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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今、私はそこにいる

作者: 宿木ミル

 頭にゴーグルみたいな被り物。

 腕にはコントローラー。

 全身には私の動きを同調させるトラッキング装置。

 友人からもらったVR器具を身に着けた私は、新しい世界に踏み出す一歩を得たのかもしれない。


「……まさか、お古を譲ってくれるなんてね」


 最新機種を追い求める友達のスミレが、VR友達が欲しいという理由で私に装置をくれたときは本当に驚いた。

 彼女曰く……


『アカネちゃんが持ってるパソコンなら、問題なく動くよ! やり方も纏めといたから、これ読めばわかるよ!』


 だそうで。なんていうか適当だ。

 値段について尋ねようとしたものの、それを聞こうとした瞬間、露骨にスミレの目が泳いだのでそっとしておくことにした。きっと高いのだろう。


「よし、入ってみよう」


 電源を付けて、VRの世界に突入する。

 なにげないメニュー画面からゲームを立ち上げ、仮想空間へと繋がっていく。

 立ち上げそのものは普通のゲームと変わらないか。

 読み込み時間が終わり、仮想空間が私の目の前に広がる。


「わぁ……」


 そこにあったのはどこか近未来的な家だった。

 青いライトが部屋を照らす。

 窓を見ると宇宙の光景。

 普段の日常では見られないような不思議な光景だ。


「綺麗」


 右手を伸ばしてみると、自分のアバターが連動して動いた。

 凄い、本格的だ。色々つけているから当然だけれども。


「あれは、鏡?」


 少し遠くを見つめてみると、そこには全身を写し取れるような鏡が存在していた。

 アバターの設定は行っているし、色々調整したから、どんな容姿かは知っている。だから、そんなに違和感を感じることはないだろうと思っていた。

 だけれども……


「想像以上に違う、かも」


 鏡に映ったアバターの姿を見て、不思議な違和感を感じた。

 実際の現実世界の私はちんちくりんの小さい子なんてよく言われる。身体の凹凸もそんなにないし、身長だってそんなに大きくない。

 一方で、私が趣味を兼ねて作ったアバターはどうなっているかというと、お姉さん系の体格だ。

 身体にしっかりとした凹凸があり、身長も175cmくらい。ゆったりした雰囲気が印象的なロングヘアーにしている。服装はゴスロリ風ファッション。これも現実だとちょっと勇気がいるものだ。

 趣味に走って作った、比較的自分の好みに合わせた形のアバターなのだけれども、それに私がなっているという感覚がとても不思議だ。

 ふと、顔を下に向けてみる。

 そこには普段の私では感じることのできないような大きさの二つのふくらみがあった。


「……なんだか、別の世界が見える」


 これが疑似体験でVRなことはわかっている。

 だけれども、普段の自分では感じることのできないような感覚を知ることができるのは貴重だ。

 アバターを移動させると、ほどほどな感じに胸も揺れるのでよくできている。


「ぶいっ」


 ふと、笑顔になりながら、ピースをしてみる。

 きっちりアバターは応じてくれて、笑顔のピースを私の動きに合わせてやってくれた。


「足も上がるのかな……?」


 膝を曲げて、上にあげると、しっかり答えてくれる。

 足を動かしてクロスさせても、ちゃんと対応してくれる。

 お古だって言ってるけれど、その性能は伊達ではない。


「えへへっ」


 指をほほにつつかせて、笑ってみる。

 かわいい。

 とってもかわいい。

 流石に自分の好みに合わせて作ったアバターなだけある。凄くいい。


「……あれ?」


 ふとした時、フレンドから招待が来ていることに気が付いた。

 私はVRに触れて少しの人間。まだ、見知らぬ交友関係はない。つまり、この招待は私の友達、スミレのものだろう。


「行ってみよっか」


 システムの案内に導かれながら、私は友達の招待を受け取ることにした。

 彼女が招待した仮装世界にはどんなことが待っているのだろうか。わくわくしながら移動していった。





「ここは……」


 移動した先、私が到達したのはログハウスでできた家だった。

 少し移動して、外を見てみる。


「海なんだ」


 空は青く澄みわたり、浜辺には海が広がっている。

 波の音が立体的に聞こえて、本格的な夏を感じさせる。ぼんやり耳を澄ませると、カモメの声が聞こえてきたりして雰囲気がいい。


「案内してきたってことは、きっとスミレもいると思うけど……」


 ログハウスの家……つまり、海の家の中をまっすぐ見つめて探してみる。

 なかなか見つからない。

 もしかして、もう海にいたりするのだろうか。

 ぼんやり一息つこうとした時だった。


「つっかまーえたっ」


 何者かが後ろから手が伸びて、私のアバターを掴んできた。

 一瞬びっくりしたものの、その声の感じで誰かはすぐにわかった。


「スミレ、びっくりしたじゃない」

「ごめんね~」


 振り向いて、スミレのアバターを探す。

 まっすぐだと見えない……?


「ちょっと視線落としてみてっ」

「こう?」


 首を下に傾けてみる。

 そこには控えめな身長のかわいらしい女の子のアバターが、存在していた。


「え、そのアバターがスミレなの?」

「そうだよ?」

「現実とは随分違う……」

「お互いさまっ」


 現実世界のスミレは、平均的な女子の身長よりも大きめだったりする。

 スタイルもいいし、私からしても羨ましいと思うことは多い。そんな彼女は私とは逆に小さいアバターを使っている。

 なんていうか、やっぱり不思議だ。


「ところで、アカネはなんでそんなにばいんばいんなの?」

「……そういうの、好きだから」

「あはは、だよね。好きっていうのは大切」

「じゃあ、なんでスミレはそんなに小さくしてるの?」

「わかりやすく言えば、未知の体験がしたいからかな」

「未知の体験?」

「ふふふっ」


 少し笑ったかと思うと、彼女は私に頭を差し出してきた。

 顔を下に向けて、なにかに期待したような雰囲気。


「なでなでしてほしいなーって」

「えっ?」

「ほら、今のアカネならすってできるでしょ?」


 期待されているので、とりあえず、そっと手を差し伸べてみる。

 自然な感じになるように頭に手を添える。そして、なでなで……


「背が高い子にね、なでてもらうのやってもらうのとか憧れてたの」

「私がスミレと会った時はもう、身長差があったものね」

「うん。成長が早くって、こういうことしてもらう機会がなくなっちゃってたから」

「なるほど」


 なでなですると幸せそうな表情になる。

 実際の表情に応じてアバターの顔も動く機能が強いVRを手に入れたと言ってたけれど、ここまでわかりやすいと嬉しくなる。


「極楽……」

「そんなに?」

「んー、なんていうかね、普段の私って不思議とお姉さんーって役割になりがちだからさ。こういう……甘えられる瞬間っていいなぁって思うの」

「気が済むまでやろうか?」

「ずっとなでなでしてもらっちゃうから、今日はここまで。あ、でももう一つやってほしいことがあるかも?」

「なに?」

「えっとね」


 両手を構えて、伸びの姿勢になるスミレのアバター。

 上を向きながら、次はわくわくしたような表情になっている。


「だっこしてほしいの」

「この空間でできるの?」

「機能入れたからいけるよ?」

「没入感とかあるかな」

「ふっふっふ、やってみればわかる」


 とりあえず、その言葉を信じて私は彼女のアバターを両手で持ち上げてみた。

 私の両手に小さなスミレのアバターが支えられて上にあがる。


「おぉぉ、浮遊感……!」

「他人を持ち上げるのなんて斬新な感覚」

「普段の私は重いから、こういうことできないんだよね、ありがとう!」

「身長が大きいから、重いだけだよ。気にしないでいいと思う」

「そう言ってくれてありがと! 嬉しいな!」


 ニコニコした表情のまま、私に支えられる彼女。

 とても楽しそうな雰囲気を感じさせられる。

 少し堪能したのち、私はスミレを落とした。


「触られた箇所に刺激を与える装置、みたいなのもあるんだけどそういうのは買ってないんだ」

「どうして?」

「高いからね……」

「それは仕方ないか」


 経済的な面で致し方ない部分というのはいくつかあるだろう。

 スミレは経済的に結構余裕がある方なので、お金の使い方は派手だけれども堅実な部分もある。


「でもね、VRって不思議なもので、実際に触れられてないのに触れられてる感覚になったりすることってあるんだよ?」

「例えばどんな?」

「こういうのとか……」


 そう言葉にした瞬間、私のアバターの胸元にスミレは掌を乗せてきた。


「ひゃっ……」


 瞬間、びくっとして声が出てきてしまった。

 そこまで大きいものをもっているわけではないのに、実際に胸元に掌を添えられているような感じがした。


「そう、これが人間の神秘」

「……変態っぽいけど」

「距離感についてもなかなか面白いんだよね。ちょっと屈ませてみて?」

「うん」


 アバターを屈ませて、視線を合わせる。

 そうした瞬間、今度はスミレが顔の付近に自身のアバターの顔をくっつけてきた。


「ち、近い近い」

「こういう距離だと、不思議にドキドキするっしょ? 壁に追い詰められたりした時とかもどきってするんだよ?」

「それは現実でも同じ気がするけど」

「異なる視点で物事を見れるっていうのは大きいと思うの。現実のアカネにこういう距離されてもかわいいなぁとかが大きくなるけど、こっちのアカネの場合どきどきする、みたいな」

「自分ではない自分の目線で色んなものが見れるってこと?」

「そうそう、そういうことっ」


 笑顔で見つめる彼女のアバター。

 普段通りの彼女の姿の面影を見せながらも、新しい一面が見えるというのはなかなかに楽しい。

 そんな雑談を繰り広げていたら、彼女のアバターの衣装がスクール水着になっていた。


「さて、泳ごうよ、アカネちゃん」

「えっ、私のアバターに水着ってあったっけ」

「お願いされたときにささって入れといた」

「流石……」


 メニューを開いて、衣装を変更する。

 私の水着はビキニタイプのものだった。凄く大人っぽい。

 ふと、視線を下に向けると、スタイルの良さが全身から感じ取れた。


「自分の身体をまじまじと見ちゃうのもVRの醍醐味だよねっ」

「人にその光景見られるのは恥ずかしいけど……」

「いいじゃない、私とアカネの仲なんだからっ」

「それもそっか」


 海の家を抜け出して、浜辺に足を運ぶ。

 そうしたあと、スミレはカメラを取り出した。


「VR版、夏の思い出~!」

「現実はまだ、夏じゃないけどね」

「だからこそ、写真を撮るの! こっちの夏も楽しいからね」

「立場も逆転してるのは楽しいかも」

「現実の夏が来た時、こっちの写真と見比べてみるのも面白いと思う!」

「やってみよっか」

「うん!」


 笑顔になりながら、ふたりで写真を撮っていく。

 水しぶきをあげて、笑いあう瞬間。

 浜辺でくつろぐ時間。

 仮想空間でも、楽しいひとときは変わらない。なぜならば、私が自分の意思で存在しているのだから。


「すみれ、私にVRを触れさせてくれてありがとね。今度も使ってみる」

「どういたしまして! でも、実際にも会って話とかしようね」

「その時は、VRの時とは逆になでなででもしてもらおうかな」

「ふふっ、付き合うよ、アカネっ」


 現実もVRもいっぱい思い出を作ることができる。

 友達との楽しい出来事をこれからもいっぱい増やしていこう。

 笑顔いっぱいの光景を見つめながら、そう思った。

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