日本にやってきた。


 途中まではよかった。


 先に下っ端を送り込み、拠点を確保。


 その後、吸血鬼の力の復活に必要な『乙女の血』のリストアップ。


 そして、あっさりと日本に入国して、若い女の一斉誘拐。

 

 日本の警察は、誘拐をしても何の声明を出さない誘拐犯の目的を測りかねて公開捜査に踏み切らなかった。


 おかげで発見は遅れ、私は大量の若い乙女の血によって復活できた。


 ああ、これでもう自由だ。


 あとは、東京で怪人として活動するか。


 それとも、再び海外へ高跳びするか。


 日本の警察や魔法少女たちのぬるさは好都合だけど、日本はアメリカの同盟国。


 あまり派手に名前を売ると、米国から魔法部隊が送り込まれる危険がある。


(もうすこしだけ日本で適当に遊んだら、あとはアメリカが介入してこなさそうな辺境の国にでも行こうかな~)



 そう思っていた。


 のんきに考えてた。

 

 だってそうでしょ?


 日本は防衛意識の低いヌルい国なんだから。


 だから――こんなのは()()()()()()




「な、なんなの……? これは……」


 私は呆然と呟いた。


 光の魔法少女の周囲を黄金の魔力が覆っている。


 私が過去会ったどんな魔法使いよりも馬鹿げた魔力量。


 アメリカ軍の魔術師部隊全員分よりも巨大な魔力の塊。


 人は多いけど強い魔法少女がいない東京。


 東京で一番強い魔法少女は、太陽の光がないと十分な力を振るえない欠陥品。


 そう聞いていた……なのに。



「ば、化け物……」



 かつて私を追い詰めた米軍の魔法中隊が霞んでしまうような、馬鹿げた魔力。


 光の魔法少女(マギ・サンシャイン)


(こんなのが居るって知ってたら、さっさと東京を離れていたのに……っ!)


 いや、遅くはない。


 はやく、こいつから逃げて……。


「じゃ、いっくわよー☆」

「っ!?」

 

 光の魔法少女の姿が消えて――私の目の前に現れた。


「歯ぁ、食いしばれ! 太陽魔法光り輝くパンチ(シャイニングパンチ)!」

「かはっ!」

 私の右腕が消し飛んだ。


 吸血鬼は不死者のため、痛みは感じない。

 

 が、魔力をごっそり削られたのを感じた。


「付き合ってられるか! 空間転移(テレポート)!!」


 私は魔法を使って約三キロの距離を跳躍した。


 私のテレポートではこの距離が限界。


 それでもあの化け物みたいな魔法少女とは距離が取れたはず……


「くらいなさい! 太陽魔法降り注ぐ光の矢レインオブライトアロー


「へ……? きゃあああああ!!」


 空から千本以上の光の矢が降ってきた。


 光の矢が次々に私の身体を貫く。


 吸血鬼の身体は不死身だけど、太陽魔法だと少しずつ魔力ごと削られていく。


 しかも、とんでもない数だ。


(に、逃げないと……!)


 このままでは殺される。


 決して死なないはずの不死身の怪人『吸血鬼』。


 しかし、太陽属性の魔法には弱い。


「て、テレポ……」

 私が魔法を発動する前に。


 がしっ! と私の腕を掴まれた。


「どこに逃げる気?」

 優しく微笑む光の魔法少女が私には悪魔に見えた。


「た、助け……」

「か弱い女の子を誘拐しといて、何言ってんの?」

 全身から優しい黄金の光を放ちながら、氷のように冷たい視線が私に突き刺さる。


「ひっ……」

 気がつくと、震えながら恐怖に声が漏れていた。


 その屈辱を感じる暇もなく。


「いくわよーー!!!」

 左手で私の腕を掴み、右手を大きく振り上げる光の魔法少女。


 その拳には太陽の魔力が昇華し、神聖な霊気となって眩く光輝している。


(あ、あんなのに殴られたら、消滅しちゃう!!)


 私は必死でもがいた。


鮮血の爪(クリムゾンクロウ)!!」 

 吸血鬼にとって命そのものである血液を魔法で武器に変え、至近距離から斬りつける。


 私の全力を魔力を込めた不意打ちの魔法。


 さすがの光の魔法少女でも避けられず、私の真紅の爪が白い肌に食い込み



 ――パキン……



 食い込む前に、私の魔法の爪は()()()()()


「…………は? え?」

 全力の魔法だった。


 これ以上ないくらいに、相手の不意をついたはずが。


 その時の私は光の魔法少女の身体は常時『光の結界(ライトバリア)』で守られており、()()()()の魔法攻撃は全て通じないということを知らなかった。


 聖級魔法は、人類魔法使いの最高到達点である。


 それより上は神の領域。


 人外にならなければ、たどり着けない。


 光の魔法少女は『人外(それ)』だった。


 怪人になって、人よりも強くなったと、無邪気にはしゃいでいた私よりも遥か高い頂。


 要するに、目の前の魔法少女は正真正銘の化け物だったのだ。



聖なる一撃(ホーリーストライク)!!!!」

 

 

 魔法少女の声と共に、巨大な拳が私にゆっくりと迫る。


 走馬灯だった。



(あ、これ……死んだ)

 


 不死者のはずの吸血鬼女王(わたし)は確信した。


 あの聖なる拳が私に届いたら、間違いなく私は消滅する。


 しかし、私は腕を掴まれていて逃げることはできない。


 ここで終わりだ。


 その時の私の脳裏に浮かんだのは一つだけだった。


 

(……日本になんて……来るんじゃ、なかった……)



 次の瞬間とてつもない衝撃が私を襲い、私の意識は光に飲まれて消えた。

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― 新着の感想 ―
チート過ぎw どこかの勇者さんこんなに強いイメージなかったけど、相手が悪すぎたのかなー?
無効する程度が高過ぎぃ!? 同情できるくらいの事情があった吸血鬼ちゃんが哀れになってきたよ…………。 死ななそうだけど。
聖級以下無効って……
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