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#19 怪人の王(前半)

 ――数時間前、渋谷。



「それじゃあ、行ってくるね、マホヨ」

 とある商業ビルの屋上。


 いつもの明るい笑顔でヒメノは、私に手を振って囮捜査に向かおうとした。


「待って、ヒメノ!」

「どうしたの? マホヨ」

 私はヒメノを呼び止めた。


 一人で犯罪組織に潜入しようとするヒメノの後ろ姿を見て、急に嫌な予感がした。


 このまま去らせちゃいけない、そんな気がした。


「…………?」

 きょとんとした表情で覗き込むヒメノ。


 何を言うべきか、迷っている私。

 しばし、無言が続いて。


 よし! 決めた。


「ヒメノ、私と()()しよう!」

「…………へ?」

 私が言うと、ヒメノ目が真ん丸になった。




 ◇◇◇




 ――魔法の契約。




 それは魔法少女特有の能力ではなく、魔法使いの技術。

 

 契約をすると『相応のリスクを支払うこと』で通常よりも魔法の効果を上げることができる魔法使いの切り札。


 魔法少女同士で契約をすると、通常は数キロ範囲でしか使えない念話の範囲が大幅に広がる。


 さらに二人で力を合わせた『合体魔法』が使えるようになるらしい。


 私の太陽魔法とヒメノの月魔法の合体魔法ってどうなるんだろ?


 ちょっと、よくわからない。


 とにかく、魔法少女は単独(ソロ)で活動するより契約で部隊(パーティー)を組んだほうが戦力が上がる。


 だから、ある程度中堅の魔法少女は何人からの部隊(パーティー)を組む場合が多い。

 

 でも、私とヒメノはずっと単独(ソロ)で活動してきた。


 その理由はもちろんあって。


「あのさ……マホヨ。あんた()()()()()()、わかってるんでしょ?」


「もちろん知ってるわよ。魔法少女同士で契約をすると、その力は一蓮托生。どちらか一方が魔法少女の力を失うと、契約をしている()()()()()()が魔法少女の能力を失って一般人に戻る」


 これが契約のリスク。

 

「マホヨ、魅惑の魔法少女(わたし)は犯罪組織に単独で潜入してるのよ? しかも戦闘系魔法は全然使えないし……。もしも私が死んで魔法少女の力を失ったら、マホヨも光の魔法少女じゃなくなっちゃうんだよ!?」


 魔法少女は、怪人に殺されても本当に死んでしまうことはない。

 だけど、一度死ぬと魔法少女の力は失ってしまう。 


()()()、それで」

「…………」

 私は断言した。


 大切な友達が危険な場所に行くのを黙って見送って、もし何か起きたなら私は自分を許せない。

 私も、相応のリスクを負うべきだ。


「あきれた……、そんなんじゃ迂闊に私は危険なことできないし」

「ちょうどいいじゃない。そろそろ落ち着きなさいよ」

 ヒメノは緊張感(スリル)を追いすぎる傾向があるし。

 思いとどまってくれるなら、それもいい。


「わかったわ。じゃあ、契約だけど……使い魔がいないとできないんじゃなかったっけ? うちの使い魔のスノウくんは家に居るから無理よ?」

「それなら大丈夫。そろそろ来るはずだから」


 実はこっそり、魔法の手鏡で使い魔のせっちゃんに声をかけていた。

 おそらくそろそろ……。



「マホヨちゃんー! もうー、使い魔使いが荒いナー! 急に呼び出すから急いで来たヨー!」

 


 白い大きなカラスが、凄いスピードでやってきた。

 使い魔のせっちゃんだ。

 調布の私の部屋から急ぎで来てくれた。


「ありがとうね、せっちゃん」

「ボクはマホヨちゃんの相棒だからネー。にしても、今さら他の魔法少女と契約するなんてどんな風の吹き回しだイ?」


「レイナを見つけるためよ。手段は選べないの」

「なるほどネ」

 納得したように頷くせっちゃんは、バサバサと器用に空中でホバリングしている。

 カラスってそんな飛び方できたっけ?


「ひさしぶりー、せいやー。相変わらず綺麗な白い羽ー」

 ヒメノがせっちゃんの白い羽を撫でる。


「ヒメノちゃん、久しぶりだネ。君がマホヨちゃんの契約相手カー。確かに、東京じゃ二人がエースだもんネ。マホヨちゃんの相棒として相応しいネ」


「ほら、挨拶は今度。ちゃっちゃと、契約しちゃいましょ!」

 私は使い魔を急かした。


「ハーイ、じゃあ契約を進めちゃおウ。本来は契約内容の確認や、リスクの読み合わせがあるんだけど二人はもう把握しているよネ?」


「私は大丈夫」

「私も理解してる」

 私たちは小さくうなずく。


「リョーカイ。じゃあ、あとは魔法少女同士の契約は『姉』と『妹』を決めないといけないんだけど、どっちがどっちなんだイ?」


「あね……?」

「いもうと……?」

 私とヒメノは顔を見合わせた。


 そーいえばそんな規則(ルール)だっけ?

 決めてなかったなー?


「本来は魔法使いの『(マスター)』と『(サーヴァント)』の契約を魔法少女用にアレンジしたものだからね。一応、どちらが主かを決めておく必要があるんだ」


「どうする、ヒメノ?」

「マホヨが姉ね」


「ええー、なんでー!?」

「誕生日が先でしょ。私3月生まれだし」

「むぅ……」

 私は5月生まれ。


 まぁ、無理に反対する理由もないかぁ~。 


「わかったよ。せっちゃん、私が姉ね」

「了解だヨ。次にマホヨちゃんとヒメノちゃんは手を取っテ」


「はーい」

「ほい」

 特に躊躇せずお互いの手を掴み合う。


 指と指が交互に絡む『恋人繋ぎ』になった。


 ……なんか気恥ずかしい。



「じゃあ、始めようカ」

 

 私たちの周囲を、使い魔のせっちゃんがゆっくりと旋回する。


 白カラスであるせっちゃんの羽が輝き、輝く羽が周囲を舞っている。


 そして、周囲が光の羽に包まれた時、せっちゃんはこちらを見下ろして言った。



 ――光の魔法少女(マギ・サンシャイン)牧真マホヨ


 ――魅惑の魔法少女(マギ・チャーム)桃宮ヒメノ



「「はい」」

 私とヒメノは同時に返事をする。


 せっちゃんは、なおも粛々と語る



――平和な時も、乱世である時も


――喜びの瞬間も、悲しみの瞬間も


――幸せな時も、不幸な時も


――互いを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い


――その命が続く限り、心から尽くすことを誓いますか?



(なんか重くない……?)


 私は『契約の言葉』に若干の違和感を覚えたんだけど……。


「はい……」

 ヒメノは特に気にすることなく、返事をしている。

 私も続けて「はい」と返事をした。


「では、両者一歩前へ」

 せっちゃんに言われるまま、私はヒメノのほうへ一歩踏み出す。

 ヒメノもこっちに近づくので、密着する間近くらいの距離。




「あとは『誓いの()()』で契約は完了だヨ」




「「え"???」」

 びっくりして変な声が出た。


 いま、なんて言ったの?

 誓いの()()


「それ本当に要るの!?」

「知り合いに何人か契約している子がいるけど、キスするなんて聞いたことないんですけど!?」

 私とヒメノが早口でせっちゃんに問いただした。


「んー、でも契約の効果って効き始めるまでに時間差があるから、さっきの『契約の言葉』は一番格式高いやつにしたし、『契約の証』は『捺印』『血印』『握手』とか色々あるけど、『誓いのキス』が一番効果が高くて早いヨ? 今回は急ぎなんだよネ?」


「「…………」」

 一応、理にはかなっている。

 今回は緊急事態。


 効果が早い方がいいに決まってる。

 せっちゃんが正しい。


 真正面では、「うーん……」と目を泳がせているヒメノ。

 多分、私も同じような顔をしているだろう。


 いや、でも悩んでいる時間はない。


「よし! やるよ、ヒメノ!」

「マホヨ、本気!? ちょっと待って、心の準備が……」


「じゃあ、待つ」

 私はヒメノの準備ができるのを待った。


 うーん、でも真正面で見つめ合ったままのほうが照れくさいけど。


 勢いでやっちゃったほうが楽じゃないかな?


「すーはー、よし! いいよ! マホヨ!」

 もういいんだ。

 じゃあ……。


「ヒメノ……」

「マホヨ……」

 私が顔を近づけると、人形のように整った顔のヒメノが少し頬を染めて目を閉じた。


 私は桃色の唇にそっと、口づけした。


  

 パアアアアアッ! と私たちの周囲を光が覆った。

 


「契約は完了だヨ! 光の魔法少女(マギ・サンシャイン)魅惑の魔法少女(マギ・チャーム)は、『義姉妹(シスター)』の契約を締結したヨ! これで二人は一蓮托生だネ!」

 

「ありがとう、せっちゃん、ヒメノ! じゃあ、これから誘拐事件の捜査に戻……って、ヒメノ? どうしたの?」


「…………マホヨってさぁー。余韻とかないわけ?」

「…………?」

 ヒメノの機嫌が悪い。


 私なにかしたっけ?

 いや、キスはしたんだけど。

 それは両者合意してだし。


「ヒメノちゃん。マホヨちゃんは、こーいう性格だよ」

「そうね、知ってた」

 せっちゃんとヒメノが何やらわかり合っている。

 なに? なんなのよ。


「じゃあ、行ってくるね」


 そう言ってヒメノは渋谷の街に消えていった。


 それが今日の昼過ぎの話。



 ◇◇◇



 ――現在。


 私は奥多摩の山の中で、魔法の箒に乗って周囲を見回している。


 夜の10時過ぎとなると周囲は真っ暗だ。


 太陽の光は無いので、魔力は一切無駄にできない。


 私はもう一度、スマホの画面に視線を落とした。


 赤い点滅は見えなくなっている。


 GPS発信機が見つかったか、もしくは電波を遮断するような結界魔法の張られた場所に連れ込まれたか。


 一つだけはっきりしているのは……


(まだヒメノが死んだわけじゃない)


 もしそうなら、私の魔法少女の力が無くなっているはず。

 だからヒメノはまだ無事だ。


 でも、猶予はない。

 

(ヒメノ……聞こえる? 返事して)


 契約によって念話の範囲は、大きくなった。

 少なくとも都内全域くらいならカバーしているはず。


 けど、ヒメノから返事はなかった。

 なら次の方法。


(魔力を大分使っちゃうけど……)


魔法少女共通魔法(コモンマジック)魔法の追跡(マジックトラッキング)


 私は魔法を発動した。

 これは自分の魔力が宿った物を探し出す魔法。

 念話と同じく本来なら数キロくらいしか使えないけど、契約をしたヒメノを対象とすれば……



(見つけた!!!)



 正面からやや左。


 山の中腹あたりに反応があった。


 私ははやる気持ちを抑えて、ゆっくりと迂回するように目的地を目指す。


 ここが犯罪組織の拠点だとしたら、おそらく罠が張られているはず。


 地上から向かうは論外。


 魔法の箒でも、低空は危ない。


 そこで一度上空高くへ上がり、目的地の真上から下降することにした。


 上空からは遠くに、東京の夜景が見える。


(そうだ、警察に伝えておかないと)


 夜景の光を見て思い出した。


 幸いスマートフォンの電波は届いたので、公安の山田さんへ位置情報を送る。


 すぐに既読がつき「そちらへ人を向かわせます」という返事があった。


(よし……これであとは突入するだけ)


 ふと空を見上げると大きな『満月』が、浮かんでいた。


 レイナ……、ヒメノ……、待ってて。


 私はスマートフォンを仕舞い犯罪組織の拠点へと侵入を開始した。




 ◇◇◇




(……ここかな?)


 太陽魔法・光の蜃気楼(ライトミラージュ)で姿を見えづらくして、私は真っ暗な山中に降り立った。


 ちなみにヒメノの魔力反応は山の中――つまり地下からだった。


 建物もないのに? と疑問に思ったが、ちょうど目の前には大きな洞窟の入口があった。


 魔力反応は洞窟の奥にある。


 おそらくここが敵の拠点。


(よし、入ろう)


 私は魔法の箒を仕舞い、ゆっくりと洞窟内に足を踏み入れた。

 

 自然そのままの外観と違い、洞窟の中を少し歩くと地面や壁が、まっすぐに整備された明らかな人工の内装になっていた。 


 奥にすすむと階段があった。


 ヒメノの魔力反応はそこから。


(罠……だろうなぁ)


 わかっていても戻るという選択肢はない。


 私は覚悟を決めて、階段を降りた。


 おそらく3階分くらいの階段を降りると、そこは広い体育館のような場所にでた。


 うっすらと明かりがついていて、中を見回す。


「っ!?」

 そこに大勢の女の子たちが寝転がっている。


 いくつか顔に見覚えがあった。 


 警察の会議で映っていた、誘拐された女の子たちだ。


 ということは……


「レイナ!?」

 私は親友の姿を見つけ、駆け寄る。


 地面に倒れているレイナをそっと抱き上げた。


 身体は温かい。


 胸はわずかに上下している。


 目立った外傷もない。


「す~……」

 わずかに呼吸音が聞こえた。


 うん、大丈夫。


 まわりを確認すると、他の女の子たちも寝ているだけのように思う。



 でも、その中に……桃宮ヒメノはいなかった。


(……どこ?)


 魔力反応はすぐ近く。


 だから近くに要るはずなんだけど。

 


 その時――




「ようこそ、東京都最強の魔法少女マホヨさん」




 ハスキーな声の女の子から名前を呼ばれた。


 振り返る前に気づく。


 声に魔力(マナ)が乗っている。


 ぞわりとする、背中に刃物を当てられてたような感覚。


(ああ……でたか)

 

 振り返るとそこには、煤けた灰色の髪に、鮮やかな赤目のぞっとするほど容姿が整った、人間離れした美少女が空中に腰かけていた。 


 見覚えがある。

 公安の山田さんに写真で見せてもらった顔だ。


「…………赤沢アリア」


「あら? 私のこと知ってくれているのね」


 優雅に微笑む彼女は、自身を偽ることもしなかった。



 海外の犯罪組織の首領。


 誘拐事件の指示者。


 そして、ランクS怪人――吸血鬼(ヴァンパイア)


 吸血鬼は、他の怪人とは一線を画する。


 それゆえ、このように呼ばれることがある――『怪人の王』と。



 今回の事件の黒幕が、ついに姿を現した。


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― 新着の感想 ―
頭の中で「Vampire Killer」が鳴り響いた 鞭と聖水を持ったおっさんがやって来る
ヒメノってさぁー。余韻とかないわけ? > 「マホヨ」の間違いなのか、自身に対する呼び方が変わっていないことへの文句なのか………。 余韻が云々言ってるから前者の気はするけど、ヒメノヒメノ、とふたつ続けさ…
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