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8話 もしかして、匂う?

(なーんか、これ、おかしくない……?)


 彩良は馬の背に揺られながら、黒毛の馬で少し前を駆けているジェニールを恨めしく見やった。


(あたし一応、女の子よ? 馬に乗るなら横座りさせてくれるのが普通じゃないの?)


 現在、彩良は手足を拘束されてマントに包まれ、イモ虫のように馬の背にぶら下げられていた――。




***




 ひと月半のサバイバル生活を乗り切り、人間と出会えたことでイベント発生。

 いまいち乗り気になれないキャラの登場となったが、とにかく顔はいいので贅沢は言わないことにした。


 ――が、ついていくと決めた以上、彩良が暴れるはずもないのに、真っ先に手足をロープで縛られ、まるで荷物のように馬の上に乗せられたのだ。


「せめて何か着させてくれ」と散々わめいた結果、彩良を積んでいた兵士がマントを脱いでそれに包んでくれた。


 もっともそこに『かわいそうに』などという(あわ)れみはなく、単にギャアギャア騒ぐ彩良を黙らせたかっただけのことらしい。


 そうでなくても、彩良を押し付けられたその兵士は非常に迷惑そうな顔をしていたのだ。

 素っ裸の女子高生を抱っこして、鼻の下を伸ばすのならまだしも(それもイヤだけど)、まるで汚いものを扱うかのように、なるべく触らないように気をつけている。


 どうやらこの中では一番下っぱの兵士らしく、汚れ仕事を押し付けられたといった感じだ。


(……あれ? もしかして、あたし、クサい?)


 先ほど洗濯の前に川で身体は洗ったのだが、なにせシャンプーも石鹸もないのだ。この一か月半で染みついた匂いは取れていないのかもしれない。


(だったら、ちょっと申し訳ない気が……。ウルたちは喜んでペロペロしてくれてたけど、人間にはキツイわよね)


 まるで引っ立てられる罪人のような扱いだが、今は仕方ないとおとなしくしていることにした。




***




 パカパカという馬の(ひづめ)の音を聞きながら、見えるのは馬のお腹だけだ。頭に血が上りそうになるので、時々首を起こさなければならない。


 そんな時に見える景色は、道の左右に広がる小麦のような植物が生えた畑。小さな集落がポツリポツリと点在しているのも見える。

 その遥か遠くには険しい山が連なり、赤い夕陽がその向こうに沈んでいく。

 のどかなヨーロッパの田園風景のようだ。


 後ろを振り返れば、先ほどまで彩良がいた森のこんもりと茂る木々が広がっている。そして、この一行が向かう先には城壁に囲まれた街。


 近づけば近づくほどそれが街というより大きな城塞都市だということがわかる。高い城壁の周りには濠がめぐらされ、一本かけられた橋を渡って中に入れるようになっていた。


 その荘厳な石造りの門には兵士が二人立っていたが、特に止められることもなく騎馬のまま門に入っていく。


 短いトンネルを抜けるとそこは馬車や人が歩く石畳の道になっていた。


(おお、けっこうにぎわってる街じゃないの。こんなに人間を見るのは久しぶりよ)


「きゃあ、ジェニール様よ!」という女性たちの悲鳴のような歓声が聞こえてきて、彩良は辺りを見回した。


 沿道で若い女性たちがうっとりした顔でジェニールが馬で通り過ぎるのを見送っている。手を振る彼女たちにジェニールは素敵な笑顔で応じていた。


(いやぁ、うん、わかるよー。これだけのイケメンだったら、アイドル的人気者で女の子たちにキャアキャア言われちゃうの)


 さすがメイン級キャラってものだわ、と彩良は感心しながら眺めていた。


 門から続くその一直線の道はメインストリートらしく、道沿いにはさまざまな商店が並んでいる。この異世界にどんなものが売られているのか、彩良は端から見て歩きたい衝動にかられてしまう。

 それに夕食時が近いのか、いろいろな料理の香りが漂ってきて鼻孔をくすぐる。


(今夜は久しぶりに『料理』が食べられるかしらねー)


 朝に果物を食べただけなので、食事の匂いが刺激になってお腹がグウグウと鳴り始めていた。


 この一行はいったいどこまで行くのだろうと思っていると、わずかに傾斜しているメインストリートをさらにまっすぐ上って行き、高台にある壮大な門にたどり着いた。


 金で装飾が施された錬鉄(れんてつ)の門の向こうには、広場を囲むようにコの字型の建物が見える。その大きさといい、彫刻の並ぶ外壁といい、まさしく『王宮』と呼ぶにふさわしい。


 衛兵の開く門をくぐり、ジェニールを先頭に広場を突っ切って、建物の正面まで闊歩(かっぽ)していく。


 そこで出迎えたのは黒いローブ姿の中年男だった。


「お帰りなさいませ」と深々と頭を下げる。


「殿下、この度の魔物討伐、ご苦労様でした。陛下がひと言労いたいとお部屋でお待ちです」


「すぐに参ろう」と、返事をしたのはジェニールだった。


(おお、『殿下』!? 見たまんま、ジェニールって王子様だったんじゃないのー!!)


 しかも、魔物討伐の責任者らしいので、『勇者』と同じだ。


 予想通りの展開に彩良が一人、ムフフと笑っていると、振り返ったジェニールと目が合った。


(もしかして、あたしも連れて行って王様に紹介しちゃったりするのかしら? 新しい仲間を見つけましたって)


「この汚いのは、使用人に洗うように命じておけ」


 期待を大きくはずした冷たい言葉に彩良は撃沈した。


(……うん、しょうがないわよね。さすがにこのまま王様の前に出るわけにはいかないもん)

彩良が王宮に来たところで、次話、別キャラの視点になります。

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